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ヒレ・ゲーム
ヒレ・ゲーム4
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一人、純粋な疑問を投げかけたのはキリンAだ。
「ねぇねぇ、罪人って言ってたよね?」言いながら、怯えて焼肉公爵にすがりつく。
「落ち着こう。キラー・ハニーは煽ってるんだ。お互いを疑心暗鬼にさせたいのかも」
「みんなユーチューバーなんでしょ? どんな悪いことしたのか素直に話してよ」
「それ知ってなんになるんや?」
冷たく言い放つほんまKAINAの瞳は黒く淀んでいる。それ以上追及すれば、おぞましい何かが質問者に跳ね返ってきそうな凄みがあった。
「ほんまKAINAの言う通りだ。俺もはっきり言っとくぜ。動画拡散なんてのは、ほぼ毎日やってる。再生回数を稼いで金儲けするのは、今じゃ当たり前に大勢がやってるだろ。寧ろ、趣味で生配信してる奴の気がしれないな。アンチに家を突き止められて押しかけられて窓ガラスを割られたり、配信中に騒音の苦情をでっちあげられて警察を呼ばれたりするリスクがあんのによ」
タイタンフレッドの自慢するような声音に、サードはこの人のことを知っているような気がした。マスクをしている動画配信者なんていただろうかと首を捻る。
「お、見覚えでもあるか? タイタンフレッドって名前とこのマスクは一番売れてない動画で使ってる。それでもチャンネル登録者数は千人もいるんだぜ。早くマスク取って大物ユーチューバーだって見せつけてやりてぇ」
ユーチューブで稼ぐためには、最低千人のチャンネル登録者数が必要になる。もしかすると、この中で一番売れているユーチューバーがタイタンフレッドだったりするのかもしれない。
「顔見ないと誰か分かんないでしょ?」
「マスク外して電撃食らわされたら馬鹿みたいじゃねぇか」
もうこりごりなのだろう。でも、そんなにもったいぶったって顔なんか覚えていないと思う――。寧ろ、このマスクの方が見覚えがあるような。キラー・ハニーがマスクを外さずにこのゲームに彼を放り込んだのだから、きっと見たことがあるはずなのに思い出せなかった。どうでもいいことだったから覚えていないのかもしれない。
「あれは?」
焼肉公爵がプールを指を差した。背ビレだ。間違いない。このプールにはサメがいる。プールの水は淡水でも塩素でもなく海水だった。
「冗談じゃねぇだろ! おい、焼肉公爵! てめーは水泳部か?」
「よ、よく分かったな。俺は今は美容師だけど、高校は水泳部で、今でもときどき市営プールに泳ぎに行ってる」
「サメは何キロで泳げる?」
「えー、俺に聞かれても」
「うち知ってんで。確か時速四十キロやで。『動物の速さ比較動画』で観たことあるわ」
ほんまKAINAが言うには、サメは本来大人しい生き物なので、サメ映画みたいな悲劇はめったに起こらないそうだ。
「おまけに、人間なんか脂肪分が足りひんから、美味しくない餌って思われんで」
「いや、まだもう一つ問題がある。このゲームは感電死する可能性があるだろ。さっきの寄生虫飯とは訳が違う」
テカプリの発言にほんまKAINAが鼻を鳴らす。
「うちかて、この後腹痛で死ぬかもしれんやろ。あんさん、あんなもん食えんか? ここから出られたらな、アニサキス入りのマグロ食わせたるわ!」
ほんまKAINAは、まださっきのことを根に持っていたので、サードは思わず身構える。
だが、彼が歩み寄ったのは、軽はずみな発言で地雷を踏んだテカプリの方だった。ほんまKAINAがテカプリにつかみかかろうとした瞬間、タイタンフレッドはあろうことか足を突き出してプールにほんまKAINAを転落させた。
落下と同時に飛沫が上がり、慌ててプールサイドに上がるほんまKAINAだったが、スマートウォッチのタイマーが作動している。みんなのスマートウォッチにもほんまKAINAのタイマーと小文字で書かれてカウントが表示された。
四分五十六秒、四分五十五秒、四分五十四秒……。
カウントダウンは止まらない。
蒼白な顔になったほんまKAINAは悟った。このままだと、何もせず、感電死するだけだ。
「お前ら覚えとけよ!」
捨て台詞を吐いてプールに飛び込むほんまKAINA。大人しいと本人が説明したはずのサメが旋回して、潜水しはじめたほんまKAINAを追う。そういえば、タイタンフレッドに殴られてほんまKAINAは鼻血が出ていたんだ。サメはその血の臭いに反応しているのかもしれない。
「なんて酷いことをしたんですか!」
咎める氷河に対し、タイタンフレッドは唾を吐きつけた。サードの予想通り、氷河は反論しなくなる。
「制限時間に間に合わなかったら、感電すんだろ? そのとき一緒にいるサメも感電して死ぬだろうが」
テカプリがタイタンフレッドのジャージの襟をつかむ。
「君はそこまで考えて彼を蹴り落としたのか? なんて奴だ」
「俺が守ってやらなかったら、今頃ほんまKAINAに殴られてたかもな? ちょっとは感謝してくれていいんだぜ?」
タイタンフレッドがテカプリの腕をつかみ、プールへ押し出そうとする。
「待って? 待て待て、待てって! 僕はサードをなんとか連れていかないといけないんだよ。制限時間切れの放電を狙ってサメを殺すことより、どうすれば全員潜ることができるか考えないと」
「二十五メートルのクロールなら平均二十秒ぐらいだと思う。制限時間の五分は多い」
焼肉公爵が助言すると、タイタンフレッドは「なら余裕だな」と次に潜るためにジャージを脱ぎ捨てる。ズボンの下から漫画みたいなハート柄のトランクスが出て来て、サードは笑いを堪えるのに必死だった。みかんのここ♡は、押し殺した声が漏れ出ていたが。氷河くんも。でも、呼吸が苦しくなるであろうマスクを外さないあたりに、謎の美学を感じる。
トランクスで笑ってしまったが、タイタンフレッドがカメラのゲームのときにクロスボウで射られかけた脇腹の切り傷は黒く変色している。まだ出血しているようだ。あの状態で人間動けるもんなんだ――。
それにしても、コピーライターよりボディビルダーとしてやっていく方が儲かるのではないかという筋骨隆々とした肉体だった。褐色でほどよい色に仕上がっている。
「キラー・ハニーって奴は俺たちユーチューバーを監禁した。ユーチューバーなりのやり方で応えてやる義理もねぇが、マスクは外さねぇ」
「どっちよ」
「何か言ったかピンク髪妊婦ババア」
「ババアはないでしょ。あなたより年下よ!」
「ネットじゃ、年齢も性別も誤魔化せるからな。まぁいい。そろそろ五分経つぞ。水面に異常はない。ほんまKAINAの野郎は、このゲームをクリアしたのかもしれねぇ。そう難しくねぇな。妊婦には酷だが」
タイタンフレッドはプールに飛び込んだ。健康的な褐色の肉体は、飛沫を上げて水中を裂くように進んだ。出口を見つけたのか、中央で深く潜っていき見えなくなる。
「じゃあ、次は誰が行く?」
躊躇しているとさっきの部屋のようにスマートウォッチから放電されかねない。
「思ったんだけど」
氷河がスマートウォッチに目を落とす。
「スマートウォッチは壊れないんだね」
「放電させている機器はスマートウォッチそのものじゃないのか? あ、まさか監禁されたときに僕らの体内に何か埋め込まれたとか?」慌てて首筋やら、脇腹を確認するテカプリ。
氷河はテカプリの首を見つめている。
「何か見えるか氷河くん」
「異常はなさそうです。といっても、はっきり何も埋め込まれていませんと断言はできないんですけど」
「そうだな。それに、次のゲームは本気で僕らを殺しに来てると思う。真水は電気を通さないけれど、海水は通す」
言いながらテカプリは身震いする。
「誰か死ぬかもしれないんですね」
「そ、そうは言ってないけども。でも、誰が死ぬのかが問題だ。さっきから名指しで出てるみかんのここ♡くんは、何かこのゲームで心当たりはないか? これはおそらく君のゲームだ」
テカプリの言葉にみかんのここ♡は卑屈に笑った。
「あるわけないじゃない。あたしはこれでも真面目人間なんだから」
「まぁ、誰が怪しいとか僕は言わないでおくよ」
「あの、テカプリさん。こうして話している時間ももったいないかもしれない。僕らはサードをどうやって泳がせるか考えないと」
氷河にそう言われ、サードはちょっと照れた。
ほんまKAINAがサメと一緒に泳ぎ、生死不明。タイタンフレッドがその後に脱出し、残るはサード、テオナルトテカプリコ、氷河、焼肉公爵、キリンA、みかんのここ♡の六人だ。
「あたしのゲームなんだったら、誰か一緒に泳いであたしを守ってよ!」
「君を狙ってるのは確かだろう。壁方寺学院高等学校で何があったか話した方がいいんじゃないか?」
テカプリが促すが、みかんのここ♡は逆ギレする。
「自分らのやったことは棚に上げてよく言うわよ! あたしに聞くってことは自覚ないんでしょ? 普通、学生が巻き込まれるデスゲームって一校だけだからね! 映画で観たわよ! 集められるのは一クラスとか、一学年とか。でも、みんな同じ学校の生徒。だから、誰がどんな行動をするのかある程度分かるわけ。あんたたち、自分が何学校なのか一人一人言ってみなさいよ? 共通点あった? ないんじゃない? 学校なんて関係ないのよ! あんたたちが、この大規模なゲームの実験の非検体にされてるって、どうして気づかないの?」
「なるほど、実験かー」と腕を組む焼肉公爵。キリンAが小首を傾げる。こんなときに、ぶりっ子なんてとサードは目を細める。焼肉公爵は続けて問題を提示する。
「スマートウォッチが安くなったとはいえ、全員分を無償提供してるわけだろ? 電気ショックも与えるとなれば、そういう機器、スタンガンや体内に埋め込む機器だったとしても費用がかかる。こういうプールを貸切ったり、ドローンを用意したりする費用は潤沢かどうかが気になるな。正直言うと、まだ理容師の資格は取れてなくて。専門学生なんだけど、こういうゲームを作る側の目線になったときに、金の問題がある気がする」
「大きなお金の動きがあるよね」
キリンAが相槌を打つ。
「やっぱり政府か、行政の機関がこれを開催してるようだね」氷河が確信したように呟く。
「キラー・ハニー一人でできる規模のゲームじゃないと分かったな」
焼肉公爵がはじめて探偵ごっこをやり遂げたように、はにかみながら結論づけた。
そのとき、全身に電流が走った。サードは度重なる電流に慣れるどころか、電撃が収まっても立ち直れないほどの悪寒と吐き気を覚える。今の電流は本当にやばかった。何度も電流に晒されて、慣れるどころか体調は悪化している。耐えられる時間がどんどん短くなるような。体内が熱く熱持ち、いつまでも熱が逃げないような感じだ。
全員がプールサイドにいたのが幸いだった。海水に浸かっていたら死んでいたかもしれない。
「ねぇねぇ、罪人って言ってたよね?」言いながら、怯えて焼肉公爵にすがりつく。
「落ち着こう。キラー・ハニーは煽ってるんだ。お互いを疑心暗鬼にさせたいのかも」
「みんなユーチューバーなんでしょ? どんな悪いことしたのか素直に話してよ」
「それ知ってなんになるんや?」
冷たく言い放つほんまKAINAの瞳は黒く淀んでいる。それ以上追及すれば、おぞましい何かが質問者に跳ね返ってきそうな凄みがあった。
「ほんまKAINAの言う通りだ。俺もはっきり言っとくぜ。動画拡散なんてのは、ほぼ毎日やってる。再生回数を稼いで金儲けするのは、今じゃ当たり前に大勢がやってるだろ。寧ろ、趣味で生配信してる奴の気がしれないな。アンチに家を突き止められて押しかけられて窓ガラスを割られたり、配信中に騒音の苦情をでっちあげられて警察を呼ばれたりするリスクがあんのによ」
タイタンフレッドの自慢するような声音に、サードはこの人のことを知っているような気がした。マスクをしている動画配信者なんていただろうかと首を捻る。
「お、見覚えでもあるか? タイタンフレッドって名前とこのマスクは一番売れてない動画で使ってる。それでもチャンネル登録者数は千人もいるんだぜ。早くマスク取って大物ユーチューバーだって見せつけてやりてぇ」
ユーチューブで稼ぐためには、最低千人のチャンネル登録者数が必要になる。もしかすると、この中で一番売れているユーチューバーがタイタンフレッドだったりするのかもしれない。
「顔見ないと誰か分かんないでしょ?」
「マスク外して電撃食らわされたら馬鹿みたいじゃねぇか」
もうこりごりなのだろう。でも、そんなにもったいぶったって顔なんか覚えていないと思う――。寧ろ、このマスクの方が見覚えがあるような。キラー・ハニーがマスクを外さずにこのゲームに彼を放り込んだのだから、きっと見たことがあるはずなのに思い出せなかった。どうでもいいことだったから覚えていないのかもしれない。
「あれは?」
焼肉公爵がプールを指を差した。背ビレだ。間違いない。このプールにはサメがいる。プールの水は淡水でも塩素でもなく海水だった。
「冗談じゃねぇだろ! おい、焼肉公爵! てめーは水泳部か?」
「よ、よく分かったな。俺は今は美容師だけど、高校は水泳部で、今でもときどき市営プールに泳ぎに行ってる」
「サメは何キロで泳げる?」
「えー、俺に聞かれても」
「うち知ってんで。確か時速四十キロやで。『動物の速さ比較動画』で観たことあるわ」
ほんまKAINAが言うには、サメは本来大人しい生き物なので、サメ映画みたいな悲劇はめったに起こらないそうだ。
「おまけに、人間なんか脂肪分が足りひんから、美味しくない餌って思われんで」
「いや、まだもう一つ問題がある。このゲームは感電死する可能性があるだろ。さっきの寄生虫飯とは訳が違う」
テカプリの発言にほんまKAINAが鼻を鳴らす。
「うちかて、この後腹痛で死ぬかもしれんやろ。あんさん、あんなもん食えんか? ここから出られたらな、アニサキス入りのマグロ食わせたるわ!」
ほんまKAINAは、まださっきのことを根に持っていたので、サードは思わず身構える。
だが、彼が歩み寄ったのは、軽はずみな発言で地雷を踏んだテカプリの方だった。ほんまKAINAがテカプリにつかみかかろうとした瞬間、タイタンフレッドはあろうことか足を突き出してプールにほんまKAINAを転落させた。
落下と同時に飛沫が上がり、慌ててプールサイドに上がるほんまKAINAだったが、スマートウォッチのタイマーが作動している。みんなのスマートウォッチにもほんまKAINAのタイマーと小文字で書かれてカウントが表示された。
四分五十六秒、四分五十五秒、四分五十四秒……。
カウントダウンは止まらない。
蒼白な顔になったほんまKAINAは悟った。このままだと、何もせず、感電死するだけだ。
「お前ら覚えとけよ!」
捨て台詞を吐いてプールに飛び込むほんまKAINA。大人しいと本人が説明したはずのサメが旋回して、潜水しはじめたほんまKAINAを追う。そういえば、タイタンフレッドに殴られてほんまKAINAは鼻血が出ていたんだ。サメはその血の臭いに反応しているのかもしれない。
「なんて酷いことをしたんですか!」
咎める氷河に対し、タイタンフレッドは唾を吐きつけた。サードの予想通り、氷河は反論しなくなる。
「制限時間に間に合わなかったら、感電すんだろ? そのとき一緒にいるサメも感電して死ぬだろうが」
テカプリがタイタンフレッドのジャージの襟をつかむ。
「君はそこまで考えて彼を蹴り落としたのか? なんて奴だ」
「俺が守ってやらなかったら、今頃ほんまKAINAに殴られてたかもな? ちょっとは感謝してくれていいんだぜ?」
タイタンフレッドがテカプリの腕をつかみ、プールへ押し出そうとする。
「待って? 待て待て、待てって! 僕はサードをなんとか連れていかないといけないんだよ。制限時間切れの放電を狙ってサメを殺すことより、どうすれば全員潜ることができるか考えないと」
「二十五メートルのクロールなら平均二十秒ぐらいだと思う。制限時間の五分は多い」
焼肉公爵が助言すると、タイタンフレッドは「なら余裕だな」と次に潜るためにジャージを脱ぎ捨てる。ズボンの下から漫画みたいなハート柄のトランクスが出て来て、サードは笑いを堪えるのに必死だった。みかんのここ♡は、押し殺した声が漏れ出ていたが。氷河くんも。でも、呼吸が苦しくなるであろうマスクを外さないあたりに、謎の美学を感じる。
トランクスで笑ってしまったが、タイタンフレッドがカメラのゲームのときにクロスボウで射られかけた脇腹の切り傷は黒く変色している。まだ出血しているようだ。あの状態で人間動けるもんなんだ――。
それにしても、コピーライターよりボディビルダーとしてやっていく方が儲かるのではないかという筋骨隆々とした肉体だった。褐色でほどよい色に仕上がっている。
「キラー・ハニーって奴は俺たちユーチューバーを監禁した。ユーチューバーなりのやり方で応えてやる義理もねぇが、マスクは外さねぇ」
「どっちよ」
「何か言ったかピンク髪妊婦ババア」
「ババアはないでしょ。あなたより年下よ!」
「ネットじゃ、年齢も性別も誤魔化せるからな。まぁいい。そろそろ五分経つぞ。水面に異常はない。ほんまKAINAの野郎は、このゲームをクリアしたのかもしれねぇ。そう難しくねぇな。妊婦には酷だが」
タイタンフレッドはプールに飛び込んだ。健康的な褐色の肉体は、飛沫を上げて水中を裂くように進んだ。出口を見つけたのか、中央で深く潜っていき見えなくなる。
「じゃあ、次は誰が行く?」
躊躇しているとさっきの部屋のようにスマートウォッチから放電されかねない。
「思ったんだけど」
氷河がスマートウォッチに目を落とす。
「スマートウォッチは壊れないんだね」
「放電させている機器はスマートウォッチそのものじゃないのか? あ、まさか監禁されたときに僕らの体内に何か埋め込まれたとか?」慌てて首筋やら、脇腹を確認するテカプリ。
氷河はテカプリの首を見つめている。
「何か見えるか氷河くん」
「異常はなさそうです。といっても、はっきり何も埋め込まれていませんと断言はできないんですけど」
「そうだな。それに、次のゲームは本気で僕らを殺しに来てると思う。真水は電気を通さないけれど、海水は通す」
言いながらテカプリは身震いする。
「誰か死ぬかもしれないんですね」
「そ、そうは言ってないけども。でも、誰が死ぬのかが問題だ。さっきから名指しで出てるみかんのここ♡くんは、何かこのゲームで心当たりはないか? これはおそらく君のゲームだ」
テカプリの言葉にみかんのここ♡は卑屈に笑った。
「あるわけないじゃない。あたしはこれでも真面目人間なんだから」
「まぁ、誰が怪しいとか僕は言わないでおくよ」
「あの、テカプリさん。こうして話している時間ももったいないかもしれない。僕らはサードをどうやって泳がせるか考えないと」
氷河にそう言われ、サードはちょっと照れた。
ほんまKAINAがサメと一緒に泳ぎ、生死不明。タイタンフレッドがその後に脱出し、残るはサード、テオナルトテカプリコ、氷河、焼肉公爵、キリンA、みかんのここ♡の六人だ。
「あたしのゲームなんだったら、誰か一緒に泳いであたしを守ってよ!」
「君を狙ってるのは確かだろう。壁方寺学院高等学校で何があったか話した方がいいんじゃないか?」
テカプリが促すが、みかんのここ♡は逆ギレする。
「自分らのやったことは棚に上げてよく言うわよ! あたしに聞くってことは自覚ないんでしょ? 普通、学生が巻き込まれるデスゲームって一校だけだからね! 映画で観たわよ! 集められるのは一クラスとか、一学年とか。でも、みんな同じ学校の生徒。だから、誰がどんな行動をするのかある程度分かるわけ。あんたたち、自分が何学校なのか一人一人言ってみなさいよ? 共通点あった? ないんじゃない? 学校なんて関係ないのよ! あんたたちが、この大規模なゲームの実験の非検体にされてるって、どうして気づかないの?」
「なるほど、実験かー」と腕を組む焼肉公爵。キリンAが小首を傾げる。こんなときに、ぶりっ子なんてとサードは目を細める。焼肉公爵は続けて問題を提示する。
「スマートウォッチが安くなったとはいえ、全員分を無償提供してるわけだろ? 電気ショックも与えるとなれば、そういう機器、スタンガンや体内に埋め込む機器だったとしても費用がかかる。こういうプールを貸切ったり、ドローンを用意したりする費用は潤沢かどうかが気になるな。正直言うと、まだ理容師の資格は取れてなくて。専門学生なんだけど、こういうゲームを作る側の目線になったときに、金の問題がある気がする」
「大きなお金の動きがあるよね」
キリンAが相槌を打つ。
「やっぱり政府か、行政の機関がこれを開催してるようだね」氷河が確信したように呟く。
「キラー・ハニー一人でできる規模のゲームじゃないと分かったな」
焼肉公爵がはじめて探偵ごっこをやり遂げたように、はにかみながら結論づけた。
そのとき、全身に電流が走った。サードは度重なる電流に慣れるどころか、電撃が収まっても立ち直れないほどの悪寒と吐き気を覚える。今の電流は本当にやばかった。何度も電流に晒されて、慣れるどころか体調は悪化している。耐えられる時間がどんどん短くなるような。体内が熱く熱持ち、いつまでも熱が逃げないような感じだ。
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