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「テオン・フォンセカ。私の娘の純潔を九十九日以内に散らしてくれたらあなたの後ろ盾になってあげるわ」

 マダムジョスティーヌが発した言葉に、テオンはその真意を測ろうとペールブルーの瞳を細めた。

 緩くハーフアップにされた豊かなプラチナブロンドの髪、お茶の香りを嗅ぐたびに上下する豊満な胸元。デコルテが大きくカットされたルビーレッドのドレスはコルセットで押し上げられていることもあり、マダムジョスティーヌの純白な胸元をより魅力的に演出する。

 真珠のように輝く二つの球体はまさに芸術品のごとく。美貌もここまで完成されるといやらしさがないのかとテオンは内心で感心した。

 それよりも、だ。

(今、……娘の処女を奪えって言ったのか?)

 発言した本人はまるで世間話をしていたかのように、優雅な仕草でティーカップを口元へと運んでいる。

 テオンはその姿を見て、幻聴だったのではと一瞬思ったが、動揺を悟られないよう口元に力を入れ、表情を固めた。

(マダムジョスティーヌに娘がいたことも知らなかったが、養女か何かの類なんだろうか。理由を知りたいと言ったら……、いや、教えてくれそうもないな)

 微笑を称えるふっくらとした唇に、見るからにしっとりとした滑らかな肌。三十歳前後だと思われるが、この美貌の前では年齢など些事である。

 長い睫毛に模られた黄金のようなアンバーの瞳がティーカップの紅茶から離れ、テオンを映す。挑戦的な目つきはどうするのかとテオンに尋ねているように思えた。

(いやいやいや、本気だとしたら正気じゃない)

 権力と財力を併せ持つこの国最高峰の美女、マダムジョスティーヌ。

 招待状が届いたとき、この国一番の美女は、同じくこの国で最も美しいとされる自分の容姿が気に入り、めくるめく情熱的な一夜に誘われたと思ったのだが。

 ヴェルシャンティール王国、その中でもここ首都マルソーでテオンの奔放な性生活を知らない者はいない。

 テオンはマダムジョスティーヌの出した条件と提案を考えた。

 これまで、その過ぎたる美貌のせいで幾度となく阻まれてきたテオンの出世。マダムジョスティーヌなら、テオンがこれまで抱えてきたあらゆる問題をクリアにする力がある。

(社交界トップクラスの権力を持つマダムの後ろ盾があれば……なんだか裏がありそうだが、その娘が自分から抱いてくれというように仕向ければ問題ないか)

 彼女を目の前に、この国きっての美男子テオンの答えは一つしかなかった。

「マダム、約束ですよ。……娘さんの純潔を九十九日以内に散らしたら、私の後ろ盾になってください」

 ジョスティーヌは自信溢れる青年へ満足そうに頷いた。
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