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第三階層 獣人画-1
しおりを挟む「なァお前様、最近俺ンとこ来ねェな。心配しなくてももう何もしねェって」
「……いやいや、」
舞踏会用の穏やかな音色が響く広い室内空間。華やかにステップを踏みダンスを踊る人々に紛れ、カガリはそこが自分の絵でないのにも関わらず、酷くゆったりくつろいでいた。
……隣で真面目に清掃業務に励んでいたグレイの尻を、堂々とした態度で揉みしだきながら。
いや、してるーーー!!早速何かしてるーーー!!
オークルからは、またあんな事態になられては面倒だからとカガリの部屋の掃除免除を言い渡されていたグレイ。しかしこの階層の絵画は中で全て繋がっているので、こうやって自分の絵を抜け出したカガリと清掃中に接触することも多かった。
が、しかし!もう俺はあの時と同じ俺ではない…!
フフン。
現在進行形で尻を揉まれながらも、どこか余裕の笑みを浮かべたグレイは「止めて下さい!」とその腕を躊躇なくカガリの方へと突き出して──、
「相変わらず抵抗が弱っちぃなァ」
「あれえ!?わっ、ぅ!」
カガリを突き飛ばそうとした腕は、彼の岩のように頑強な身体に弾かれ体勢を崩すことすら出来なかった。
いや寧ろこちらがよろけて支えられてしまったが!?
あの後、抵抗云々についてオークルからは「指示通りにしか動けないのか!馬鹿かお前は!」やら「最終的に体液撒き散らされて不利益を被るのは絵画側なんだから、そうならないよう対処しろ!自衛しろ!馬鹿かお前は!!」やら罵倒混じりのお説教を受け、グレイはしゃくり上げながらも、そこで適度な抵抗はOKなのだということを漸く知った。
…ので、早速試してみたのだが、
……あれ?もしかして、俺の力じゃそもそも全力で抵抗してもカガリさんに敵わない??結構力入れて突き飛ばそうとしてるんだけどビクともしないな??ゆったりした服装だから分からなかっただけで、細身に見えてこの人案外筋肉ムキムキなのか??着痩せか??
グレイが見た目と現実のギャップに思考をフリーズさせている間に、カガリの腕が背中側へと周り互いの胴がピタリと密着する。勿論尻は揉まれたままだ。寧ろまたいつかの如く片手揉みだったのが両手揉みへと悪化し、それによって尻たぶが左右に割り開かれて、服の上から尻の穴をピンポイントでくにくに押された。
そうされると否応なしに先日の感覚が思い出されて、ゾクゾクと腰の辺りから慣れない刺激が背を伝う。身体の奥底を掻きむしりたくなるような衝動に、グレイは堪らず眼前の肩へと額を擦り付けた。
グレイが深く考えないままにやったその仕草は、見方によってはカガリに擦り寄り、甘えているなどととられても仕方の無いもので。
はあ、とグレイの耳全体に至近距離から湿っぽい吐息が塗された。次いでその縁を濡れた唇が上から順番になぞり、最後に耳たぶがやんわりと挟まれ、食まれる。それにビクリと肩をすくめて反応してしまえば、すかさず熱い粘膜がじゅるりと穴の入り口を埋めて濡れた音を頭蓋骨に響かせた。
ブワリと全身が粟立つ感覚に、途端にグレイの身体から力が抜ける。カガリの肩口にむずがるように擦り付けられる丸い灰色頭と、少し弛んだ襟の合わせ部分を辛うじて掴む赤く色付いた指先は、側からであればもはやグレイがカガリに縋りついているようにしか見えないことだろう。
グレイにだってそれは分かっていたが、もう今更どうすることも出来やしない。グレイは既にカガリの腕の檻に囚われてしまっていた。
ジュプ、ジュプ、と絶えず鼓膜を犯す水音に煽られるように、段々とグレイの息も熱を帯び始める、
そんな時。
「カガリさん……」
まるで両親のそういう場面を見てしまったかのような、何ともげんなりとした顔で頭を覆ったオークルがすぐそこに立っていた。
*
「他の階層、ですか?」
「ああ、たまたま今回オークルが階層を移る予定があってな。別にグレイはこのままここに居てもいいんだが、丁度良い機会だから一緒にグレイの階層適性も見れたらと思って」
「階層適性?」
って、何だそれ?
終業時に上司のイエローの口から出た聞き慣れない単語に、グレイは素直に首を傾げる。
イエローは、ニカリと明るく笑って、
「オークルから聞いたぞ。この階層の人間達にも凄く気に入られてるんだってな!こんな短期間でやるなグレイ~~!優秀優秀!イエローさんは嬉しいぞぉ!」
「わっ、わっ!」
急わしゃわしゃと豪快に頭を撫でられて、驚きに大きく目を見開く。しかし、大雑把な中にしっかりと慈愛を感じられるその掌の温かさに、グレイはすぐに身体の強張りを解いた。子供扱いされているようで気恥ずかしくもあるが、不思議と悪い気分にはならない。
褒められて、にへら、と照れ笑いを浮かべていると、イエローが先の疑問への回答をくれる。
「絵の中の生物に好意的に見られることは、その階層で清掃スタッフとして働く際の最低限の条件なんだ。これを俺達は階層適性って風に呼んでる。
この階層はまだいいが、特に第四階層以上は色々と、その、……何というかクセが強くてな。まあ、正直なところ万年人手不足なわけ!清掃スタッフとして従事出来る可能性がありそうな奴は手当たり次第試したいんだよ」
そういえば、噂で聞いたことがある。この絵画館は、階層が上がれば上がるほど管理が困難な絵画が展示されているのだと。だから上層の清掃業務を任される人はとても貴重で……、あれ?でも確かオークル先輩は『ほぼ全ての階層での清掃を経験してる』って前に……。
グレイは隣で澄ました顔をして立つ己の教育係をチラリと仰ぎ見て、彼の凄さを改めて実感していた。
そんな訳で、「ずっと此処に居ればいいじゃねェか」と不満げに言いながら尻を揉んでくる変態セクハラ爺、もといカガリと、その他のお世話になった人達に別れを告げて、
──グレイは第三階層へと足を踏み入れていた。
展示されている多数の絵画。その中でまず認識したのは、コミュニケーションを取るために生物…それもグレイの知る限りでは人間だけが用いる、意味のある『言葉』。その騒めき。目に入ったのは、第二階層とやや似通った『人が生活を営む』ための文化的な建造物。
そして──、
「第三階層は、人と獣の特徴を併せ持つ架空の種族を描いた絵が展示されている。獣人画の階層だ」
「獣人……!」
そう。絵画内で動くその姿にグレイの視線は一瞬で釘付けにされてしまった。絵画内で生活を営んでいたのは、人であって人では無かった。
シルエットや顔、動作こそグレイらと同じ人間の様相をしていたが、明らかに異なっているのは2つ。その頭上に生えたふわふわでもこもこのバラエティ豊かな獣耳と、大体腰あたりから衣服の隙間を縫って伸びているこれまたふわもこな尾である。
ヴァーミリオンは、この世に存在しない架空の生物でさえ絵の中で…いや絵の中だからこそ生み出せてしまうんだ!すごい!!
「清掃方法は人物画とほぼ同じだから、一通り絵の説明をした後は早速個人で業務に取り掛かってもらうぞ」
「はいっ!!!」
「うるさっ」
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