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1章 異世界転移
白兎亭
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白兎亭にアリーセと入ると、ランプの明かりに照らされたシックなイメージで、学校の教室くらいの広さのスペースに丸テーブルがいくつか置かれており、奥にはカウンターがありその奥が調理場となっているようだ。
半分ほどの席が埋まっていて、美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
可愛い女の子がウエイトレスをしているのかと思いきや、とくに給仕をしている人は見当たらない。
ここへ来るまで、なんだかんだで緊張でもしていたのか、空腹をすっかり忘れていたが、匂いに釣られて急激に空腹感が襲ってきた。
「なんか、ここに来たら腹がものすごく減ったな。早く席取ろうぜ!」
「そうね、あの辺で良いかしら?」
一番奥の端っこの席を陣取る。
「メニューとか、無いんだな?」
「ん? ああ、そんなにいっぱい種類が無いから、聞けば教えてくれるわよ」
アリーセが、店の人を呼ぶと、頭に三角巾を被って、エプロンをつけた恰幅の良いおばちゃんがやってきた。
「おやおや、アリーセが男連れてやって来るなんて珍しいね、彼氏かい?」
おばちゃんは開口一番アリーセにそう言ってきた。大分親しい間柄なようだ。
「違うわよ! 突発依頼の依頼主だったイオリよ。この街は初めてだから今後の打ち合わせを兼ねて、ココを紹介しに来ただけよ」
「なんだい、仕事だったのかい。あたしゃてっきりアリーセに良い人が出来たのかと思っちまったよ」
豪快に笑うおばちゃんは、肝っ玉母ちゃんといった雰囲気だ。
「あたしゃ、この白兎亭を切り盛りしている、クーリアってんだ。気に入ったらご贔屓にしておくれよ。それで、腹減ってるんだろ? 今日はホーンラビットのシチューとファングボアの串焼きのどちらかだよ」
「私はシチューで!」
「じゃあ、俺は串焼きの方にしよう」
おばちゃんは、あいよっと威勢良く返事をして厨房へ戻って行った。
「ここの宿は私も常宿にしてるの。激安ってわけじゃないけど、お手頃よ」
「そうか、アリーセのオススメならしばらく滞在しても良いかな?」
アリーセにここの宿について聞いているうちに、さっきのおばちゃん、クーリアがトレイに料理を乗せてやってきた。
「あいよっ、お待ちどうさま! パンはお代り出来るから必要だったら言っておくれ。それじゃあ、どうぞごゆっくり!」
忙しいのだろう、料理を置くとさっさと行ってしまった。
俺の方の串焼きは、一般的なバーベキューの串焼きの倍ほどの大きさがある肉の串と、人参や玉ねぎっぽい野菜と何かのキノコの串がまだジュージューと音を立てて乗っていた。
アリーセが頼んだシチューはブラウンソースのシチューのようで、少し深めの皿に目一杯盛られていた。
「これは美味そうだ、いただきます」
「いただきます?」
スプーンを握りしめ、すでにシチューを食べ始めていたアリーセが首を傾げている。
そういえば、もとの世界でも海外等では食前のお祈りはあっても、挨拶というのは珍しいと聞いたことがある。
記憶喪失設定なんだから誤魔化さんといけないかな?
「ああ、なんか自然に出たんだけど、変なのかな?」
串焼きにかぶりついて誤魔化す。
「んー、神官みたいな人とかが食べる前にお祈りしているのはよく見かけるよ? 随分簡単な感じだったけどイオリもそういう関係なのかな?」
「いや、多分違うな、ただの挨拶だった気がする」
なんだか命を頂きますだとか、なんたらとうんちくを語りたくなるのをグッと堪えて食べるのに集中する。
熱々の肉からは肉汁がジュワッとあふれた。隠し包丁が入れられており丁寧に下拵えされた肉は簡単に噛み切る事ができ、塩だけのシンプルな味付けだが、口の中に肉汁とともに旨味が広がる。
パンは黒パンと呼ばれる、酸味のある硬いパンだが塩分が強めになっており肉によく合っている。
「ウマイ!」
思わず口に出た。
「でしょ? クーリアおばさんの料理はとっても美味しいのよ。仕事上がりは特にね」
「これは、ここに泊まれば毎日食えるのか?」
部屋にもよるが、アリーセが普段使っている個室だと、朝晩の食事付きで一泊50ナールだそうだ。連泊だと少し安くしてくれるらしい。
月で考えれば、ちょっと良い賃貸マンションくらいの値段だな。
金には困っていないが、あまり高級な所だと肩がこるし、家を買ったら掃除や飯の支度は自分でしなければならなくなる、美味い飯が出るなら、気安い印象のこの宿を当分拠点にしてしまって良いだろう。
アリーセも居るし。
「ふー、結構ボリュームがあったな」
「でしょう? それもオススメの理由の一つね」
「それで、例の特訓についてなんだけど……」
少し声のトーンを落としてアリーセが話題を変える。この話をするために、端っこの席にしたようだ。
「イオリも無事に冒険者登録出来たし、これで自由に街に出入りが出来るわ」
「あー、つまり街の出入りをするために、俺を冒険者にしたのか?」
少し半眼気味にアリーセに聞く。
「それも無いとは言わないけど、それだけじゃないわよ?」
アリーセによると身分証の無い俺は、街を出入りする度に審査を受ける羽目になるという事と、他の商人ギルド等でも試験や紹介が必須だったりと、こんなにあっさり所属する事が出来ないそうだ。
「それに身分証が無いと、武器とか薬とか正規のお店で買えなかったりするのよ。正規じゃない方法での取引もあるけど、イオリはそもそもそのやり方知らないでしょ?」
そういう事であれば、確かに必要だったかもしれない。お節介気味だが、親切だったようだ。
「まあ、白状するとCランクに上がる条件で、一人紹介するっていうのがあって、普通だと、まだ冒険者登録が出来ない見習いを少し面倒みて、冒険者の基本を教えてから紹介するって感じなんだけど、そのあてが無かったから利用させて貰っちゃった」
「俺の感激を返せ!」
とはいえ、別に損をしたわけでは無いので、命の恩人に少しでも恩を返せるならお安い御用である。
黙っていれば分からなかった事を正直に告白してくれてるわけだしな。
「ごめんね。それでそこまで遠くには行かないつもりだけど、あまり人目にも着きたくないから、あの川辺りまで行きたいと思ってるんだけど」
「いや、それは、別に構わないけど?」
「うん、ありがとう、それでねそこまで危険は無いと思うけど一応イオリの装備を整えておいた方が良いと思うのよ」
なるほど一理ある。剣を借りっぱなしってわけにもいかないし、装備は無いより揃っていたほうが安心感が違うだろう。
「あ、じゃあ宜しくお願いします」
どうにも何から何までアリーセだよりである。
本当、ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少し投稿が遅くなってしまいました。
週末どうしたものか……
半分ほどの席が埋まっていて、美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
可愛い女の子がウエイトレスをしているのかと思いきや、とくに給仕をしている人は見当たらない。
ここへ来るまで、なんだかんだで緊張でもしていたのか、空腹をすっかり忘れていたが、匂いに釣られて急激に空腹感が襲ってきた。
「なんか、ここに来たら腹がものすごく減ったな。早く席取ろうぜ!」
「そうね、あの辺で良いかしら?」
一番奥の端っこの席を陣取る。
「メニューとか、無いんだな?」
「ん? ああ、そんなにいっぱい種類が無いから、聞けば教えてくれるわよ」
アリーセが、店の人を呼ぶと、頭に三角巾を被って、エプロンをつけた恰幅の良いおばちゃんがやってきた。
「おやおや、アリーセが男連れてやって来るなんて珍しいね、彼氏かい?」
おばちゃんは開口一番アリーセにそう言ってきた。大分親しい間柄なようだ。
「違うわよ! 突発依頼の依頼主だったイオリよ。この街は初めてだから今後の打ち合わせを兼ねて、ココを紹介しに来ただけよ」
「なんだい、仕事だったのかい。あたしゃてっきりアリーセに良い人が出来たのかと思っちまったよ」
豪快に笑うおばちゃんは、肝っ玉母ちゃんといった雰囲気だ。
「あたしゃ、この白兎亭を切り盛りしている、クーリアってんだ。気に入ったらご贔屓にしておくれよ。それで、腹減ってるんだろ? 今日はホーンラビットのシチューとファングボアの串焼きのどちらかだよ」
「私はシチューで!」
「じゃあ、俺は串焼きの方にしよう」
おばちゃんは、あいよっと威勢良く返事をして厨房へ戻って行った。
「ここの宿は私も常宿にしてるの。激安ってわけじゃないけど、お手頃よ」
「そうか、アリーセのオススメならしばらく滞在しても良いかな?」
アリーセにここの宿について聞いているうちに、さっきのおばちゃん、クーリアがトレイに料理を乗せてやってきた。
「あいよっ、お待ちどうさま! パンはお代り出来るから必要だったら言っておくれ。それじゃあ、どうぞごゆっくり!」
忙しいのだろう、料理を置くとさっさと行ってしまった。
俺の方の串焼きは、一般的なバーベキューの串焼きの倍ほどの大きさがある肉の串と、人参や玉ねぎっぽい野菜と何かのキノコの串がまだジュージューと音を立てて乗っていた。
アリーセが頼んだシチューはブラウンソースのシチューのようで、少し深めの皿に目一杯盛られていた。
「これは美味そうだ、いただきます」
「いただきます?」
スプーンを握りしめ、すでにシチューを食べ始めていたアリーセが首を傾げている。
そういえば、もとの世界でも海外等では食前のお祈りはあっても、挨拶というのは珍しいと聞いたことがある。
記憶喪失設定なんだから誤魔化さんといけないかな?
「ああ、なんか自然に出たんだけど、変なのかな?」
串焼きにかぶりついて誤魔化す。
「んー、神官みたいな人とかが食べる前にお祈りしているのはよく見かけるよ? 随分簡単な感じだったけどイオリもそういう関係なのかな?」
「いや、多分違うな、ただの挨拶だった気がする」
なんだか命を頂きますだとか、なんたらとうんちくを語りたくなるのをグッと堪えて食べるのに集中する。
熱々の肉からは肉汁がジュワッとあふれた。隠し包丁が入れられており丁寧に下拵えされた肉は簡単に噛み切る事ができ、塩だけのシンプルな味付けだが、口の中に肉汁とともに旨味が広がる。
パンは黒パンと呼ばれる、酸味のある硬いパンだが塩分が強めになっており肉によく合っている。
「ウマイ!」
思わず口に出た。
「でしょ? クーリアおばさんの料理はとっても美味しいのよ。仕事上がりは特にね」
「これは、ここに泊まれば毎日食えるのか?」
部屋にもよるが、アリーセが普段使っている個室だと、朝晩の食事付きで一泊50ナールだそうだ。連泊だと少し安くしてくれるらしい。
月で考えれば、ちょっと良い賃貸マンションくらいの値段だな。
金には困っていないが、あまり高級な所だと肩がこるし、家を買ったら掃除や飯の支度は自分でしなければならなくなる、美味い飯が出るなら、気安い印象のこの宿を当分拠点にしてしまって良いだろう。
アリーセも居るし。
「ふー、結構ボリュームがあったな」
「でしょう? それもオススメの理由の一つね」
「それで、例の特訓についてなんだけど……」
少し声のトーンを落としてアリーセが話題を変える。この話をするために、端っこの席にしたようだ。
「イオリも無事に冒険者登録出来たし、これで自由に街に出入りが出来るわ」
「あー、つまり街の出入りをするために、俺を冒険者にしたのか?」
少し半眼気味にアリーセに聞く。
「それも無いとは言わないけど、それだけじゃないわよ?」
アリーセによると身分証の無い俺は、街を出入りする度に審査を受ける羽目になるという事と、他の商人ギルド等でも試験や紹介が必須だったりと、こんなにあっさり所属する事が出来ないそうだ。
「それに身分証が無いと、武器とか薬とか正規のお店で買えなかったりするのよ。正規じゃない方法での取引もあるけど、イオリはそもそもそのやり方知らないでしょ?」
そういう事であれば、確かに必要だったかもしれない。お節介気味だが、親切だったようだ。
「まあ、白状するとCランクに上がる条件で、一人紹介するっていうのがあって、普通だと、まだ冒険者登録が出来ない見習いを少し面倒みて、冒険者の基本を教えてから紹介するって感じなんだけど、そのあてが無かったから利用させて貰っちゃった」
「俺の感激を返せ!」
とはいえ、別に損をしたわけでは無いので、命の恩人に少しでも恩を返せるならお安い御用である。
黙っていれば分からなかった事を正直に告白してくれてるわけだしな。
「ごめんね。それでそこまで遠くには行かないつもりだけど、あまり人目にも着きたくないから、あの川辺りまで行きたいと思ってるんだけど」
「いや、それは、別に構わないけど?」
「うん、ありがとう、それでねそこまで危険は無いと思うけど一応イオリの装備を整えておいた方が良いと思うのよ」
なるほど一理ある。剣を借りっぱなしってわけにもいかないし、装備は無いより揃っていたほうが安心感が違うだろう。
「あ、じゃあ宜しくお願いします」
どうにも何から何までアリーセだよりである。
本当、ありがとうございます。
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少し投稿が遅くなってしまいました。
週末どうしたものか……
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