ヴァーミリオンの絵画館

椿

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ブレイクタイム Re第二階層 人物画-2

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「──ってことがあったんです…」
「……なるほどなァ。ンじゃあ今は第八階層に行くまでの準備期間って感じか」

 絵画内のカガリは納得したように頷いてから、「まあゆっくりしてけや」とグレイの記憶通り快活に笑う。

 グレイは今、第二階層へと来ていた。


 第八階層のトップ、オルデウスと対面した直後、グレイは彼直々に第八階層への招待を受けたのだ。
 オークルでさえまだそこに上がることを止められているくらいの、選ばれた人間しか入ることの出来ない最上階層。そんな場所に展示されている神がわざわざ第六階層に降りてまで自身らの階層の清掃スタッフを選ぶなど、前代未聞の事態だったらしい。
 そういう訳なので、当然じゃあ早速明日から~なんてことにはならず。何が起こるか分からない現状でも最大限グレイの身の安全を確保するために、今第八階層に関係する職員の方々が諸々の準備に奔走してくれているようだった。

 あ、ありがたい…っ!

 因みにオークルもそちらの準備を手伝ってくれているらしい。特に手伝えることもなく余ってしまったグレイはというと、第八階層に行けるようになるまでの期間は雑用メインの仕事をするようオークルから言われていたのだが、……どうしても1つ気になることがあって、一日だけこの第二階層での清掃をさせて欲しいと階層長のイエローさんに頼みこんだのだった。
 …その『気になること』は、神が去った後にアインセルとデビッドから聞いた話と関連する。

 当初聞く予定だったグレイの『好かれ体質』について、彼らが口を揃えて言ったのは、にわかには信じられない情報だった。

 グレイは、この絵画館に存在する様々な絵画の作者──ヴァーミリオンの生まれ変わりなのだということ。

 天使と悪魔、そして神は、少なからず人間の生き死にに関わっているという概念的な特性故に、生物の魂を見ることが可能らしい。……正直説明を聞いてもあまりよく分からなかったのだが、結論だけ言うと、彼らの知っているヴァーミリオンの魂とグレイの魂は全く同じもので、それが一致しているということは長い時を経て別の人間として再び生を受けた証なのだと。

 これこそが、グレイが絵画内の生物に異様に好かれる理由だった。

 そして、

『そりゃあいい。……前世でもう描きたくねェほど描いたのさ』

 以前カガリから言われた不思議な言葉を思い返しながら、グレイは問う。

「……カガリさんは最初から知ってたんですね?俺が、…ヴァーミリオンの生まれ変わりだってこと」
「俺ァ魂が見える訳じゃねェが、……まァ、ヴァーミリオンとの付き合いは長い方だし最古故の直感ってヤツでな」

 驚く素振りも見せずに言った彼は、そのまま続ける。

「多分他のヤツも、何かしら勘付いてンじゃねェか?噂で聞いたぜ。第三階層は妃を迎える準備を、第四階層は身体が熱いだ何だと不調を訴える人魚が頻出、第五階層は自身らの絵をめちゃくちゃに汚しまくってお前様が来てくれるのを今か今かと待ってる。
 お前様はいずれ、どこか一つの階層の清掃を担当するって事が分かってるからな。自分のトコに来て欲しくて躍起になってんのさ」
「……、」
「愛されてんなァ、お前様」

 いいや違う。愛されているのは俺じゃなくて、ヴァーミリオンだ。
 一瞬黙り込んだグレイに、カガリはちょっかいをかけるような口調で言った。

「俺の階層はどうだ?」
「……セクハラが酷いので遠慮したいですね」
「警戒心~~。既婚者だから?」
「妃云々は全部嘘ですので!!」

 わっはは!と明るく笑い飛ばされて、グレイも少しだけつられて笑う。

 今までの絵画からの好意全部がヴァーミリオンありきのものだったことがショックだなんて、……そんなこと、考えるのも烏滸がましい、よな?
 胸を重くする感情には無理矢理蓋をし、気付かない振りを続けた。

 と、そんな時、目の前のカガリが急に自身の目を覆って蹲る。

「……っ、目が、」
「えっ?だ、大丈夫ですか?」
「何か入っちまったみてェだ…、痛くて開けれねェ。悪りぃ、お前様、そこら辺にある水取ってくれるか?目を洗いてェんだが…」
「あ、はい!分かりました!」

 請われるままに、慌てて外で靴を脱いだグレイはカガリの絵画内へと足を踏み入れた。足の裏に感じる久しい畳の感触を堪能しつつも、きょろきょろと周囲を目で探って、

「…あれっカガリさん、水ってどこに──、」
「お前様、そういうところが不安だなァ」
「!?」

 いつの間にやらすぐ背後に迫っていた、こちらを見下ろすカガリの瞳は、健康的にぱっちりと開かれていた。

 さ、詐欺だ!!!
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