パンダ☆らんでぶ~

藤沢なお

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おうち de らんでぶ~

第四話

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「俺もさ、かあちゃんの話、していい?」

ふいに陽太ひなたが、遠慮がちに聞いてきた。灯里あかりに気を遣っているようだ。

「うん。いいよ」

 陽太は器をテーブルに置くと話し始めた。

「かあちゃんはさ、看護師なんだよね」

 陽太の母親は、自分の父親(陽太の祖父)が持病を持っていて入退院を繰り返すのを見て育ったせいもあり、看護の道に進むことにしたそうだ。灯里の父親と再会する少し前にその父親は亡くなってしまい、だから陽太は祖父のことを何も知らないという。

 そして灯里の父と不倫関係になった末、身ごもった陽太をひとりで産み育てることに決めたのだが、それも母親(陽太の祖母)が陽太の面倒をみて何かと手助けをしてくれたおかげで仕事と両立することができたらしい。今は、勤め先の病院で主任看護師をしているとのことだった。

「ばあちゃんもいい人でさ。よくかあちゃんには内緒で、映画館や遊園地にも連れて行ってくれたんだよね」

 その祖母も既に他界したという。

 灯里と陽太は異母姉弟。共通なのは父親が同じということだけ。

 そういえば、もんじゃ焼きの作り方をおじさんに教えてもらったと言っていたけれど。

「ああ、うん。俺、おじさんが本当の父親だって知らなくて。たまに遊びに来る面倒見のいいおじさんだとずっと思ってたんだよね」

 陽太は続けて話した。

「だから子どものとき『しまん』に連れてってもらって、何かお願いしなさいって、かあちゃんに言われたときも、おじさんが本当のお父さんになってくれますようにってお願いしたりしてさ。だから、おじさんが死んじゃったあと、実は本当の父親だって聞いてなんか嬉しかった」

「そう、なんだ……」

 灯里は複雑な気持ちになる。灯里は正直、父親が苦手だった。

 父は仕事が出来る人間だったようだが家ではままな人だった。気に入らないことがあるとすぐ不機嫌になって黙り込むし、女はどうせ結婚して子どもを育てるのが幸せなんだから仕事なんてしなくていいなど、今どき時代錯誤なことを平気で言う昭和な人だった。

 でも恐らく、陽太の前ではそんな姿を見せたことなどないだろう。自分の一番いい姿だけを見せてきっと気のいいおじさんでいたに違いない。

 なんだかなあ。
 ずるいよなあ。

 それならお母さんと離婚して、陽太のところで家庭を築けばよかったのに。そしたら、もしかして死なずに今でも幸せだったかもしれない。それで私とお母さんは今頃二人してお父さんのグチを言いながら、一緒にご飯を食べていたかもしれないのだ。二人がいない今、灯里は煮え切らない怒りのマグマだまりを抱えたまま過ごしている。

「ところで、いつから私がその、あなたの異母姉いぼしだって気がついてたの? 最初から知ってたの?」

 陽太は初めてここで会ったときから、灯里のことを『お姉さん』と呼んでいた。昨日からずっと気になっていたのだ。

 すると陽太はリビングの仏壇に視線を合わせて言った。

「あの写真見て、そうなんだってわかった」

 リビングの仏壇には、両親と灯里の三人で撮った写真が飾られてある。

「お姉さんが俺を拾ってくれた夜、そこのベランダにぶらさがってから夜中に俺、でかくなってこの部屋に入ったんだよ。で、ソファーで横になってたら眠くなってさ。目が覚めたときにあの写真が目に入って、よーく見たらおじさんが写ってんじゃん。で、隣にはあの葬儀のときにいたお姉さんも一緒に映ってて。ああ、って気がついた」

  あの写真は美大の入学式に大学の講堂前で撮ったものだ。その時は珍しく父も休みを取ってくれた。……そうか、あれが家族三人で撮った最後の写真なんだ……。


 陽太はお粥を食べ終えると、温かいお茶をいれてくれた。

「なんかさ、仕事とかでいろいろ疲れてんでしょ? 片付けておくからゆっくりしなよ。あ、でも待って。寝る前にどこにアニメを録画してあるのかだけ教えて」

 灯里はテレビのリモコンの操作方法と、陽太が見たいというアニメの録画場所を伝えると先に横になることにした。顔を洗って化粧を落とす。

 疲れてしまった、もう眠ろう。
 シャワーも明日でいいや。

 楽しみにしていたアニメをこのあとまとめて見られるのが嬉しいらしい。陽太は、ふんふんと鼻歌(アニメのオープニング曲)を歌いながら食器を洗っている。お気楽だなあ。

 でもそういえば。

 これまで気にならなかったことが、ここで浮上してきた。

 どうして『パンダ』なのか?

 一番最初に疑問に思うべきところなのに、これまではぜんぜん気にもしていなかった。何も違和感がなかったと言えば嘘になるが、たいして疑問に思っていなかったのだ。でもパンダは異世界から来たわけではなく、中身は『ヒト』なのだ。私と半分血がつながっている『沢城さわしろ陽太ひなた』という名の弟。

 どうしてパンダの姿をしているのだろう?

 そんなことを考えているうちにだんだんまぶたが重くなり次第に意識が薄れていった。
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