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ふたたびスカイツリー de らんでぶ~
第一話
しおりを挟む灯里は髪の毛を短く切った。
十年近く腰の長さまで伸ばしていたが、思い切ってショートにすることにした。
日曜日に鎌倉から帰ってきたあと、陽太にお願いして短くしてもらうことにしたのだ。
「ほんとに、いいんだな」
と念を押すように聞かれたけれど、灯里の心は決まっており、もういい加減いろんなことからきれいさっぱり解放されたい気分になっていた。
あんなに長かった髪が一気に短くなると重量も減るようで、その日はシャンプーをしたときに頭を洗うのを楽に感じて感動した。ドライヤーにかかる時間も短縮され、久しぶりに見る短いもみあげも可愛いらしく思えて嬉しかった。襟足が少しスースーして変な感じだったが、一日もたつとすぐに慣れた。
休み明けの火曜日に出勤すると、灯里の短くなった髪に気付いた山崎SVが、
「あら。なかなか、いい感じよ」
と声をかけてくれて、その日は気分よく仕事に取り組むことができた。
水曜日の昼食時には、大野がまた懲りずにちょっかいを出してきたが、灯里は毅然とした態度を崩さなかった。陽太が言うように大野が仕掛けてくるゲームには乗らない、と決めたからだ。そのためもあって周囲には、大野が勝手に何かをやっているだけのように見えたようだ(事実その通りなのだが)。
木曜日は、パンダ姿の陽太と初めて出逢ってからちょうど二週間。今日も朝から快晴だった。昨日すでに関東地方の梅雨が明けていたことを、灯里は今朝のニュースで知った。
陽太ははりきって早起きをすると、ダイニングテーブルに天ぷらづくしの朝食を並べてくれて、おかげで灯里は、朝から定食屋に来たような気分を味わうことができた。
久しぶりに定時過ぎに仕事を上がることができた灯里は、浅草駅から乗った電車を隣のとうきょうスカイツリー駅で降りる。陽太から、今日こそは上に行ってみたい、と朝食時に言われていたので、帰りに寄ることにしたのだ。
東京ソラマチでいくつかのお店を見て歩き四階にあるスカイアリーナという広場に出たところで、スカイツリーを見上げてみる。
大きい。まったくもってこの間と同じ感想だが、やはりそう思ってしまう。スカイツリーは空に向かって伸びる木をイメージして作られたそうだが、まさに大樹。
先日は雨模様だったが今日は、沈む夕日と薄闇が迫る青紫の空が混ざり合い、また違う表情を見せていた。この間よりも時間が早いせいか、まだライトアップはされていない。
(ほんっと、でっかいよなあ)
灯里の鞄からぶらさがる陽太も、そうつぶやいたあとは、しばらく見入っていたようで静かにしていた。
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