幽霊当主にご用心!

椿

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「当主様は療養中。帰れ」

 駄目だった。


 鳳条様に助力を請うためお屋敷まで出向いた俺達だったが、腕を組んで玄関扉に寄りかかる何とも横柄な態度の使用人からにべもなくあしらわれてしまった。
「りょうようちゅう~~?一昨日は五体満足だったよね?狐探せない理由にはなってないんですけどお~」なんてガンをつける幽霊当主様を視線で宥めながら、俺は半笑いで後退する。

「わ、分かりました。お大事に、とお伝えください…」

 そのまま去ろうとするが、背を向ける直前、「なあ」と短い呼び声で引き止められた。
 がたいの良いその男は、動きを止めた俺を品定めでもするようにじろじろ眺めると、友好など欠片も築く気のない気怠げな声で続けた。

「昨日、厨房から食材持ち出して庭にばら撒いたんだって?」
「!」
「んで、花ヶ崎の系譜の術をかけたガラクタも放置中だとか。……アンタ、花ヶ崎の分家の人間?」

 突然スッ、と冷たく細められたその眼光に、俺は肩をビクつかせる。
 威圧的な問いに怯み何も言えないでいると、彼は分かりやすく大きなため息を吐いて、

にも程があんだろ…。やっぱ花ヶ崎は気狂いの家系だな。そのツラ二度と見せんなー」

 ピシャリ。
 扉が閉まると同時に施錠の音も響き、鳳条家との交流は完全に断絶してしまった。

「これ僕のせい?」
「九割方…」
「正直ものめ~」
「ア゛ッ!刺さってる刺さってる!!」

 鋭利な枝でブスッといかれた頬を撫でながら、俺は御蔭さんに問う。

「何でそんなに鳳条家の人に嫌われてるんですか…?鳳条様のこと、な、殴ったりしてたんですか?駄目ですよ。こういう時に助けて貰えませんよ」
「助けてもらいたいのは僕じゃなくて君なんだよなー」
「いだだだ!!そうでしたごめんなさいありがとうございます!!」

 さっきの彼は、俺がやらかした御神木の放火云々ではなく、花ヶ崎家自体に嫌悪感を持っているようだった。
 まあ、御蔭さんは鳳条様のことをパシリだとか言ってたくらいだから、鳳条様側の人間に良く思われてないのは想像に易いけど…。
 かといって、御蔭さんのコネを頼りにしているだけの俺は文句を言える立場でもない。

 あぁ、でも鳳条様の協力、欲しかったなぁ…。
 御蔭さんに刺されたもう一方の頬を撫でる俺は、そんな叶わぬ空想を脳裏に描きながら帰路につく。
 その途中で、御蔭さんがポツリと口を開いた。

「他の家にちょっかいかける程暇じゃないよ。それに、僕はただやられたことをやり返してるだけ」

 それが先程の質問への回答だということに気づけたのは、数秒の間を置いてからだった。
 えっと、つまり鳳条様に自分から手を出したりはしてないってこと…?
 遅れつつ言葉の意味を反芻し、自分の中でひとまずの解を出す。そこに辿り着くまでに既に微妙な沈黙の間ができてしまっていたので、何となく、その仮説を改めて本人に確認することは出来なかった。
 御蔭さんは歩みを止めないし、俺もそれについてくのに必死だ。

 やり返すって、何だろう。
 俺が聞いていた噂だと、御蔭さんは残虐非道な独裁者で、逆らえる人なんていなくて、使用人はぼろ雑巾のような扱いを受けていて…?
 実際に、思い出したくもない物置こと拷問部屋もあった。例えばそれが御蔭さんの仕返しの方法なんだとして、じゃあそれをされた使用人は、逆らえない筈の御当主様へ一体どんなことをしでかしたんだろう。もしも些細な失敗で…ってことなら、流石に度が過ぎているし、正直に御蔭さんの事を恐ろしいと思う。
 というか、今まではそう思っていた。

 でも、今俺が接しているこの御蔭さんは、独裁者というより、多少横暴だけど色々教えてくれる上司って感じだ。
 悪事を俺のせいにされたりとか、池に突き落とされたりしたのは事実だし、それは一生許さない自信あるけど。今こうやって、狐神探しを手伝ってくれてるのは間違いなく御蔭さんだ。御蔭さんが居なかったら、そもそも俺は霊体を捕まえる道具だって用意できなかった。

 じっと見上げていると、それに気付いた彼と目が合う。
 慌てて逸らして、…しかし、どうしても気になってしまって。
 俺は意を決し、彼へと問いかけた。

「使用人を、何人も医者送りにしたっていうのは…」
「ん?ああ。あいつら、僕のこと殺そうとしたから」

 え。
 殺そうと…?しかも複数人から?……運、悪くない?採用条件、もっと考えた方が良いんじゃない…?
 って、待て待てそうじゃない。そこじゃない。
 何でもないようにサラッと答えられたが、思ってもみなかったその回答に驚愕し、思考が飛躍してしまった。
 そしてそんな俺に対し、続けて御蔭さんから一言。

「だから優吾くんも、ね。もし僕を殺そうとしたら、その瞬間に拷問部屋行き決定だから」

 牽制、いや、脅迫である。

 まあ今の僕は死んでるようなもんだけどー、なんて最後おちゃらけた風に笑っているが、こちらへ向けられた目に光はない。本気だ。
 殺すなんてないです。拷問部屋には今後一切足を踏み入れない人生設計です。借金返すまで波風立たない感じでお世話になる予定です。そのようなことを支離滅裂に伝え、ひたすら激しく頭を上下させると、御蔭さんも満足してくれたみたいだった。
 にこ、と最後の圧をかけられて、こちらもへなっ、とぎこちない笑みを返す。
 良かった。拷問の危機は去った。

 でも待てよ?逆に考えると、御蔭さんを殺そうとしなければ酷いことはされないってことだから、もしかして、花ヶ崎家の使用人業をそこまで恐れる必要はないのでは?
 というかむしろ、


「御蔭さんに愛情を持って接すれば、御蔭さんも同じように返してくれるってことですか?」


 純粋な興味から出たその問いかけに、彼は唐突に歩みを止めて俺を見た。
 真正面から向けられる静かな瞳に、俺の心臓が不自然な動きを見せたのは一瞬。
 首襟に指を引っ掛けられ、くんっと力を入れられる。前方向に傾く身体。よろめいた足がたたらを踏んで、俺を引き寄せた犯人との距離が縮まった。
 近い。それなのに触れることは出来なくて、支えを求めた腕は空を切る。
 迫った顔は相変わらず温度も呼吸もなくて、ただ、眩しそうに細められたその目が酷く印象的だった。


「さあ、どうだろうね。 試してみれば?」


 生身であれば、あと少しで唇同士が合わさりそうな程の至近距離。
 ニ、と余裕の笑みでそう告げた御蔭さんは、俺の襟に引っ掛けていた指を離すと早々に踵を返した。
 遠ざかっていく後ろ姿を呆然と眺めながら、俺は時間差で自身の問いかけを思い返し、そして、

 あれ、なんか俺、結構恥ずかしいこと言ってないか…?

 じわり。募る羞恥と共に、頬に集まっていく熱。
 それを風で冷まそうとして、俺は前を行く御蔭さんを駆け足気味に追いかけた。

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