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しおりを挟む「ぅ……、」
「目が覚めたようだな、雨君」
声につられるようにどこか重怠く頭をもたげた雨君。
目の前には、暗色の色眼鏡をかけた大人と子供が彼を見下ろすように立っていた。
一瞬、現状を理解するような覚醒の間があって、
「ふざっっけるなーーーーッッ!!」
寝起きからよくそんな全力血管ブチギレ咆哮できるな。本当に尊敬するよ。
雨君は晴君と千晴の手によって、寝ている間に簡素な木の椅子に縛り付けられていた。
遅れて彼もそれに気付いたのか、何だこれは!?とガタガタ暴れつつ、発散できない怒りを蓄積させていっている。顔が赤を通り越してむしろ黒く変わっていた。怖い。
これは早く目的を済ませた方がいいな、と晴君は彼の前に一枚の紙を提示した。
「これは何でしょう」
「あ゛?」
「ひっ、ごめん…」
ドスの利いた声と同時、雨君はぐっと目を細めて差し出された紙を凝視する。
それは、この部屋で起こった出来事を一部切り取り、簡易的に紙に複写した記録物だった。
そこには、黒い色眼鏡をかけた雨君が袋から千晴を出す様子、千春と肩を組む様子、そして晴君を蹴り付けている様子が写し出されている。最後だけは素顔のまま、雨君の意識がある時の光景だが。
は…?と更に深く眉を顰める雨君に、晴君は彼の今置かれている状況を説明してやった。
「雨君が下界から人間の子供を攫って、僕に世話をするよう脅した現場の一部始終がはっきり映ってますね~。これは紛れもない証拠ですね~」
「……本っ当に、俺をコケにするのが好きだな貴様は…っ」
嫌悪の混じった目で睨まれるが、縄で縛られたままであるため怖さも半減だ。…それでも怖いは怖いが。
勿論この記録はでっち上げ。眠っている雨君をなんとか自然に見えるよう動かして、それっぽい角度で切り取り、犯人っぽく仕立て上げたのがこれだ。
雨君もそれは分かっているようで、怒りながらも表情には余裕が見て取れる。
「残念だったな、天界においては俺の方が信頼度が高い。その証拠を提示したところで、空言だということはすぐに知れる」
「それはどうかな?………でもその前に、あの、し、信頼度とかそういうこと、言わないでよ…傷つくじゃん…。僕、天候区のみんなに嫌われてるっていうのも初耳だったのに…。せめてちょっと変人って思われてるぐらいだと思ってたのに…」
「鬱陶しい!」
「そそそそれはどうかな!?!?証拠を嘘だと跳ね除けるのにも調査がいる!多忙な上層の方々が、わざわざこんな下層の端区の問題に時間を割くとは思えない!」
「鬱陶しい!」
「聞こえてなかったわけじゃないから二回言うのやめて!!」
追い詰めているのは僕の筈なのに、なんで涙が出そうになっているんだろう。
しかしへこんでいる場合ではない!と切り替えた晴君は、続けて隣に立つ千晴を手で示し、その存在を主張する。
「千晴の証言もあるから!雨君に攫われたんだよね?」
「はい、この人に攫われました」
「ばっちり!」
「ふざけるなアホ師弟!!」
事前に教えた台詞を上手に復唱できた千晴。晴君はそれを偉いね偉いねと褒めながら、頭を撫でている方とは反対の腕でびしっ!と雨君に指を突きつけた。
「雨君、観念して僕達に協力しろ!そうしてくれたらこの証拠は絶対に隠し通してやるから!」
「……。俺を犯人に仕立てあげて雨君という今の地位が失われれば、貴様が多忙な業務に喘ぐことになるぞ。仕事を変わってくれるのか?」
「何言ってんの?共犯だから、君が地位剝奪されるなら僕だって剥奪されてるよ。死なば諸共だよ」
「は!?そしたら天候区はどうなる!まさか俺の天子らに全て押し付けるつもりか!?」
「そうなるかもしれないしそうならないかもしれない…!長い付き合いなのに、僕に計画性を求める方が間違ってるってことがまだ分かってないのか!」
「クソ腹立つ…っ」
「さあどうする?上層に告発して共犯者として裁かれるか、僕らと秘密を共有して現状維持に努めるか」
判断を迫る問いに、雨君が顔を歪めるのが見えた。もう逆にその表情を見慣れすぎて、真顔の方を忘れそうになるな…。
正直、提示した記録は証拠としては強くない。それは雨君も理解しているところだろう。告発したところで、上層にはきっとまともに取り合ってもらえない。
しかし晴君にとっては、証拠をでっち上げるためなら何でもやれるぜ、恐れるものは何もないぜ、というような、何をやらかすか分からない恐ろしさの印象を雨君に与えることの方が重要だった。
雨君のように真面目で、心配性で、後のことを良く考えるやつ程、可能性をちらつかせさえすれば一人で勝手に最悪を想像してくれるのだ。
そしてその狙いはおそらく、正常に働いてくれた。
彼の脳内で一体どんな恐ろしい想定が行われたのかは不明だが、少しの沈黙の後、雨君はどこか疲弊した様子ではぁーー、と深いため息を漏らした。
そして、
「分かった。他言はしない」
「「!」」
望んだ回答に、晴君と千晴は揃ってその安堵の顔を見合わせる。
よかった。これでまだ千晴と一緒に居られる。
「もういいだろ。腕を解け」
「うん!ありがとう雨君」
ルンルン気分で背後に回り、縄を解いてやっていると、雨君は目の前に残っている千晴を見て言った。
「人間、お前も面倒な事に巻き込まれたな。死にたい時はいつでも言え。俺が殺してやる」
「──、」
「本気で言ってるわけじゃないから、怖がらなくて大丈夫だよ千晴」
「貴様はもっと危機感を持て!」
「いたーー!!」
ゴンッ!ともう何度目かわからない拳が降ってきた。
前と同じくらい痛い。縛られていた腕の動作確認が正常だったみたいで何よりだ。
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