笑って下さい、シンデレラ

椿

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あっという間に授業を終え、気付けば日も傾いた放課後である。
開放感にざわつく教室内で、僕は1人頬杖をつきながらどうやったら新君と一緒に帰ることが出来るのかを真剣に考えていた。

僕としては勿論一緒に帰れたら嬉しい。だけど今朝の事もあるし、流石に横を歩くのは嫌がられそうだよな…。
新君と僕は別のクラスだから、本当なら僕がむこうの教室まで「一緒に帰ろう!」って迎えに行きたかったんだけど、…仕方がないか。下校デートは諦めよう。
……さて、そうと決まれば、校門で待ち伏せした後バレないように新君の後ろをつけて下校デート気分を味わう「新君ウォッチング下校デート(架空)」の出番だ!!

やることが決まればその後の行動も早い。
同じ帰宅部の新君が帰ってしまう前に!と、僕は急いで帰宅準備を済ませ、そのまま席を立ちかけて、
──教室前方の扉前、新君に似た人影が見えたような気がしてビタリと動きを止めた。

学校指定のスクールバッグを緩く肩にかけた一人の男子学生は、教室内に背を向ける形で立っていた。手元のスマホを操作しているためか俯き加減の顔は見えづらいが、その絹糸のように艶めく薄茶色の頭髪とスラリと引き締まる9頭身の肉体、溢れ出る美のオーラ、ついでに横を通り過ぎていく他の生徒の色めきだった感じは……、間違いない。正真正銘ご本人、輝く美貌の新君である。

…え!?なぜ新君がここに!?

驚きから視線を逸らせないでいると、不意に新君が顔を上げてこちらを見──、る前に僕はすかさず視線を机の上へと落とした。

いやいやいや、新君と目が合うとかそんなこと思ってないけど!もしも奇跡的に目があちゃったら「何見てんだコイツ、キモ…」って引かれるじゃん!?それは嫌じゃん!?

びっくりしたけど、多分、このクラスに居る友達を待ってるとか…だよな?
それなら丁度いい!新君がその友達と一緒に帰るなりする時に、僕もこっそり後ろから追いかけさせてもらおう!
校門で待つより確実だし、ツイてるな僕~!




──そんなことを思ってから、30分が経ちました。
新君は変わらず扉の前で立ったままスマホを弄っています。今しがた、化粧をしながら愚痴を零し合っていた女子2人が「語ろ語ろ!」とテンション高めに教室を出て行ったところです。新君は彼女らに見向きもしませんでした。
この教室には、もう僕しか残っていません。

……え??何で??もう誰も居ないんですけど??新君いつ帰るの!?!?

急遽広げた逆さまの教科書に隠れながら予想通りではない現状に動揺していると、
そんな僕を嘲笑うかのように、先程からずっと動かなかった新君がタン、と静かな音を立てて教室内へと足を踏み入れた。
そして、

「帰んねえの?」
「……ンエッ!?!?」

まさか話しかけられるとは思っていなかったので、咄嗟に裏返った声が出る。
新君はいつの間にか僕が座る席の前に立ち、無表情でこちらを見下ろしていた。

「あ、う、うん。…もうちょっと…かな?」
「フーン……」

僕の返答に興味なさげにそう返したかと思うと、何の気まぐれか、新君は前の席に腰かけた。しかも、背もたれを前にして跨るような恰好、つまり僕と向かい合う形で。

何!?どこでもいいから座りたかっただけ!?あ、分かった!一旦教室から出て行った友達を更に今待ってる状態ってことだね!僕に話しかけたのも暇つぶしの一環と!うん、それならしっくりくる!
…にしても、やっぱり近くで見たら100億倍カッコイイーー!っとヤバ、ガン見し過ぎた…!
あっ、見てません見てません~!

「…残って何してんの」
「なっ、ななな何も!?」
「は?じゃあ帰れば?」

新君が、僕の持つ逆さまの教科書を見て訝し気に言う。全くもってその通りの正論である。

流石の僕も、本人を前にして「本当は貴方が帰るのを待ってたんですけど」などというストーカーともとられそうな発言をする勇気はない。…仕方がない、一旦帰るふりをして校門で隠れて待つか。

僕がしょんぼりと気持ち肩を落として立ち上がると、ほぼ同時に目の前の新君もバッグを持って席を立った。

あれ??これはまさか??

「えっと、新君も、もういいの?」
「うん」

よ、よ、よっしゃーー!!奇跡的に帰るの被ったーー!!

もう友達を待つのは辞めたらしい新君と、二人そろって人の少ない校内を進む。
会話は無かったが、登校時とは異なり新君の足取りはゆっくりと落ち着いていて、隣を歩き易い。

もしかして、僕に合わせてくれてる?

そんな自分に都合の良い幸せな妄想を噛み締めていると、いつの間にか下駄箱がある玄関へと到着してしまっていた。クラスが違うため、僕と新君の靴の場所は棚1つズレている。物理的な距離を取らざるを得ない状況に、僕は新君との時間の終わりを察した。

出来れば校門までは隣を歩きたかったけど、外に出たら人の目に触れる機会は増えるし、一緒に居られるのはここまでだろうな。

自身の靴箱の方に向かう新君の背中越しに、僕は声を張る。別れは潔く!だ!

「じゃ、じゃあ、また明日!」
「は?まだ何かあるわけ?」
「いや、何も無いけど?」
「??帰り道同じだよな?」
「うん!お先にどうぞ」

「「??」」






ベストポジション…ッ!

帰り道、十数歩前を歩く新君の後姿を目に焼き付けながら僕は無言で拳を握りしめた。
校門を抜けるくらいまで「え?今から家に帰るんだよな??」と怪訝な顔で何回も確認されてしまったけど、多分あれは「帰り道が同じだからって一緒に帰れるとか思ってんなよ」という念押しだと思う。大丈夫、僕は分かってるからね新君!

新君はやっぱり後姿も美しい。こう、近すぎず、かといって細部が見えない程遠くも無い距離は本当に理想の尾行ポジションだな。…もう尾行って言っちゃってるけど。

姿勢の良い新君の背中に見惚れていると、唐突にどこか不満そうな表情の彼が後ろに振り向く。

「お前さぁ…」
「あっっ!!ごめん!!!見てません!!!」

すぐに目を伏せ、見ていたことを謝ったのに事実を否定するというちぐはぐな発言をする僕。
前方から聞こえたのは、呆れている風にも聞こえる小さなため息だ。

「…そうじゃなくて、」

「おーーい、新っ!!
何々、珍しく1人じゃーん!」

新君が何かを言いかけて、しかしそれを遮るように現れたのは今朝も姿を見た友人A──もとい新君の友達の鼠入そいり 宙太ちゅうた君である(秀真調べ)。
僕の横を駆け足で通り抜けた彼は、僕の事など存在しないもののようにまたも新君の肩に腕を回して笑った。

ふっ、僕の隠密レベルも中々の物だな!
…っていうかやっぱりこの人新君との距離近くない??羨まし……くはないけどね!?
僕は新君の恋人…。僕は新君の恋人(期間限定)…。

「……宙太。…お前部活は?」
「それがさあ、聞いてくれよ!何か陸上部が近々大会あるとかで、俺らグラウンド使えなくなってさー!」

自然な流れで帰路を進みだす二人を、僕は再度一定の距離を保ちながら追いかける。
友人と話すときの新君は表情が柔らかくなって楽しそうにしていることが多いので、僕も彼のそんな姿を見るのは好きだ。

これこれ!これが理想の下校(尾行)だよ!!



「あれ?新そっちの道?いつもこっち通るじゃん。ほら、前に遠回りだから―とか言って嫌がって、」
「…今日はそういう気分だから!!」
「ふーん。…ま、いいけど!たまには遠回りの散歩に付き合ってあげますか~!」


「(遠回り!?その分だけ新君との下校デート(架空)の時間が増える!ラッキー!)」

勿論最後まで付いて行く僕であった。


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