パンダ☆らんでぶ~

藤沢なお

文字の大きさ
上 下
44 / 57
江ノ島 de らんでぶ~

第三話

しおりを挟む

 江ノえのしま駅に到着したのは午前十一時頃。

 だいぶ日差しが強く気温も上がってきたので、灯里あかりは折り畳みの日傘を差した。改札を出てから、すばな通りという商店街を歩いていると、サーフボードを脇に抱えた若い男女とすれ違う。午前中早い時間からサーフィンを楽しんでいたのだろう、いかにもしょうなんという感じがして、灯里の気持ちも浮き立った。

 しばらく歩くと正面がひらけ、遠くに江ノ島が見えてきたのだが、陽太ひなたがこっちこっち、と言ってきたので右手に折れた。そのまま、べんてんばし、と書かれた小さな橋を渡ると、不思議な建造物が見えてきて、

(あれが片瀬かたせ江ノ島駅だよ。竜宮城をイメージして作ったんだって)

 と、陽太が説明してくれた。

 中華風の建物でとても駅舎には見えない。赤い天守閣のようなものに若草色の屋根瓦。あっ、しゃちほこが。正面の屋根には金の龍のしゃちほこが付いているが、他のしゃちほこは全て金色のイルカになっていた。

 へえ~、面白い。先日の東武とうぶ日光にっこう駅の山小屋風駅舎に引けを取らないユニークさだ。

(あの白いゲートをくぐったら、異世界にでもつながっていそうだね)

 駅の改札前にある白いアーチ状の門を見て、ついうっかり恥ずかしい台詞を口に出してしまったというのに、

(駅の中にはクラゲの水槽もあるんだよ)

 陽太からは特につっこまれることもなく、普通に流されてしまった。あとで昼食のとき、あのときは一人で浮かれて恥ずかしかったと愚痴を言ったら、

(だって、何度も見てるもん、仕方ないじゃん。それより俺の通り名、ダークウイング様に、冷静に返した灯里の方がひでえと思う)

 と言ってきて、あの時のことをまだ気にしていたんだ、と考えると可笑しくなった。

 まずは水族館からだよね~と言われて入ったのが、新江ノ島水族館。江ノ電の一日乗車券を見せたので入場料を割引してもらえた。

 タイムスケジュールを確認すると、ちょうどお昼からイルカショーをやるようで、館内をゆっくり観ながらショーが行われるスタジアムへ向かうことにした。

 最初にクラゲの展示エリアに行ってみた。クラゲファンタジーホールという名のとおり幻想的な空間になっていて、青というより、あおの世界。

 十数種類のクラゲが漂う姿を、ただ眺めるだけなのだが、意外と面白い。

  透明なもの、羽のようなものがついているもの、形がキノコのように見えるものなど、多種多様な形態をしたクラゲが、それぞれの水槽で自由に泳いでいる。

 こんなに間近でクラゲを見たことはなく、目の前の海にこれと同じ生物が、今もどこかで生きているということに、まさに生命の神秘だなあと感慨深い思いがした。すぐに飽きるだろうと思っていたのに、灯里も陽太も見飽きることがなく、ふわふわと水中を漂うクラゲをしばらくのあいだ眺めていた。

(灯里。そろそろ行ったほうがいいよ)

 十二時に近くなった頃、陽太にそう促されたので、灯里は軽く早歩きをしながらメインプールのあるスタジアムへ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

UNNAMED

筆名
ライト文芸
「——彼女は、この紛い物のみたいな僕の人生に現れた、たった一つの光なんです!——」 「——君はね、私にはなーんの影響も及ぼさない。でも、そこが君の良さだよ!——」  自身への影響を第一に考える二人が出会ったのは、まるで絵に書いたような理想のパートナーだった。  紛い物の日々と作り物の事実を求めて、二人の関係は発展してゆく——    これはtrueENDを目指す、世にありふれた物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ご飯を食べて異世界に行こう

compo
ライト文芸
会社が潰れた… 僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。 僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。 異能を持って、旅する先は…。 「異世界」じゃないよ。 日本だよ。日本には変わりないよ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...