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第二階層 人物画-3
しおりを挟むやけに色気のある囁き声で「なァ、お前様…?」と耳元に息を吹き込まれたかと思えば、次の瞬間、カガリはグレイの中心へとその手を当てがう。
「!?」
服越しではあるが明確な意思を持ってゆるゆると擦られるそれに混乱しつつも、同時にもはや話し合いの余地はないとグレイは腕に力を込めて……、しかし。
『いいか、何度も言うようだがくれぐれも粗相の無いように』
『絵画の中の人物達の要望には出来るだけ応じろ』
始業前に言われたオークルの言葉を思い出して、グレイはカガリを突き飛ばそうとしていたその腕をピタリと止めた。
──どうしよう。抵抗して良いのかどうか分からない。
第一階層では、動物達が清掃スタッフに危害を加えることなど皆無だった。多少のじゃれ付きはあるが、小鳥が頬をつついたり、犬が歯型すら残らない甘噛みをする程度のそれだ。強く跳ね除けようと思うものでは到底無い。
そしてこの階層でも、色々な人達からの要望を言葉で断ることはあった。これはオークルもやっていたことだし、寧ろ「無理難題はうまくかわせ」とも言われたくらいだ。
でも、この場合はどうしたらいいんだ。
殴ったり傷つけたりするのは絶対に駄目だろ?それは流石のグレイにだって分かる。だって痛みはストレスだ。つまり絵の質を下げることに繋がる。
じゃあ突き飛ばすのは大丈夫?でもよろけた勢いで倒れて怪我でもさせたら??もしや速攻でクビ??解雇??そもそも言葉以外での抵抗はアリなのか!?
え、嘘。もしかして①このままカガリさんに身を任せてクビを免れるか、②突き飛ばしてクビか否か二分の一の賭けに出るか、の二択!?究極の選択過ぎない!?
グレイがぐるぐると頭と目を回している間にも、カガリの手が前を撫でるその不埒な動きを止めることはない。
というかどういうつもりなんだこの人!?襲いたくて我慢できない程男好きって事!?
「カガリさん、…っや、やめっ、」
碌に抵抗も出来ないまま、情けなく腰だけが引けてグレイは一歩後退る。しかし踵が進む先にあったのは逃げ道などではなく、寧ろ逆。この部屋の壁、つまりは行き止まりだった。
ゴツン、と無慈悲にぶつかった硬い感触に、グレイは全てを察してサッとその顔から血の気を引かせる。
そして悲しいかな。例え欲情などしていなくとも、目の前にいるのが超絶ナイスバディーの美女などではなくとも、神経が集まった敏感なそこを丁寧にヨシヨシと刺激され続けると、不能でも無い限り成長してしまうものなのである。
例に漏れず恥ずかしげも無く(いや本体に恥ずかしげはあるが)頭をもたげ出したグレイの愚息を認めたカガリは、「じゃ、脱がすか」と何の躊躇も無しにカチャカチャとグレイの作業着のベルトを取り払った。
そのまま前をくつろげようとするカガリの手を、グレイは慌てて引き留める。
「あああのっ!あのあのあの!!これ以上は本気で洒落になりませんよ!?」
「何言ってンだ?端から洒落のつもりはねェぞ」
グレイ決死の言葉での抵抗、まるで意味を成さず。
ズボンのチャックは瞬く間にカガリによって開かれ、彼の手は覗いた下着の中へズボッと無遠慮に突っ込まれた。
「えっ!?待っ、なんっ、う、うわあぁあ!?っ、ぅ、カ、カガリさん!?」
そしてなんと今度は、直にグレイの性器を擦り始めたのである。
突如襲い来る直接的な刺激に動揺し、グレイは反射的にカガリを突き放そうと彼の胸を強く押した。
しかし力を込めたその一瞬、「おっ」と微かに反応を返されて、グレイはビクリと我に返る。それと同時、確かに胸板を押そうとしていた自身の手は、一気に彼に縋るためだけの役立たずな肉になってしまった。
「ぁっ、あ、あのっ、…っ!それっ、や、止めて下さ…っ、」
「その腕、全く力が入ってねェようだが、本気で辞めてもらう気あんのかね。……っは、弱っちぃなァ。
──滾っちまう」
こめかみ同士がすり、と擦れ合う。耳元で聞こえた多少の熱を孕んだその囁きに、何故かグレイの身体も呼応するようにゾクリと微かに戦慄いた。
不意に下に目線を向けると、確実に男の物だと分かる節くれだった指が己の性器を囲うように責め立てているのが良く見える。カガリの掌はグレイのそれより一回りほど大きく、広範囲を一気に扱かれるので、悔しいが普段自分でやるものの数倍は気持ちが良かった。
じゅわ、と素直に滲んだ先走りがその都度親指で掬われて、満遍なく竿に塗りたくられる。それによって良くなった滑りでまた追い詰められるのだから、自業自得もいいところだ。
はふはふと息が荒く乱れて、時たま鼻にかかったような声が漏れ出た。思考は靄がかかったみたいにぼうっと霞み、身体からも段々と力が抜けていくのが分かる。グレイと密着するカガリもその変化を感じたためか、性器を擦る手の動きがより一層スピードを増した。
明らかに強まった刺激に、反射的にグレイの肩が大きくすくめられる。
「あっ、あっ、…っ、だめっ、だめです!ホントに…っ!」
「我慢すんなって。ホレ、気持ち良いだろ?」
「っあ、はあっ、だめっ、…やっ、ぅ……~~ッッ!」
グリッ、とぐずぐずに濡れた亀頭の割れ目を指で強く引っ掻かれて、グレイは突き抜けるような刺激を感じると同時、そのままカガリの手の中に勢いよく精を放った。
余りの快感に立っていられずガクガク震える膝を折ったグレイは、後ろの壁に背を預けながらずり落ちるようにしてゆっくり畳へと尻もちをつく。
射精時に詰めていた息を吐いた瞬間、頭にあったのは怒りや、ましてや羞恥の感情などではなかった。
……まずい。カガリさんの手、汚しちゃった。
彼の人の手を伝う白い体液に、グレイの顔は蒼白に染まる。しかしその反応を見たカガリは何故か機嫌良さそうに笑って。次の瞬間にはグレイの乱れていたズボンを下着と共に剥ぎ取り、流れるような動作で足首を引っ張ってその場に寝転ばせた。そしてグレイが「わっ、わっ!?」と混乱している間にもがぱっと足を開かせ、すかさずその隙間に自身の身体を割り入れる。
もうなんというか、玄人の所業である。えっ?もしかして、清掃スタッフに対してこういうセクハラ行為を常々やらかしている御方??先輩は何も言ってなかったけど!?
閉じられない足と覆いかぶさられている今の体勢、こちらを見下ろしてくるやや興奮気味に細められた焔色の瞳に、グレイは漸く恐怖にも似た明確な危機感でゾクリと背筋を冷やす。そしてそれを現実のものにするがごとく、グレイの尻、それも生まれてから今まで排泄以外に用いたことのないその穴に、ぐっ、と異物が押し当てられる感覚があった。
見なくても分かる。それは先程グレイの精液でどろりと濡れた、カガリの細くはない男らしい指だ。
硬く閉ざされたその窄まりの表面に、まるで液を塗り込むようにゆっくりと指先が往復し始めた。くるくる円を描くようにじれったく周辺をなぞられて、かと思えばカリ、と爪を立てて柔く引っ掻かれる。反射的に息を詰めて肩を強張らせると、そのグレイの反応を窺っていたらしいカガリから息遣いだけで笑われる気配がした。
しかしその後数秒も空かない内に、精液の滑りを借りたせいかぐぷ、と案外簡単に指の先端が侵入してきたので、グレイも息を詰めて大人しくしている場合ではなくなる。
「ちょ、え!?何!?何なんですかっ!?ぬ、抜いて下さい!!」
「まァまァ急ぐなって。じきにヨくなるから」
「何が!?…ッあ、」
ぐ、ぷぷ、
喧しい懇願は虚しくあしらわれ、一本の硬い指がやや強引に肉を掻き分けて奥へ奥へと進んだ。痛みは無い。根元まで埋まるとゆっくりと抜き差しを始められて、開かれていたグレイの口からは意図せず情けない声が漏れた。
う、うそ、指が尻の中に…っ!
酷い異物感だったが、先程射精してくたりと萎んでいた性器をカガリが再度弄り始めたことにより、グレイの意識はそちらの分かりやすい快感の方へと若干それる。
「なっ、何のためにっ、…ンッ、…っこんな事、」
「そりゃあ、……挿れるためだろ」
「は?」
ゴリ、と下半身に押し付けられた硬いそれの正体を理解して、ブワリと全身から嫌な汗が噴き出た。
この人、本気だ。
「無理無理無理!!何言ってるんですか!?」
「その無理を無理じゃなくするための準備を今してんだろがい」
「ひぃっ!?」
ずぷっ、ぬっ…、ぬぷっ…、ぬぷっ、
子供の駄々をたしなめるように言ったカガリは、躊躇なく二本目の指を刺し込んできた。例によってぬるついていたそれは、何かに阻まれることなど無く奥へと進んで行き、中を探るような緩い抜き差しに加わる。
狭い穴を押し広げられる慣れない圧迫感が怖かった。内臓を誰かに好き勝手触られていることも、その後何をされようとしているのか明言されてしまったことも。
だがそう思っている内はまだ幸せだったのだ、と後にグレイは思い知らされることになる。
不意に内から腹側の一部をぐ、と押され、じんわりと腰が熱を持つような妙な感覚にグレイの腹がヒクリと震えた。
「…っうぁ!……っ??」
「お、ここか」
「えっ、ちょ、待っ、…っ!」
ぬぷっ、ぐっ、ぐに、ぐにっ、
カガリは狙いを定めたかの如く、しこりのような感触のそこを優しく、そしてしつこいくらいに指圧する。なんとも言えないもどかしかった感覚が、どんどんグレイにも覚えのある刺激に代わっていくのを感じた。
相変わらず前は、人差し指と親指で簡易的に作られたわっかでゆるゆると表面を撫でるように刺激されている。先程までは後ろの異物感を紛らわさせてくれていた手遊びのような温いそれだが、今は殆どその役割を果たしてくれていなかった。寧ろ、相乗的に何かが高められようとしているような…。
腰を伝って微弱な電流が背を駆けあがる。グレイは堪らず目の前にあるカガリの胸元の服にしがみ付いて、未知の感覚に耐えるように小さく身体を震わせた。もう既に抵抗のポーズすら取れなくなっていることにグレイは気付けていない。
はぁっ、ふぅっ、と控えめな吐息が漏れていた。そんな風に浅く息をしているからか、いやきっとそれだけではない原因も多大にあって自然に内側からの熱が質量を増し、グレイの肌を薄く汗で湿らせる。
何だこれ、何だこれ…!?
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