ヴァーミリオンの絵画館

椿

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第四階層 幻想生物画(水)-6

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「あっ、あっ…っ、……ッッ、せっ、…せれん、さっ、」

 このまま自分がどうなってしまうのかが怖くて。なんとかして助けて欲しくて。グレイは自身の前に回るセレンの腕に縋りつくようにその震える手をかける。

 ──ゆっくりと見上げたセレンの表情は、先程の気遣わし気なものとは一転していた。

 フッ、フッと呼吸を荒くする獰猛なそれは、グレイに人魚の獣じみた性質を知らしめさせて、恐怖にも似た快楽にゾクゾクと身体の奥が疼く。
 それと同時に、鼻を掠める甘いような、鋭いような、熱いような、そんなよくわからない濃密な空気がまたグレイの肺を満たして脳をぐずぐずに蕩けさせ、セレンの怒張で滅茶苦茶に中を突かれること以外何も考えられなくなってしまった。

 とろんと熱に浮かされた表情で、はやくはやくと中への射精を誘うようにぎゅうぎゅう卑猥に収縮するグレイの身体を、セレンは強引に反転させる。

「…っ、ぁ?」
「……本当にっ、…何なんですかお前は!そうやって、…っ、優しくしたく、なるような、目で…っ!!」
「ん゛あぁあ゛あ゛~~ッッ!?」

 ぐぶっずぷっ!ズンズンズンッ!

 対面座位にされて、狭く蠢くグレイの中を容赦なくセレンが突き上げる。苛立ちに任せたように奥をぐっぐっと激しく圧迫されて、前後不覚になりそうな程の快楽にグレイは太腿をビクビクと震わせて淫らに喘いだ。

 だめっ、イキたいっ…、すぐイク…っ!ぁっ、イクッ、イクッ!

 でも何だっけ、何か、何か俺は忘れて……?

 二度目の絶頂感が迫って、ふわふわとした思考しか出来ないグレイ。それをフォローするかの如く、眼前のセレンは片手でグレイの陰茎を強く握った。

「……っ、大丈夫。次は、私が抑えていてあげますから…っ、」
「あ゛っ!?…っん゛ひっ、~~っぃ゛、あ゛あぁっ!」

 優し気な口調だったが、言っていることとやっていることは全くもってお優しくない。しかし清掃スタッフであるグレイにとって助かることなのは事実だった。
 これでイク準備は整った、と理解したグレイは、快感を最大限享受するためにずちゅずちゅと蹂躙されている中に意識を集中させ、下半身からの大きな快楽の波に身を任せる。
 高まる絶頂感に身を縮めてセレンの胸に頭を擦りつけると、彼はグレイの背中を支えていた片腕でそのまま後頭部に手を添わせて、ぐっと顔を上げさせた。
 「あ゛っ」と掠れた短い喘ぎは、斜め上から降って来たセレンの柔らかな唇にカプリと飲み込まれてしまう。

「~~ッッ!!ン゛っ、ん゛むっ、っふぅ、ン゛ン゛~~~ッ!」
「…んっ、……はっ、……ン、」

 ちゅく、ちゅく、と空気を含むような音を立てて熱く絡んでくる舌の感覚が気持ち良くて、恍惚とした気分にさせられる。
 顔を上げさせられて仰け反った身体はセレンの胸と密着していて。バシャバシャと水面を揺らす激しい律動の度に、グレイのビンビンに立ち上がった乳首が彼の纏う布へと強く擦れるのが堪らなかった。

 怖いほどの快感に、グレイの肉壁はもうずっとぎゅんぎゅんひくひく痙攣して、その全てを使ってセレンの一物を扱く。

「…っぶはっ、あっ、あっ!…ア゛ッ、く、くるっ、やっ、もっ、いっかいぃい゛っ!こわいっ!こわっ、こわいぃい゛~~ッッ!」
「…っ、はぁっ、…大丈夫、ですっ。私が居ますからっ、怖くない…ですよ。……イッて。ちゃんと見てますから」

 こちらを見る、興奮に眉が顰められたままの蕩けたセレンの表情に、グレイの心臓はずくんと変な音を立てて疼いた。
 直後、ずろろろっ!!と剛直がグレイのアツアツの腸壁を入口から奥まで余すことなく抉ったことで、抗う術など無い強制的な快感がグレイを襲う。

「──ぁ、あっ、…っあ゛~~ッッ!!」
「ぐ……っ!」

 グレイとセレンは同時に息を詰めて、ビクビクと身体を震わせた。しかし、ビュルルッ、と気持ち良さげに中に精液を叩きつけるセレンとは対照的に、グレイはまたも射精を伴わないまま絶頂する。

 ずっと高い所から降りれないみたいな重い快感が止まらない。セレンが精液を中に塗り込めるようにゆっくり腰を揺らす度に、グレイは中を痙攣させてぎゅう~~っと何度も肉棒を締め付けながら絶頂を重ねていた。

「…っはあ、……っ、お前っ、名前は?…何というんです」
「あっ、…っ、…ひぁあッ、」
「な、ま、えっ!!」
「あ゛ッッ!!……グ、ッン゛、…っ、グレイ、…グレイ、れひぅ…っ!」
「……グレイ…」

 セレンはその後も「グレイ、グレイ…、」と何度か口に馴染ませるように呟いてから、ぐったりと自身の胸元に縋りながら痙攣するグレイを、赤らんだ目元のままジッと見つめて、

「……グレイ、この私がわざわざ人間のお前なんかに種付けしてやったんです。私がここまでするなんて中々ありませんよ」
「ン゛ッ……、はっ、ぁ」
「そ、それに、他にこんな、……っ、熱くて、うるさくて、不細工で、心も薄汚い人間のお前を相手にするような奴は居ないんですからね!?分かったなら、私の慈悲を受けられたことを盛大に感謝なさい!」
「……っ、ぁ、はぃっ、…ありがと、ございま、す…っ」
「…………嬉しいです?」
「…はっ、う、れし……っ、んっ、」
「……ッ!……ッ!!」

 深い絶頂の余韻に身体を痙攣させながら、碌に働かない頭でセレンの言った通りの言葉を返すグレイ。それを真に受けたセレンは、感極まったように目の前の身体を両腕でぎゅうぎゅう強く抱きしめた。
 そして暫くハグを堪能した後、ぷっくりと出っ張って充血したグレイの乳首を、何の合図も無いまままた指でぐに、ぐに、と左右に押し潰し出す。

「あぅっ…!」
「……じゃあ、もっと中に出してあげますからね」
「あっあっ、ちくびっ、…っぁ、」

 いつの間にか、さっき射精して力を無くした筈のセレンの一物はグレイの中で硬度を復活させていた。
 乳首をしつこく弄られながらも、その状態のままずちゅ、ずちゅ、と腰を押し付けられる。やっと尾を引く絶頂感が落ち着いて来ていたグレイも、両方向からくる刺激に再び性感を引き摺り出されて、激しい快楽に喘ぎ声を漏らした。

 そんな時、

「……マジかよ、お前…セレンさんも……、」

 聞こえた第三者の声に視線を向けると、そこには案の定というか漸くというか、信じられないものを見たとばかりにその表情を引き攣らせるオークルが立っていた。

 グレイが助けを求めるより早く、セレンが威嚇でもするかのようにオークルをきつく睨みつける。

「夫婦の営みに入り込むなんて無粋ですよ、人間」
「夫婦!?」

 セレンさんにもうそこまで言わせる程!?と、関係の進展速度にオークルも声を出さずにはいられない。
 そして同時に、オークルの足元にまるで投げ捨てられたかのように無造作に転がっている笛を見て、彼は何となくグレイの状況を察することが出来た。

 ぐったりとセレンにもたれかかる息も絶え絶えなグレイに、オークルははあ~~っ、と呆れの混じるため息を吐いて、

「……セレンさん、グレイを返して下さい」
「お前のものではない。今はもう私のつがいです。……んっ、」
「ンッ、ンぅっ!?……ふゔ…っ!」

 オークルの存在など歯牙にも掛けない様子で、グレイに深いキスをして律動を再開させるセレン。バシャバシャと水を巻き上げながら水中で行われる激しい抽挿に、オークルの眉間の皺が深くなる。

「……すみませんっ、セレンさん!」

 やらなくていいなら勿論それに越した事はなかったのだが、止むを得ない状況だ。
 オークルは胸ポケットから取り出した細長い銀の笛を咥えて、一息にピーーーーッ!!と甲高い音を響かせた。

「グ……ッッ!!」
「…っ、グレイ!!」

 苦しみに顔を歪めたセレンが咄嗟に耳を覆って身体を丸めた隙に、オークルはすぐさまグレイを陸へと引っ張り上げる。勿論それに気付かない筈がないセレンは、ギッ!と人を射殺せてしまいそうな目でオークルを睨んで激昂した。

「……ッ、お前ッッ!!」
「すみません!!ですが困ります!!」
「グレイは私と一緒にこの中で暮らすんですっ!!もう一生外には出さない!!何にも害させない!!」
「……っ!?…あ、貴方は絵画自身に誇りを持っていたのでは!?あんなに異物を取り込ませまいとしていたのに…、」
「グレイは違う!!……っ、グレイは、他の人間とは……、」

 セレンは言葉の途中でグッ、と泣くのを堪えるように唇を引き結んで俯く。オークルですら、今までに見たこともないくらい弱った表情をする彼に戸惑いを隠せなかった。
 数秒、そんな彼へかけるべき言葉を選びかねていると、オークルの代わりに腕の中のグレイが掠れた声で言う。


「…また、来ます。……だから、辛い顔、しないで下さい」


 暫く緊張感のある沈黙が続いて、

 しかし最後には、セレンはこくん、とあどけない様子で頷いた。
 微かに見えた気がしたふわふわとのぼせたような赤面は、パシャン、と水飛沫を跳ねさせた尾ヒレでよく見えないまま水中へと消えていった。




「あの、先輩。……また中に出されました…」
「ッハーーーーー」





 ──翌日──

 セレンの周囲を数人の人魚が囲み、それぞれが不満気に物申す。

「ボスずる~~いっ!独り占めしちゃうなんて!」
「ずるいずるい!!」

 バシャバシャと尾ヒレで水音を立てながらの喧しい抗議の声は、しかし中心の人魚には1文字すらも届いていないようだった。
 セレンは真っ赤に火照る自身の頬を濡れた両手で抑えると、何かを耐えるみたいに全身を震わせる。

「……うっ、うう…っ!まだ身体が熱い…っ!グレイに触れたせいですね!ゆ、許さない…、これは付きっきりで『看病』というものをしてもらわなければっ!身体を冷やしたり、甲斐甲斐しく汗を拭いてもらったり、お、お、お休みの、キスとか…っ、うわあぁ~~!」

「……ボス、楽しそうだね」
「……だねぇ~」

 自身に向けられた、白くも生温かい同族の視線にセレンが気付くまで、あと──、

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