勇者追放

椿

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一章

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 昨今、冒険者パーティーや勇者パーティーにおけるメンバーの追放が流行っているらしい。大体の場合、そのパーティーのリーダーから急に「お前足手まといなんだよ!」なんて言われてね、追い出されてしまうらしいけどね。
 まあオレ達のパーティーには縁遠い話だ。だってそもそも皆優秀で、足手まといや役立たずなんて1人も居ない。それに、同じ村出身の幼馴染同士で組んだパーティーだ。幼少期から育んだ絆だってばっちり。仲間にちょっと足を引っ張られるくらいが何だ!それを助け合っていくのが仲間だろ!安心しろみんな!オレは絶対に追放なんてしないからな!

 ……と、思っていたら、

「ユーリ、お前このパーティーから抜けろ」
「え??」

 オレがされた。



──── 勇者追放  ────



 発言主である戦士のザジを見上げる。体格の良いその赤髪の男は、いつもと変わらない仏頂面でオレを見下ろしていた。

 え???何で??どゆこと???脳が理解を拒んでいるんだが??
 さっきまで和気あいあいと話してたよね?オレつい数秒前、「シチューはおかずか汁物か、どっち派~?」とか本当にどうでもいいこと聞いたばっかりだよね??
 あ、そういえば……、って今思い出した感じで追放言い渡されたけど、え??急は急でも、え??そういう感じ??もしかしてオレ今から……?とか予感させるような神妙な雰囲気すらも無く??

「き、昨日オレが財布スられたから?」
「違う」
「いつも鞄の中整理しろって言われるのに『後でやる』とか言って結局しないから?」
「腹立つけど違う」
「……この前ちょっと魔法ドジってザジの靴下全部燃やしちゃったのバレた?」
「は?急に無くなったと思ったら犯人お前かよ!」
「あっうそ藪蛇!!かっ乾かしてやろうと思っあだだだだ!!」

 思い当る理由を述べてみたが、どれも見当違いのようだ。首、腕、足を固定されて卍固めをキメられた。そうやってすぐ手出るとこ良くないよっ!?

 数秒後に解放されたオレだが、負傷した肩を抑えながらも、まだ混乱からは抜けきれない。

 ……いや、え、そんな事ある???だってさ、だってオレ…っ、

「オレなのに!?みんなのリーダーなのにぃ!?」
「勇者とか関係ない」
「か、かか関係ありますうぅーー!!オレ達は勇者パーティーだから、決定権は全部勇者にありますぅーー!!はいオレが抜けるのナシッ!!」
「そうか。じゃあ俺達の方が抜ける」
「えっ??」
「今からユーリ以外の全員は戦士パーティーに加入する。……はぐれザルパーティーさん…でしたっけ?これからは1人で頑張ってください」
「何でっ!?」

 普段そんなに表情が変わらない癖に、ここぞとばかりに薄ら笑いで馬鹿にしてきやがった。
 駄目だ!コイツは話が通じない!
 早々に見切ったオレは、前を歩いていた金髪頭の男へと駆け寄り全力で縋りついた。

「ヤッ、ヤヒローー!!お前はオレと一緒に旅続けるよな!?戦士パーティーとかいうあの性悪が仕切るパーティーになんて入らないよな!?」
「纏わりついてくんな鬱陶しい!」

 ヒーラーのヤヒロは煩わしさを隠さないその三白眼でオレを睨みつけると、ペイッと雑に引き離す。慈悲の心は無いのか!?

「ユーリが抜けんなら残る。抜けねーなら、……戦士パーティーに入る」
「それ実質戦士パーティーじゃん!!オレ抜きの戦士パーティーじゃんっ!!」
「ッせーな仕方ねーだろ!多数決で決まったんだから!!」
「オレの追放多数決で決まったの!?いつの間に!?ってかよくそんな酷い事出来るな!誰だ多数決やろうとか言ったの!!」
ヤヒロだけど」
「お前かーーっ!!このっ人でなし!!冷酷野郎!!邪知暴虐!!」
「走れメ〇スか!」
「メ〇スって誰!?もしかしてオレの後釜新しい勇者の事かーーっ!?オレだって走れますけどお!?多分きっと絶対メ〇スさんより走れますけどお!?」
「だからごちゃごちゃうるッせーんだよテメェ!!男なら潔く立ち去れや!!!」
「首、じま゛っでる゛……っ!!」

 そうやってすぐ手出るとこ良くないよっ!?(二回目)
 首絞めから解放されて咳込むオレは、生理的な涙が滲んだ目で恨めし気にヤヒロを睨みつけた。

「……多数決、誰が手上げたんだよ…」
「満場一致」
「うそだぁーー!!」

 まさかの回答に、オレは思わずガックリと地面に膝をつく。
 待ってくれ……。ザジとヤヒロ、この二人は分かる。うん。いつも俺の事馬鹿にしてくるし。
 ……でも、あともう一人は、

「──フィンクも……?」
「……えっと、ウン。ゴメンねユーリ」

 後ろで大雑把に纏められている空色の髪が、彼のコテン、と首を傾げる動きに合わせて揺れた。無垢な金眼が今は少しだけ申し訳なさそうに細められている。
 魔法使いのフィンク。基本的に緊張感なくぼーっとしていることが多い彼だが、唯一オレを慕ってくれていると分かるメンバーだった。

「なっ、何で?理由は!?オレ、何か気に障るようなことした!?」
「ウ~~ン」

 思考を巡らすように上を見ていたフィンクは、ややあってから足元に縋りついているオレへと視線を戻して、

「なんか、足手まといかなって」

 足手まといかなって。
 足手まといかなって…。
 足手まといかなって……。

 脳内で繰り返し響くその言葉に、もはや反抗の意欲すら削がれて呆然とする。
 無害そうな顔しやがって…、何気に一番胸にグサッと来たよフィンク……。


 何だよ…っ!魔王を倒す為にずっと頑張ってきて、あともうちょっとだな!ってこの前皆で盛り上がったりしたじゃん!
 ……そりゃあ皆それぞれ特技があって強いし、冒険で魔獣が倒せなくて困ったこととかも無いから、オレが居なくてもって言われれば……いやでも勇者だし!魔王倒すんなら勇者は必要でしょ!ほら、王様に貰った勇者の聖剣もオレが持ってるし!それにコイツら三人、個人主義過ぎて俺が居ないとまともにパーティーとして機能しないし!?
 ……それなのに…っ、ずっと足手まといだと思われてたって事か?邪魔だって思われてたって事かよ…っ!

 ツンと鼻の奥が痛んで、地面がだんだんとぼやけていく。

「……一緒に魔王倒しに行こうって言ったのに」
「ウン。ゴメン。いっしょには行けなくなった」
「ヤヒロも、オレの事、足手まといだって思ってる?」
「……ああ。りぃな」

「……、……ザジ…、──っ!!」

 目が合った瞬間、ザジに抱きしめられた。逞しい腕がぎゅう、と背中に回って、身体が隙間なく密着する。どこか安心感のあるザジの匂いが鼻腔を満たした。じんわりと強張りを溶かしてくれるような体温と、傍に居ると教えてくれる耳元の吐息に、オレは期待する。もしかしてさっきまでのは嘘だったんじゃないか。いつもの揶揄いだったんじゃないかって。

 ……抱擁を解いたザジの手に聖剣が収まっているのを見て、そんな甘えた理想は粉々に砕け散ったが。

 呆然とするオレの軽くなったベルトに、ザジは聖剣の代わりだと言わんばかりに今日まで自身が使っていた普通の剣を差しこんだ。
 そして、もう覆らないであろう決定事項を淡々と告げる。

「──これから先は3人で行く。お前は村に帰れ。……聖剣は、俺が代わりに使う」

 その言葉を最後にザジの濃緑の瞳は逸らされ、影も形も見えなくなってしまった。ヤヒロとフィンクもそれぞれオレに背を向けて去っていく。

 ……待てよ!急すぎだろ!本気で言ってんの……!?

「……っ!!オレが居なくて後で困っても知らないからなっ!!やっぱ抜けないでって言うなら今の内だぞ!!……っ、あ、あーあ!!明日お前らが好きなシチュー作ってやろうと思ってたのになあ!!すぐ謝ったら…っ、許してやるのになあっ!!」

 ああ情けない。声が震える。上手く息が出来なくて、ひっ、と引き攣る喉を一生懸命誤魔化して歯を食いしばった。こちらを一切振り返る事なく遠ざかる3人の背中が、まだそんなに離れていないにもかかわらずぼやけて見えなくなる。

 唯一のオレの特技とも言っていい母さん直伝の手作りシチューで釣ってみようとしたが、ビックリするほど誰もノッてきませんでしたとさ。

 ひゅるり。

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