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しおりを挟む「何かこうやって二人でゆっくり話すの久しぶりだなー」
「おー」
「はいオリオン座みっけ俺の勝ちー。波琉に何でも1つだけ言う事聞いてもらえる権利ゲットー。明日までにパンチパーマにしてきてください」
「今俺は最大の理不尽を見た」
月と星の優しい明りだけが照らす海沿いの道を、俺は波琉と話せていることが嬉しくて弾むように歩く。うわっ、何か1人だけ舞い上がってるみたいで恥ずかしっ。落ち着け、落ち着け。現実を思いだせ。最近の俺はいつも1人いつも1人……あれ、おかしいな??何か目の前霞んできた…。
「何で転校生の事何も言わなかったんだよ。昨日朝一緒になっただろ」
「ほら、サプライズとか必要かなって」
「その日言われても十分サプライズだから」
まあ実際は、3人で登校出来た嬉しさと、誘いを断られた後の悲しさで翼の事なんかすっぽり頭から抜けてたってだけなんだけど。
分かり難いが少しだけムッとしている風にも思える波琉に、あ、これ俺が二人に「何で付き合ってた事教えてくれなかったのー!?」って時と同じ感情なのでは!?と漸く思い至れた時、もう既に波琉は別の話を始めているところだった。
「……さっき何してた」
「さっき?」
「俺が渚ん家に着いた時、腹見せてただろ」
「あぁうん。日焼け見せようとして、」
「俺にも見せろ」
「はい?」
急に歩みを止め、追剥か何かのごとくシャツを捲られる。
おっと何!?!?流石にそれは予想外っ!!
周囲に誰も居ないとはいえ、屋外で水着でもないのに上半身を晒されるのは避けたくて、俺も必死に波琉の腕を掴んで抵抗する。
「いやいやいや!暗いし見えないだろ!」
「見える」
「嘘つくな!?」
「じゃあ教えろ。境目どこ」
「はあー…?」
人の日焼け痕がそんな気になるか??…もー、仕方ねーなー…。
…って言っても、俺ですらどこが境目なのか見えないしな。波琉も見ただけじゃ絶対分かんないだろ。
そう思って、俺はズボンを片側だけズラし、掴んだままだった波琉の手をそのまま自分の晒された腰に誘導した。
まあ触っても境目は分からないだろうけど、これで納得してくれよという完全に善意からくる行動だった。
「……えー…?…ここら辺?」
「………………、」
波琉は一瞬固まって。しかしその後すぐ、何かを堪えるようにグッと眉間にしわを寄せたかと思うと、呆れたような、またはこちらを糾弾するかのような深い溜息を吐きやがった。
は??こいつ…っ!お前が見たいって言うから見せたし触らせたんだが!?何だその態度は!?
引き剥がしてやろうか!という衝動的な思考は、その波琉の指が意志を持って俺の肌を這ったことで、あっという間に霧散してしまう。
骨ばった手と長い指が、本当にそこにあるかも分からない俺の日焼け痕の境目をなぞるように往復する。偶に、関係ない腰骨の形を確かめるように押されたりして、もう何がしたいのか分からない。
波琉は何も言わなかった。元々そんなにうるさく喋る方じゃないけど、今のこの謎の状況での沈黙は何だか少し気まずい。かといって、気の利いた話題を振ることも今の俺には出来そうになかった。だって、腰って。腰ってそんな、あんまり人に触らせること無いだろ??さわさわされてたらそりゃそっちが気になるだろ??し、しかも何か、波琉の触り方が……変に優しいというか…?もうっとこう、ガッ!と、七海みたくガッ!と来てくれれば俺も黙らずいられたのにさあ!?
よく分からない責任転嫁をしながら、これいつ終わるんだろう、と考え始めた時。外気に晒された肌の上だけを触っていた波琉の指が、まるで滑り込むかのようにズボンの中へと移動して来て。ゾワワッ、と嫌悪とは違う何か肌が粟立つような不思議な感覚に、俺は思わす叫んでいた。
「はい終わり!終了!!時間切れ!!」
「延長で」
「そんなシステムないから!」
「……チッ」
「まーーお下品!!そこは感謝だろ!?見せてくれてありがとうございます!触らせてくれてありがとうございます!」
「どういたしまして」
「お前が言うんだよっ!!」
変な照れを誤魔化すようにシャツをズボンにインしていると、波琉はそれっぽく頷いて、
「つまり、あんま軽率に他人に肌見せんなって話だ」
「いつそんな話したっけ???」
「『触らせない・触らない・そもそも近づかない』を守って健全な生活心がけていきましょう。分かりましたか、渚君?」
「どうした波琉君???」
その後、随分時間をかけて帰って来た翼は、家の人工的な光をありがたそうに浴びながら言った。
「いやマジ怖かった……。外灯一個もねーし、前何も見えねーし、……オレ今日初めて本物の『闇』を知った気がする。……流石に家に着いてから七海ちゃんに「今度はオレを送って」とは言えないじゃん!?気利かせて渚がオレを迎えに来いよっ!!」
何なんだコイツ。
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