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五章 花は折りたし梢は高し……でもないかも?
花は折りたし梢は高し……でもないかも?【5】
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「あ、の……諏訪くん……?」
緊張でかすれそうになった声が、静かなリビングに落ちていく。頼りげのない問いかけに、諏訪くんがふっと瞳をたわませた。
「怖くない?」
その質問の答えは、YESだ。怖くはないし、それは間違いない。
「う、うん……」
素直に頷いたものの、持て余したままの感覚をどう説明すればいいのか思いつかなくて、声にも顔にもためらいが顕著に出てしまった。
「じゃあ、あと三十秒だけこのままでいよう」
ところが、決定事項のように言われてしまうと、彼の意図は察せないままうっかり小さく頷いていた。
三十秒がこんなにも長いと思ったことなんて記憶の中ではない。それなのに、この状況下で意識してしまうと、異様に長く感じた。
あと何秒かわからなくて、いずれやってくる終わりを大人しく待つことしかできない。息を止めないように意識すると、余計に緊張が大きくなった。
「はい、終わり」
ところが、程なくしてあっさりと手を離されれば、急に心にぽっかりとしたものが芽生え、なんとも言えない気持ちに襲われた。
安堵感じゃない。けれど、この感覚がなにを意味するのか理解できない。
「大丈夫だった?」
頬と右手に感じていた温もりが遠のいたせいか。それとも、笑顔を見せる諏訪くんの平素の態度に、あくまでリハビリの一環だったことを自覚させられたせいか……。
もしくは、もっと他の理由だったのかもしれない。
明確な答えが出ない中、ひとまず彼に心配をかけないように首を縦に振った。
「抵抗感とか嫌悪感とかあった? 俺のことは気にせず、正直に答えて」
「そういうのはなかった……と思う。でも……」
どう説明すればいいのか、と言葉に詰まる。すると、諏訪くんが「でも?」と私をじっと見つめてきた。
彼の真っ直ぐな双眸にたじろぎ、緊張のせいか胸がきゅうっと苦しくなる。
「えっと……上手く言えないんだけど……」
「上手く言う必要なんてない。俺は香月の正直な気持ちが知りたいだけだから」
諏訪くんの声はいつも優しい。だから、私は彼の前だけでは臆せずにいられるのかもしれない。
「緊張したっていうか……でも、諏訪くんの手が離れると、なんとも言えない気持ちになって」
「手が離れたら安心した?」
「……そうじゃないと思う」
安心なんてしていない。それなら、諏訪くんの体温を感じていたときの方が、そういう感覚には近かった。
「じゃあ、寂しかった、とか?」
思いもしなかった言葉に、瞬きを繰り返してしまう。自分では思い至ることはなかったものだけれど、言われてみれば遠からず……という感じがあった。
「それはないか。ごめん、忘れて」
「ううん、そうかも! 寂しいとは違うかもしれないけど、心がぽっかりする感じがあったから、意外とそういう感覚に近かったのかもしれない」
答え合わせをするがごとく、うんうんと頷く。微妙に違う気はしたものの、彼の言うことがなんとなく腑に落ちた。
ふと、唐突になにも言わなくなった諏訪くんを見ると、彼は呆気に取られたように静止していた。
緊張でかすれそうになった声が、静かなリビングに落ちていく。頼りげのない問いかけに、諏訪くんがふっと瞳をたわませた。
「怖くない?」
その質問の答えは、YESだ。怖くはないし、それは間違いない。
「う、うん……」
素直に頷いたものの、持て余したままの感覚をどう説明すればいいのか思いつかなくて、声にも顔にもためらいが顕著に出てしまった。
「じゃあ、あと三十秒だけこのままでいよう」
ところが、決定事項のように言われてしまうと、彼の意図は察せないままうっかり小さく頷いていた。
三十秒がこんなにも長いと思ったことなんて記憶の中ではない。それなのに、この状況下で意識してしまうと、異様に長く感じた。
あと何秒かわからなくて、いずれやってくる終わりを大人しく待つことしかできない。息を止めないように意識すると、余計に緊張が大きくなった。
「はい、終わり」
ところが、程なくしてあっさりと手を離されれば、急に心にぽっかりとしたものが芽生え、なんとも言えない気持ちに襲われた。
安堵感じゃない。けれど、この感覚がなにを意味するのか理解できない。
「大丈夫だった?」
頬と右手に感じていた温もりが遠のいたせいか。それとも、笑顔を見せる諏訪くんの平素の態度に、あくまでリハビリの一環だったことを自覚させられたせいか……。
もしくは、もっと他の理由だったのかもしれない。
明確な答えが出ない中、ひとまず彼に心配をかけないように首を縦に振った。
「抵抗感とか嫌悪感とかあった? 俺のことは気にせず、正直に答えて」
「そういうのはなかった……と思う。でも……」
どう説明すればいいのか、と言葉に詰まる。すると、諏訪くんが「でも?」と私をじっと見つめてきた。
彼の真っ直ぐな双眸にたじろぎ、緊張のせいか胸がきゅうっと苦しくなる。
「えっと……上手く言えないんだけど……」
「上手く言う必要なんてない。俺は香月の正直な気持ちが知りたいだけだから」
諏訪くんの声はいつも優しい。だから、私は彼の前だけでは臆せずにいられるのかもしれない。
「緊張したっていうか……でも、諏訪くんの手が離れると、なんとも言えない気持ちになって」
「手が離れたら安心した?」
「……そうじゃないと思う」
安心なんてしていない。それなら、諏訪くんの体温を感じていたときの方が、そういう感覚には近かった。
「じゃあ、寂しかった、とか?」
思いもしなかった言葉に、瞬きを繰り返してしまう。自分では思い至ることはなかったものだけれど、言われてみれば遠からず……という感じがあった。
「それはないか。ごめん、忘れて」
「ううん、そうかも! 寂しいとは違うかもしれないけど、心がぽっかりする感じがあったから、意外とそういう感覚に近かったのかもしれない」
答え合わせをするがごとく、うんうんと頷く。微妙に違う気はしたものの、彼の言うことがなんとなく腑に落ちた。
ふと、唐突になにも言わなくなった諏訪くんを見ると、彼は呆気に取られたように静止していた。
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