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十一章 あなたとの恋路は縁のもの
あなたとの恋路は縁のもの【5】
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お盆休みは初日だけお互いに実家に帰り、二日目はその足で温泉旅館で一泊し、三日目の夕方に家に戻った。四日目には真夏だというのにテーマパークに行き、ふたりしてクタクタになるまで遊んだ。
ふたりの休暇が丸々重なったため、普段できないことをしようと決めたのだ。五日目の今日はさすがに疲れ切ってしまい、まだベッドから出られないのだけれど。
「もう一時半か」
「そろそろ起きない? お腹空いたでしょ?」
「もうちょっとこのままがいい」
ぎゅうっと抱きしめられ、素肌に触れる翔の体の面積が大きくなる。密着したふたりの体にはなにも隔てるものがないから、つい昨夜のことを思い出してしまう。
けれど、甘えたような彼が可愛くて、お腹の虫が鳴かないことを願いながら逞しい胸板に頬をすり寄せた。
「……そういう可愛いことするのか」
「ダメ?」
「別にいいよ、志乃がこのまま俺に抱かれたいならね」
「……っ!」
低い声で紡がれた囁きには、色香がしっかりとこもっていた。吐息が触れた耳朶からゾクゾクとしたものが走り抜け、うっかり流されそうになる。
「ダ、ダメッ! そうなったら夕方になるでしょ!」
「ふぅん、志乃はそんなに濃厚なのがご希望ですか?」
「ちがっ……! そうじゃないからね!」
甘ったるくなった空気を変えるように、「お腹空いたね!」と体を離す。翔は楽しげに笑うと、再度私の体を引き寄せた。
「わかったわかった。今はしないから、あと五分だけ抱きしめさせて。ゆっくりできるのは今日までだし、明日からはお互いまた忙しくなるんだからいいだろ?」
私の髪を一撫でして「な?」と瞳をたわませた彼が、私の頬と唇にそっとキスを落とす。それだけで言い包められてしまう私は、なんて簡単なんだろう。
惚れた弱みって、きっとこういうことを言うんだ。
そんなことを考えてはいても心は幸福感で満たされていて、お盆休み最終日は優しい空気に包まれながら終わった――。
翌日、翔を見送り、三十分ほどして私も出勤した。
「いよいよ今日からね。午後一番に早速カットに入ってもらうわよ。新規だから指名をもらえるように頑張って」
夏さんの指示に返事をしてから普段通りに準備を終え、バックヤードで練習を始めた。お盆休み中も家で少しは練習したけれど、やっぱりお店の方が気が引き締まる。
あっという間に午後になり、予約の確認をしようとレジカウンターに行ったところで、ドアが開いてお客様が入ってきた。
「いらっしゃいま――!?」
「こんにちは。カットの予約を入れてる諏訪です」
「……っ、なんで……」
「だって、志乃の再デビューの最初の客になりたかったから」
そう言って笑うのは翔で、会社にいるはずの彼が目の前にいることに驚きを隠せない。目を白黒させていると、手が空いた夏さんがやってきた。
「彼ね、志乃ちゃんのデビューが決まった翌日に連絡をくれて、『内緒で予約させていただけますか?』って。事情を訊いたら恋人だって言うから協力しちゃった」
にこにこと笑う彼女と翔に、サプライズを仕掛けられてしまったみたいだ。まだ平静を装えなかったけれど、なんとも彼らしい。
「仕事は大丈夫なの?」
「半休を取ったんだ。タケには呆れられたけど」
肩を竦める翔は、私が思っている以上に〝一番〟にこだわっていたようだ。嬉しいけれど、夏さんに恋人を紹介するのは恥ずかしかった。
「ほら、早くご案内して」
「は、はい……。それでは諏訪様、こちらへどうぞ」
店内に案内して、椅子に座った翔と鏡越しに目が合う。悪戯が成功した少年みたいな顔をした彼は、まるで高校生の頃の〝諏訪くん〟だ。
「今日はどのようにされますか?」
「お任せします」
けれど、私は無邪気さを覗かせた翔の笑顔に弱いのだ。
仕事中だというのに彼にときめいてしまい、そんな自分を叱責しながら「かしこまりました」と微笑んだ――。
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