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第一部 力の覚醒
第43話 解決
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……その一瞬でミリエラが起こしたことは、僅かなものだった。
(見えます……!)
まず捉えるべきは、魔獣。
ミリエラは意識を研ぎ澄ませる。
どうやらここは会場の外れらしかった。
発生した魔獣は会場に全て集まってきているようだ。
その全てを、停止させる。
何をどうすれば止まるのか頭では理解していなかったが、体は理解している。
全ての魔獣の位置を瞬時で特定し、次の目的に移った。
(皆さん……!)
次は怪我人の回復。
衛兵を始め、参加者にも怪我人が見られる。
どうやら地下の通路から概ねは逃げられているようだが、足を引きずっている者もいるし、一人では歩けない者もいる。
直感のままに、意識を集中させた。
(イクス様……)
最後に行うべきは、イクスの回復。
暴走した封忌魔術と言うのがどのような現象をもたらすかはわからないが、その止め方に関してはなぜか直感的にわかっていた。
彼の体の中を巡りながら増大する精神力に、狙いを定める。
(全部私のせいなら――全部私が守らないと)
翡翠色に発光するミリエラは、この世のものとは思えない優美さを醸し出している。
今ここに存在するのは、純粋な覚悟だけだった。
(私の、魔法で、全部――!)
『へえ、良い覚悟じゃない』
先程聞こえてきた声が、感心したような言葉を漏らすのだけが聞こえる。
そして、発動は一瞬だった。
ミリエラも何を起こしたのかはわかっていない。
が、恐らく事態は解決したのだと直感した。
――
「これ、は……」
呟くイクスの声には、明らかに生気が戻っている。
「イクス様っ!」
「ミリエラ……君の、おかげなのか……」
「いえ、私は皆さんの力をお借りしただけで――ってわぁっ?!」
ぐたり、とイクスが寄りかかってくる。
突然のことで、心臓が口から出そうになった。
「す、すまない。なぜか安心してしまって、力が抜けた……」
「だだだ大丈夫ですっ、その、多分、他の魔獣も、みんな倒せた、と思いますし」
「そのようだ……不快な気配を感じない」
「それなら、良かったです」
ぎゅ、とイクスを抱き締める。
良かった、死ななくて……。
「ミリエラ、そろそろ行こう」
「ありがとうございます、精霊さん……」
「ミリエラ?」
「本当に良かった……」
「……ミリエラ、抱き締められていると動けない」
「え、抱き締め……って、うわぁすみませんっ、その、私もホッとしてしまってつい!」
「いや、良いんだ」
ミリエラが離れるより早く、イクスが優しく抱き締め返してくる。
その力強さと温かさに、ミリエラは自分でも気づいていないが紅潮していた。
いつまでそうしていただろうか。
実際は一分にも満たないはずだが、体感時間では何時間にも等しく感じる。
恥ずかしさが増してきたミリエラは、おずおずと切り出す。
「あのその、イクス様……そろそろ……」
「もう少し」
「えぇぇ」
「……本当に、すまなかった」
「え?」
「君をこんな危険な目に遭わせてしまった。俺の落ち度だ」
「そんなこと――」
「必ず守ると、そう言ったのに、逆に……君に助けられてしまった。俺は自分が許せない、主失格だ」
「そんなことないです! 私が今ここに居られるのは、イクス様のおかげです! イクス様があの夜助けてくれたから、私は今ここに居られるんです……!」
不意に涙が出、すがるように続ける。
「だから、主失格だとか、そんなこと、言わないで……」
「……ミリエラ」
すすり泣くミリエラを、イクスは静かに抱き締めた。
(見えます……!)
まず捉えるべきは、魔獣。
ミリエラは意識を研ぎ澄ませる。
どうやらここは会場の外れらしかった。
発生した魔獣は会場に全て集まってきているようだ。
その全てを、停止させる。
何をどうすれば止まるのか頭では理解していなかったが、体は理解している。
全ての魔獣の位置を瞬時で特定し、次の目的に移った。
(皆さん……!)
次は怪我人の回復。
衛兵を始め、参加者にも怪我人が見られる。
どうやら地下の通路から概ねは逃げられているようだが、足を引きずっている者もいるし、一人では歩けない者もいる。
直感のままに、意識を集中させた。
(イクス様……)
最後に行うべきは、イクスの回復。
暴走した封忌魔術と言うのがどのような現象をもたらすかはわからないが、その止め方に関してはなぜか直感的にわかっていた。
彼の体の中を巡りながら増大する精神力に、狙いを定める。
(全部私のせいなら――全部私が守らないと)
翡翠色に発光するミリエラは、この世のものとは思えない優美さを醸し出している。
今ここに存在するのは、純粋な覚悟だけだった。
(私の、魔法で、全部――!)
『へえ、良い覚悟じゃない』
先程聞こえてきた声が、感心したような言葉を漏らすのだけが聞こえる。
そして、発動は一瞬だった。
ミリエラも何を起こしたのかはわかっていない。
が、恐らく事態は解決したのだと直感した。
――
「これ、は……」
呟くイクスの声には、明らかに生気が戻っている。
「イクス様っ!」
「ミリエラ……君の、おかげなのか……」
「いえ、私は皆さんの力をお借りしただけで――ってわぁっ?!」
ぐたり、とイクスが寄りかかってくる。
突然のことで、心臓が口から出そうになった。
「す、すまない。なぜか安心してしまって、力が抜けた……」
「だだだ大丈夫ですっ、その、多分、他の魔獣も、みんな倒せた、と思いますし」
「そのようだ……不快な気配を感じない」
「それなら、良かったです」
ぎゅ、とイクスを抱き締める。
良かった、死ななくて……。
「ミリエラ、そろそろ行こう」
「ありがとうございます、精霊さん……」
「ミリエラ?」
「本当に良かった……」
「……ミリエラ、抱き締められていると動けない」
「え、抱き締め……って、うわぁすみませんっ、その、私もホッとしてしまってつい!」
「いや、良いんだ」
ミリエラが離れるより早く、イクスが優しく抱き締め返してくる。
その力強さと温かさに、ミリエラは自分でも気づいていないが紅潮していた。
いつまでそうしていただろうか。
実際は一分にも満たないはずだが、体感時間では何時間にも等しく感じる。
恥ずかしさが増してきたミリエラは、おずおずと切り出す。
「あのその、イクス様……そろそろ……」
「もう少し」
「えぇぇ」
「……本当に、すまなかった」
「え?」
「君をこんな危険な目に遭わせてしまった。俺の落ち度だ」
「そんなこと――」
「必ず守ると、そう言ったのに、逆に……君に助けられてしまった。俺は自分が許せない、主失格だ」
「そんなことないです! 私が今ここに居られるのは、イクス様のおかげです! イクス様があの夜助けてくれたから、私は今ここに居られるんです……!」
不意に涙が出、すがるように続ける。
「だから、主失格だとか、そんなこと、言わないで……」
「……ミリエラ」
すすり泣くミリエラを、イクスは静かに抱き締めた。
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