俺の事が大好きな○○君

椿

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「…っはぅ゛…、んぁっ」
「だいぶ広がって来たね」

くちゅくちゅと濡れた音を立てながら、瀬川が複数本の指をゆっくり出し入れする。彼の言葉通り、最初は1本入れるのもきつかったのに、……今は一体何本入っているんだろうか。ナカでバラバラに動かされる感覚があるから1本じゃないことはわかるけど。

「──ア゛っ!?」

グッ、
指の腹で、もう今まで散々弄られて少し腫れてしまっている前立腺を意識的に潰されて、ゾクゾクと足先から快感がせり上がって来る。
押し出されるように漏れた声が結構大きくて、俺は咄嗟に両手で口を抑えようとして、

──シャツから離れる手を瀬川がじっと注視していたことには、終ぞ気づくことが出来なかった。

「隙あり」
「!?」

瀬川の自由な片手が、ガバッ!と勢いよく俺のシャツを捲り上げる。
完全に不意を突かれたそれに、俺は咄嗟に動くことが出来ず、全身を瀬川の眼前に晒したまま固まってしまった。


「──わ、綺麗なピンク色」


、少し目を見開きながら発されたその言葉に、すぐさま鼻と目の奥がツンと痛む。


だから、見られたくなかったのに。


「ぅ゛…」

「えっ、…小崎? 泣いてる??」

ボロボロと止まらない涙が、耳のすぐそばを伝ってシーツに吸い込まれる。
ズッ、と鼻水を啜る俺にガチ泣きを悟ったのか、尻から指を抜いて「ごめん、そんなに嫌だった?」と狼狽え出した瀬川を、俺は腕で目いっぱい押し退けた。

「っは、なせっ! …もうやだっ!!」
「ごめん小崎。 何が嫌? 教えて」
「全部だっ!! もっ、やめて、帰って…んぐ!?」

無理矢理頭を抱き込まれて、キスされる。
最初は瀬川の胸を一生懸命押して抵抗していたが、瀬川の力が強くて中々離れて貰えず、頭も固定されているので顔を逸らして逃げることも出来ない。その間に俺は、瀬川によって口の中の敏感なところを余すことなくつつかれて、なぞられて、擽られて、当然のように気持ちよくなってしまって、段々と力が抜けていく。

「はっ、…キス、嫌?」
「…はっ、はぁっ、」

嫌じゃないから困るのだ。

「もう一回していい?」

俺が答えを言う前に瀬川の顔が近づき、半開きの口同士が繋がる。

まあでも、即座に否定をしなかったということは、そういうことだ。

「んっ、…ふぅ、ぁ、…」

全身が弱く痺れるような刺激に、ふっ、ふっ、と鼻にかかったような声が絶えず漏れ出る。涙のせいで鼻が詰まって、上手く息が出来ずに…、まあそれだけではないと思うが、頭がどんどんぼんやりと霧がかかったように霞んでいく。

瀬川の舌、キスしすぎて俺と同じ温度になってる。擦りあわされると、そこから溶けて一つになってしまいそうで、頭が甘く痺れる。唇ふわふわで、凄く柔らかい。駄目だ、気持ち良い。

もうどっちのものか分からないくらいに混じりあった唾液が、口内には留まりきれず次々と口の端から零れていく。その内の少量が離れていく瀬川と俺を一瞬糸で繋ぎ、間を置かずにぷつんと切れた。
はっ、はっ、と浅い息を繰り返して必死に不足していた空気を取り戻す俺に、瀬川は少しだけ安堵したように微笑む。

「…気持ちよかったね、小崎?」
「…ぁ、」
「俺は小崎が気持ち良くなることしかしないよ? 不安があるなら言って?」
「──……、」

長い沈黙だった。
だけど瀬川は一切俺を急かすことなく、ただひたすらに俺が話し出すのを待っている。

言いたくない、と突っぱねることも出来たし、多分そうした方が良かったんだろうけど…。

つまるところ俺は、瀬川の真剣な眼差しとその真摯な態度に絆されてしまったのだ。

「………、ちゅ、ちゅう、」
「ん? ちゅー? いいよ」
「んぶっ!? …んっ、ぁふ、…っ、」

話途中で早とちりした瀬川が、我が意を得たとばかりにキスをしてきて、またも俺は頭をポヤポヤにさせられかける。その前に慌てて顔を押しのけることが出来たので、最終的にちょいポヤ脳で済んだが。

「キスして欲しかったの?」
「っんなわけっ、無いだろ!! は、話の途中だ!!」

俺は胸元のシャツをギュッと握りしめながら、正面の瀬川から少し視線を外して、

「……ちゅう、がくの…、中学の時、……ち、くびが…その、色…おかしいって、揶揄われて…。 だから…」

水泳の授業の際クラスメイトの1人から言及され、周囲からヒソヒソと笑われたあの経験は今でも立派な俺のトラウマだ。その時からずっと、俺は人前で服を脱ぐのが怖くて、嫌いなんだ。高校には水泳の授業が無くてよかった。多分あるって分かってたら、そもそもここを受験しなかっただろうけど。

自然とシャツを掴む手に力がこもる。

「──うん。とりあえず…、
小崎、そいつの名前と現住所おしえて?」
「は??」
「……いや、それは後でいいか」

瀬川は少し眉を寄せて不機嫌そうな表情を見せたかと思うと、次の瞬間、再び俺のシャツの下に手を差し込んだ。
心臓近くの肌に触れる他人の体温に、大げさに身体がビクつく。

「あっ!? や、やめっ、」
「俺は小崎が小崎だったら、どんな見た目でも好きだよ。
ピンクの乳首、えっちで最高に可愛いし、勿論他の何色だったとしても小崎のってだけで俺は興奮できる」
「ななな何言って、っぁ、」

瀬川の指先が、俺の胸の先端を酷く優しく擦った。
くすぐったさに近い、しかしその言葉だけでは完全に表せない未知の感覚が俺を襲って、小さく身をよじる。


「全然変じゃないよ。 どうせもう今後は俺しか見ないんだから、俺が好きだったらそれでいいはずでしょ? 何も問題ない。 ね、小崎」


──好き?
瀬川が好き、なら? 瀬川が、全然変じゃないって、言うなら…?

喉の奥がヒク、と痙攣したように戦慄いて、俺の瞳からは一粒だけ涙が零れ落ちた。
温かいそれは、決して負の感情から来たものではなく。今までの不安や辛さを洗い流してくれる、安堵の感情が溢れたものだ。

瀬川はやっぱり瀬川だった。

俺の事を陰キャって言って見下して、それは嘘だとかちょっとよくわからない言い訳するし、急に押し倒すし、嘘泣きして人から情報引き出そうとするし。そういうところは、今まで俺が知っていた瀬川とはイメージが違い過ぎてびっくりしてたけど。

誰にも気づいてもらえない空気みたいな俺を一番に見つけてくれて、気にかけて、笑ってくれる。こうしようよって、手を引いてくれる。

瀬川のそんな優しいところは変わらないのだと、今更気付いた。
俺が好きになった瀬川も、ちゃんと本当の瀬川だった。


ドキドキ高鳴り出した心臓が、また全身の血の巡りをよくする。
瀬川が触れている所が全部全部熱くて、今はただその熱のことしか考えられなかった。

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