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「も、もうリュカ王子。け、結婚は早いですよ」

「そんなことはない! 君はもう俺以外の人間に触れさせない。フレデリック伯爵も異論はありませんか?」

 急に話題を振られたお父さまは目を丸くしている。

「あ、ああ。結婚は構わないが」

「ほらなアミシア! 俺が結婚してやるんだ。ありがたくキスを受け取れ」

 って、またキスされた。嬉しいけれど。ちょっと落ち着きましょ?

「リュカ王子。あっちの偽者聖女をなんとかしないと」

「ほう。この魔物騒動についてはアミシア、君は俺よりも多くのことを知っているのか」

 私はリュカ王子が優しく問いかけてくれたことが嬉しくて何度も頷いた。リュカ王子になら甘えてもいいわよね。味方になってくれてこんなに心強い人だとは思わなかったわ。

「ええ。あの聖女が偽りの聖女であることを証明します」

「クリスティーヌは君の妹なんだろう? 血が繋がっていないと聞くが。まさか彼女も魔族か?」

「ええ残念なことに。血も繋がっています。そして、聖女を演じる魔王崇拝者でした」

 すると、私に呼応してコラリーとフルールがここぞとばかりに証言してくれた。

「クリスティーヌさまは、アミシアを何度も陥れようとしました。ラ・トゥール家の庭での放火、前回の王宮魔物襲撃事件に関与しています」

「クリスティーヌさまは魔物を出現させるために祠を設置したんです。その出現場所はアミシアさまが突き止めて下さったのです」

「なんと?」と、お父さまも驚いている。

「証拠になりませんわぁ。単なる言いがかりですよ。お父さまぁ」

 クリスティーヌは、この期に及んでお父さまに媚びる。

「それに、私は浄化魔法が使えます。手の甲に聖女の証があります」

 お父さまは苦し気に顔を歪める。もう何を信じていいのか分からない状態のように見える。逃げようとしていた貴族数名も私たちのごたごたに興味を抱いて足を止めた。

「聖女さまが二人いるってこと?」

 すると、リュカ王子が鼻を鳴らした。

「俺のキスで聖女に目覚めたアミシアが本物に決まっているだろう?」

 ちょっとそう言われると恥ずかしい……。リュカ王子、独占欲でもあるのかしら?

「リュカ王子。私、騎士ミレーさまのキスを授かりました。あのときには魔力が発現しましたが、私がすぐに聖女にならなかったのは何故でしょう」

「俺は聖女に成れる条件はもう一つあると思っている。三つ目の条件だ。それは……真実の愛だ」

「そうなの?」

「はぁ?」

 クリスティーヌがすっとんきょうな声を出す。

「本来、キスの目的は愛の証明のはず。それが、儀式になってしまって本来の意味が年月とともに薄れて形だけ残った」

 なるほどね。じゃあ、クリスティーヌの手の甲の証も偽物かもしれないわね。ずっと浮き出ているから疑ったことなんてなかったわ。

「リュカ王子。解決策が分かりました。ありがとうございます」

 とりあえず私は自分の角を引っ込める。

「角の生えた聖女も俺は悪くないと思う。いや、寧ろ生やしておけ。あとでかわいがってやる」

「え、リュカ王子。そ、そんな趣味があるんですか!」

 な、何されるんだろう。まさか、角フェチとか? そ、そんなことより、体中から湧き上がってくる神聖な力。私の魔族としての力と混じり合ってどんどん強くなる。みなぎってくる。私はその力に身をまかせる。一瞬、後ろに倒れそうになったがふわりと私の身体は宙に浮く。身体の中から赤いオーラが放たれた。そして、私の髪は銀に変わる。

「あ……」

 誰もがあっけにとられた。地上に降り立つと自分の美しい銀髪に驚いた。お父さまが腰を抜かして私の顔を涙目で見上げているのも納得する。

「カトリーヌ……」

 天使でも見るような感嘆の声でお母さまの名前を呼んだ。私はお母さまと瓜二つ。だって、ほんとうの聖女なんですもの。

 クリスティーヌ。今ではあなたよりも私は美しいわよ。

 私は手の甲にある聖女の証をかざす。

「浄化」

 舞踏会の会場の窓という窓が揺れる。光を放つ。クリスティーヌが眩しさのあまり顔を覆ったその手からあっさり聖女の証が消し飛ぶ。

「あら、絵の具で描いてたみたいに消し飛んだわよ? ねえ、絵の具だなんて言わないわよね?」

 その瞬間、クリスティーヌの水色の瞳がぎょろりと光る金色に変色した。獣を彷彿とさせる鋭い瞳。そう、それを待ってたわよ。晒してしまいなさい?
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