パンダ☆らんでぶ～

おうち de らんでぶ～

第七話

　初めてのサークル参加で、とにかく人の注目を集めないと本を購入してもらえないと考えた私たちは、コスプレにもチャレンジすることにした。当時人気だったあるアニメの同人誌を描きつつ、そのアニメキャラのコスプレをするために衣装を作りあげて……と、とにかく寝る間を惜しんで楽しんでいた。

  人生初のコスプレは、全身ヒーロースーツを着込むキャラクターだったため、顔出しするのが嫌だった私にはちょうどよかった。友人は緑で私は赤色の、ペアで活躍するまるでロボットのような二人のヒーローになりきり、おかげで当日用意した同人誌はすべて完売することができた。

　自分が描いた本を誰かに購入してもらえるということは、高校の文化祭ですでに経験してはいたものの、やはり嬉しいものだった。初めてのコミケは楽しい思い出になった。ただどうしても、人の多さにぐったり疲れを感じて、次のコミケからは「買い専」、つまり購入する側のみの参加になった。それも社会人になってからは足が遠のいている。

「多分ね。私は、同人誌は描けてもオリジナルの漫画は描けないんだと思う。描けるとしたら、イラストぐらいかな」

「へえ、そうなんだ。イラストを描けるのもすげえと思うけど。ＳＮＳでイラスト投稿したりしないの？　きっとフォロワー増えると思うな」

「ＳＮＳねえ……」

　灯里あかりは特にＳＮＳを利用していなかった。友人との連絡にＬＩＮＥを使うくらいで、普段から閲覧さえしていない。

「えーと、あなたは何かやってるの？　その、ＳＮＳを」

「え、俺？  やってるよ。俺のアカウント名は、『漆黒の反逆者』だし」

「……」

　どんだけ「漆黒」が好きなんだ。

「あ、俺のとこにメッセきてないか調べてもいい？」

　陽太ひなたが確認したいと言ってきたので、灯里はスマホを手渡した。

「ずいぶん無防備だな。なんか見られて困るようなものとかないの？」

「別に何もないわよ」

「ふーん。じゃ、借りるね」

　そう言って陽太は手元を忙しく動かすと、

「あ～、あったよ。やばい、けっこう連絡きてる。俺、オンラインでゲームやってるんだけど、この一カ月できなかったから、フレンドの間で死亡説出てるよ、やべえなあ」

　スマホの画面を見ながら何かぼやいているが、灯里にはよくわからなかった。それより今観たアニメもだが、そのゲームとやらも一カ月の間できていないとなると、陽太はこの一カ月をどう過ごしていたのだろう？

  陽太の素性はわかったとはいえ今現在、パンダ姿でここにいる陽太は本物の陽太なのだろうか？  人間の姿をした陽太が、どこか別に存在していたりするのだろうか？

　灯里は、陽太に何か聞きたいような怖いような、不思議な気分に包まれた。