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江ノ島 de らんでぶ~
第三話
しおりを挟む江ノ島駅に到着したのは午前十一時頃。
だいぶ日差しが強く気温も上がってきたので、灯里は折り畳みの日傘を差した。改札を出てから、すばな通りという商店街を歩いていると、サーフボードを脇に抱えた若い男女とすれ違う。午前中早い時間からサーフィンを楽しんでいたのだろう、いかにも湘南という感じがして、灯里の気持ちも浮き立った。
しばらく歩くと正面が開け、遠くに江ノ島が見えてきたのだが、陽太がこっちこっち、と言ってきたので右手に折れた。そのまま、べんてんばし、と書かれた小さな橋を渡ると、不思議な建造物が見えてきて、
(あれが片瀬江ノ島駅だよ。竜宮城をイメージして作ったんだって)
と、陽太が説明してくれた。
中華風の建物でとても駅舎には見えない。赤い天守閣のようなものに若草色の屋根瓦。あっ、しゃちほこが。正面の屋根には金の龍のしゃちほこが付いているが、他のしゃちほこは全て金色のイルカになっていた。
へえ~、面白い。先日の東武日光駅の山小屋風駅舎に引けを取らないユニークさだ。
(あの白いゲートをくぐったら、異世界にでもつながっていそうだね)
駅の改札前にある白いアーチ状の門を見て、ついうっかり恥ずかしい台詞を口に出してしまったというのに、
(駅の中にはクラゲの水槽もあるんだよ)
陽太からは特につっこまれることもなく、普通に流されてしまった。あとで昼食のとき、あのときは一人で浮かれて恥ずかしかったと愚痴を言ったら、
(だって、何度も見てるもん、仕方ないじゃん。それより俺の通り名、ダークウイング様に、冷静に返した灯里の方がひでえと思う)
と言ってきて、あの時のことをまだ気にしていたんだ、と考えると可笑しくなった。
まずは水族館からだよね~と言われて入ったのが、新江ノ島水族館。江ノ電の一日乗車券を見せたので入場料を割引してもらえた。
タイムスケジュールを確認すると、ちょうどお昼からイルカショーをやるようで、館内をゆっくり観ながらショーが行われるスタジアムへ向かうことにした。
最初にクラゲの展示エリアに行ってみた。クラゲファンタジーホールという名のとおり幻想的な空間になっていて、青というより、蒼の世界。
十数種類のクラゲが漂う姿を、ただ眺めるだけなのだが、意外と面白い。
透明なもの、羽のようなものがついているもの、形がキノコのように見えるものなど、多種多様な形態をしたクラゲが、それぞれの水槽で自由に泳いでいる。
こんなに間近でクラゲを見たことはなく、目の前の海にこれと同じ生物が、今もどこかで生きているということに、まさに生命の神秘だなあと感慨深い思いがした。すぐに飽きるだろうと思っていたのに、灯里も陽太も見飽きることがなく、ふわふわと水中を漂うクラゲをしばらくのあいだ眺めていた。
(灯里。そろそろ行ったほうがいいよ)
十二時に近くなった頃、陽太にそう促されたので、灯里は軽く早歩きをしながらメインプールのあるスタジアムへ向かった。
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