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おうち de らんでぶ~
第十話
しおりを挟む「それで、その髪型のまま学校に行っちゃったんだ……」
灯里があちゃあ、と相槌を打ち、陽太はにやっと笑って話を続けた。
「そっ。久々に登校したクラスメイトが銀髪になってんじゃん。教室にいたみんな、目を合わせちゃいけない、でもなんか気になる、的な雰囲気になってさ。まあ、すぐ職員室に呼び出されたんだけど。俺にしちゃあ、別に悪いことしたつもり全然なくて。まあ速攻で黒く染め直して短髪にしてもらいにまた同じ美容院行ったんだけど、お兄さん、すげえ笑ってウケてたなあ」
それはそうだろう。
赤でも茶色でも金色でもなく、銀色。
銀髪で登校する中学生なんて、思いっきり何かあったんじゃないかって疑われる。クラス中が騒然とするのも無理はない。
「あの時、かあちゃんが忙しくて代わりにばあちゃんが学校に呼び出されてさ。すげえ迷惑かけたと思ってる。でもばあちゃんも肝っ玉が据わった人で『ではわたしも、この髪を黒く染め直さなければいけませんね』なんて冗談飛ばして、担任が苦笑いしてたっけ」
「ユニークな、おばあさま、だったのね」
「あはははは! 確かに。ま、でもそれからは、なんとか普通に学校に行けるようになってさ。また部活やら勉強とか、友だちと遊んだり、いろいろ忙しくなってた頃に、ばあちゃん、癌になっちゃって。余命一年って言われたんだけど、それよりずっと早く、あっという間に逝っちゃった。最後まで、自分のことより俺のこと心配してくれて、すっげえ、いいばあちゃんだった」
陽太はひととおり話し終えると、急須の茶葉を新しく取り替え、自分と灯里の湯呑みに緑茶を注いだ。
陽太に料理を教えてくれたのも、その祖母だという。
灯里は、母方の祖父母は幼い頃に亡くなっていて、父方の祖父母とは元々疎遠のため、おじいちゃん、おばあちゃんという存在のことがよくわからない。両親の葬儀で久しぶりに父方の祖父母に会ったのだが、何て呼びかけていいのかわからず、火葬後すぐに帰ってくれて、逆にほっとしたのを覚えている。
陽太が中学当時のことを懐かしそうに話し聞かせてくれている間、灯里は心がささくれ立ち、何度か長い髪をかきあげつつ、落ち着きを取り戻そうとしていた。
この気持ちはなんなのだろうか?
灯里は、陽太の話を聞きながら、うらやましく感じていることに気がついた。
父親は不在、母親は看護師で仕事が忙しく、帰宅するのも遅くなる。息子の陽太は、一時的とはいえ登校拒否になった。
これだけ聞くと複雑で、どこか淋しげな家庭環境をイメージするが、陽太のところは、ぜんぜん違う。明るくて温かい。子どもである陽太のことも心配はするが信用していて、ちゃんとそれぞれが向き合って家族をつくっている、という印象だ。
どうしてうらやましいのだろう?
六年前に両親がいなくなるまでは、私にも「家族」がいたはずなのに。
翌日の月曜も休みだったので自宅でゆっくり過ごし、陽太がつくったポークカレーを朝と昼、夜はカレーうどんにして食べきった。
そうして土曜の出来事をすっかり忘れていたのだが、火曜日に出社した灯里は久しぶりにずっしりと、重たい塊を飲み込んだような感覚に襲われるのだった。
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