上 下
206 / 250
5章 エルフの森

無難とは

しおりを挟む
「モチロン ジャシンカラ ミヲ マモルタメ ダケニ ツカウヨ ダカラ アンシン アンゼン ダイジョーブネー」

「なぜカタコトになっておるのだ? ……まあ良い、くれぐれも取扱には注意するのだぞ」

「ういーっす」

 お説教でほぼ1日が終わってしまった。

 その後、特に邪神の使徒が来ることも、何か事件起こることも無く、2週間ほどが過ぎ去った。
 一応前回の失敗を考慮して、訪問者には必ず鑑定と解析ツールを使わせてもらい、本人かどうかを確認させてもらう事にしている。
 まあ、スリーサイズまで見えるとアリーセがバラしたようで、パールとマックスしか来なくなったがな。

 ちなみに魔晶石と交換でホーリークリスタルを追加で貰えないか? という交渉は了承され、パールを経由して10個ほど手に入れた。
 正直なところ千個くらい欲しかったのだが、そんなに用意が出来ないということで、流石に却下されてしまった。
 何に使ったかといえば、無難なことに魔改造した魔除けのアミュレットにホーリークリスタルを埋め込んで、スーパーアミュレットを制作したのである。
 リーラ様からはホーリーメタルの時と違い、特に使い方に制限を受けていないので、何に使おうと問題は無いはずなのだが、いちいちパールが口を出してくる為、何を作るかなかなか決まらなかったのはご愛嬌というやつだ。
 完成したアミュレットは、万が一が無いようにパーティメンバーメンバーにプレゼントしてある。
 完成品は解析ツールが弾かれてしまうので、最終的な能力は不明だが、ベースにしたアミュレットは、状態異常無効、全耐性大アップ、HPMP回復1%/秒、の効果となっている。
 通常の鑑定スキルで見たところ以下のような結果になった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
神の息吹とも呼称すべき護符
アーティファクト。 地上において究極のアミュレットの一つ。 
身に着けた者に対する様々な不利益な効果から身を守ることができる。
「邪」を完膚なきまでに打払い、不死身に最も近づくことができるようになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これを見て、無難に仕上げた結果と言えるのはご主人様くらいのものであろうよ。 好きに作らせたらどんな非常識な物を作っていたのかと思うと頭が痛くなるの」

「え? 好きに使うなら、もちろんボールベアリングに……」

「ふむ、ご主人様に関しては、無難な物を作る事こそが至高の物を作るのに必要な、たった1つ事だと、我は理解したぞ」

「それの何が面白いっていうんだよ。 物作りってのは、もっとこう斬新で浪漫があって然るべきだと思うんだ」

「突飛な発想と斬新な発想は違うと心得んか!」

 ホーリークリスタルをボールベアリングとしては使わせて貰えないので、仕方なく、ワトスンにベースとなるものをアダマンタイトやミスリルで作成してもらった。
 こちらには普通に解析ツールが使えるので、品質をチートツールで上げられるし、サイズの変更なんかも容易だったので、むしろ使い勝手は良かったかもしれない。
 ベースにした金属の種類によって違いはある様だがチートツールで耐久値を変えると大きさや材質が変わるので、無駄にいろんなサイズを取り揃えることが出来たのは嬉しい誤算だったな。

「何故ご主人様はそこまで、そのボールベアリングとやらにこだわるのだ?」

「こんなに利用頻度の高い部品もなかなか無いと俺は思うのだが? 俺の居た世界じゃ回転する物であれば、それこそオモチャから戦車まで、ほぼ全ての機械で使っているんだぞ」

 戯れに親指の先くらいのサイズのボールベアリングを使い、風車状のハンドスピナーを作ってほら、こんな回るだろ? と、遊んで見せる。

「魔法で浮かせて、その摩擦? とやらを極力無くせば良いのではないのか?」

 パールが手近にあったタンスをヒョイと持ち上げて、指の上でクルクルと回しだした。
 魔法を使ったのだろう、数センチばかり指先から浮いている。

「それはこっちの世界でも人類には不可能だろうが! そもそもそれが簡単に出来たら誰も苦労せんわい、ドラゴン基準で言わないでくれるかな!?」

 同じ様な魔法による摩擦の軽減については、王都の錬金術師達も研究をしていたが、魔力の精密な制御が必要な上に、魔道具自体の消費魔力が大幅に増えてしまう為、何らかの技術革新でもなければ、金属製の軸受けに油を塗っただけの物の方が、費用も消費魔力も大幅に下げられるので実用的であるという世知辛い話なのだ。
 例えば10のエネルギーロスを無くす為に100のエネルギーを使うのでは無駄でしかないからだ。
 その点、精度さえ出せれば、ボールベアリングならば、余計な加工も追加のエネルギーも必要無く、この10のロスを4とか3にまで減らせる事になる。
 しかも既存の軸受けを使っている道具や魔道具にも、小改造またはそのまま部品を交換するだけで使えるのである。
 そんな話を、とくとくパールに行って聞かせていたら、ちょっとマルの様子を見てくると言って、窓からほうきで出て行ってしまった。

「ち、逃げられたか……これからが良いところだったのに……」

 コレから摩擦と戦ってきてきた、日本の熱き技術者達のドラマをドキュメンタリー形式お届けする予定だったのに、残念だ。

 パールが窓から文字通り飛び出して、さほど時間を置かずに、ドアをノックする音が聞こえた。

「はいはい、いま行きますよーっと」

 鍵は掛けていないが、パーティメンバーならノックもせずにいきなり入って来るので、一応警戒をして解析ツールを起動して、ツムガリをアイテムボックスから出しておく。
 パールが居なくなったタイミングというのも気になるしな。 

「どちら様でー?」

 まずドアは開けずに声をかける。

「王の使いで参りました。 こちらはコリンナ・ローデンヴァルト様の師である、イオリ殿の部屋で間違いないでしょうか?」

「あ、はい、今開けますー」

 王の使いとか、リーラ様の忠告もあったし、なんか面倒ごとの予感がするな。
 ゆっくりとドアを開けると、若干良さげな服を着たおっさんなエルフがいた。
 解析の結果的に邪神とかと関わり合いがありそうには見えない。

「どんな御用で? 手合わせ的な事でしたらお断りをして居るのですが?」

「手合わせは大変魅力的なのですが、本日は我が国の王より、召喚状を届けに参りました」

「召喚状? 招待状でなく?」

 歓迎されるわけじゃなさそうだな。

「はい、コリンナ・ローデンヴァルト様の魔法は、我々エルフが長年に渡り研鑽と研究を続けておりました魔法と比べ、大変異様……、いえ失礼しました、大変特殊な魔法でしたので、王が興味を持ち、その師であらせられるイオリ殿に、是非ともお話を伺いたいと、申しておりました。 日時等詳しいことはそちらをご覧ください」

 話を聞きたいと言うわりに、強制感の漂う感じだな。 まあ実際、国とか関係なく平民呼びつけるのに、こっちの都合なんて考えないか。
 もし断ってみたらどんな反応するだろうか?
 ……説教食らいそうだから、面白そうってだけで断るのは止めておくか。
 コリンナ様にも迷惑が掛かりそうだし。

「承知しました。 では召喚状に従い、登城いたします。 しかし自分は貴族でもなければ外交に携わってもおりません、文化の違いによるご無礼には寛大に容赦を頂きたく存じます」

「はい、そちらにつきましては重々承知しておりますのでご安心ください。 ではこれにて失礼いたします」

 おっさんエルフは、始終丁寧な態度のまま去っていった。
 丁寧すぎてかえってなにか怪しいと思ってしまうのは、俺が捻くれているからなのか、リーラ様の言葉が気になっているからなのか……。
 召喚状に目を通してみれば、2日後の昼前に直接、城というか中央?というか、王が居る場所に単身で乗り込む事になった。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...