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おうち de らんでぶ~
第九話
しおりを挟む陽太の母方の祖母は、陽太が中学二年の夏に病気で亡くなったそうだ。
「俺、中一の夏休みが終わったあと、反抗期っていうか、まあ学校に行けなくなってさ」
父親がいないのは、最初からのことで当たり前だったし、それをからかうような奴は小学校までしかいなかったし、そもそもそんな馬鹿ヤロウは相手になんかしなかった。中学生になってからはみんな部活とか、勉強とかで忙しくなってたから、あまり人のことなど気にするヒマもない。とはいえ自意識過剰なお年頃なので、自分がどんな風に人から見られているのかだけは、みんな敏感に気を張り巡らしているから、教室にいると息が詰まりそうになっていた。
「二学期になってすぐ、合唱コンクールっていう行事があってさ、その練習するからって放課後にクラス全員、強制的に参加させられたんだけど、歌ってる最中に急に吐き気がして、もう無理、って感じでトイレに駆け込んだんだ」
別に腹痛でも風邪だったわけでもなく、ただただ、あの教室でみんなと同じ空気を吸うことに気持ち悪さを感じて、ひとりで飛び出してきたのだそうだ。練習が終わるまでトイレの個室にこもって、ずっと耳を塞いでいたらしい。そして、それから二カ月くらい、学校に行けなくなったのだそうだ。
「だからって、かあちゃんもばあちゃんも、特に何か言ってくるようなことはなくて。俺も家でゴロゴロ漫画を読んだり、気が向いたら教科書開いてみたりして、適当に過ごしてた。まあ、その間、担任と部活の顧問は様子見に来たみたいだけどさ。あ、俺、走るのが早かったから、陸上部員だったんだよねー」
と陽太はそこでちょっと自慢げに言った。夏前に地区で行われた新人戦にも、短距離と中距離走で優勝したらしい。
「で、十一月になってだいぶ涼しくなってきた頃、いい加減このままじゃ、ヤバいんじゃないかって思い始めて。ようやく外に出る気になったんだけどさ、じゃあどうしようって考えて」
考えた末に陽太は何故か美容院に行くことを思いついたそうだ。それまでは祖母に髪を切ってもらっていたそうなので、初めての。いわゆる美容院デビューをしに行ったのだという。特にどういう髪型にしたいという考えもなく少し伸びたから整えてもらおうと思い家から一番近い美容院に行ったところ……。
「そのとき担当してくれたお兄さんが、面白い人でさ。今、学校行けなくて休んでるんですって話したら、じゃあ、今しかできない髪型にしちゃう? 何でも好きな髪型リクエストしてよ、って言ってくれて」
で、まっさきに思い浮かんたのが、当時好きだったキャラの髪型だったという。
「でもまさか、その髪で俺が学校に行くとは思わなかったみたいだよ」
陽太がお願いしたのは幕末の江戸をデフォルメしたファンタジー漫画の主人公の髪型。万事屋を営む銀髪の侍だ。再現度が半端なく、鏡を見て嬉しくなり、にやけたそうだ。
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