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 クリスティーヌは不気味に微笑んでいる。彼女の老婆のような髪は亡霊のように空に向かって逆立っている。今はもう王宮の天井にも穴がぽっかり空いており、断続的にコウモリの魔物が王宮内を飛び回っているありさまだ。騎士ミレーさまは、剣から光の柱を発射させる射撃魔法を覚えていて、ほとんど、彼一人で魔物を撃ち落としている状態だわ。

 日食がさらに進みまるで夜みたいな空が、この国の行く末を嘆いている。王都の広範囲で被害が拡大していく――。

 武者震いのような震えがする。ギロチンがここになくても、ここを乗り越えることができなければ私にとっては最期の日になると直感した。

「あら、お姉さま。震えてらっしゃるの? 怖いのなら部屋を貸してもらって閉じこもってくれてもいいのよ。あ、隠れる部屋なんてあと何室残っているかしらね?」

「隠れるわけないじゃない」

 私はルビーの首飾りを握り締める。ここがはじまりで終わりなの。首飾りの力があれば、どうにかなる。だけど、死んだら巻き戻るなんて危険な力、運任せにはできない。きっとあんな強力な魔法は何度も使えない。今が日食だとしてもね。

 クリスティーヌは自分の首飾りと私の首飾りを見比べる。

「すり替えていることは知っているわ。だけど、そんなものでどうにかなるのかしら? 私たちのお母さまは魔族だったけれど。お母さまはあっけなく死んだわよ? 人間なんかと仲良くしたから。私の血も汚らわしくって嫌になるのよ。この半分の人間の腐った血がね。それを毎日我慢して貴族のふりをするの、ほんっとクソみたいな生き方じゃなくて、なんなのかしら」

「お母さまのことを馬鹿にしないで! お母さまのことだけはあんたに語る資格はないわよ」

「お姉さま、まるで見て来たみたいに言うじゃない。そうよ。私、生まれ落ちてお母さまの手からすぐ離れたわ。だって、あの女、人間の男に惚れこんでたんだものね。私、魔族に馬鹿にされて育てられたのよ? それで嫌になって人間の町にやってきたの。それもこれも、大人になったときに、魔族として認めてもらうために人間の国を陥落させるためにね!」

 半分お父さまの血が入っているにも関わらず、人間になるつもりは一切ないんだわ!

「もう、黙って。あんたの考えそうなことよね! 魔族として認められたいから人間を滅ぼそうっていうのね。そんなことをしても、あんたは半人前のままよ!」

 炎の魔法でクリスティーヌに不意打ちを当てる。

 お母さまの力、真っ赤なオーラを感じる。放った炎はどんな花火よりも美しい。クリスティーヌはすんでのところで水魔法で壁を生成して防いだ。

「ちょっ! お姉さま! 卑怯ですよ!」

「卑怯? 私はあなたが思うほど優しいお姉さまじゃないのよ?」

「こ……この、悪女」

「そんなこと言うの? 半分はあなたに仕立てられたのに。お互い様でしょ?」
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