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 会場内はたちまちパニックになった。貴族たちが我先にと大広間の後ろの扉に殺到する。すると、リュカ王子が大声を張り上げる。

「みな、落ち着け! 貴族のみなさまにはすぐに避難していただく。国家結界師を呼び、客人たちを安全な場所にお連れする」

 リュカ王子の一声で会場は静まり返った。叫んでも喚いても意味はない。冷静に素早く避難することで二次被害の発生をなくすのね。

「父上と母上も早く避難して下さい」

「後は任せていいのかリュカよ。人手が必要であろう?」

「全軍の指揮権は私にありますので。ってか親父。無理すんな。ジジイのくせに」

「なにをぬかすか」

 コウモリの魔物の影は窓の外から急降下して行った。地上に降りた?
 国王と王妃が避難をはじめる。

「リュカ王子。私にも手伝わせて」

「アミシア! 嬉しいよ」

 リュカ王子のテンションはマックスだ。ど、どうしたの? 階下で騒がしい人々の声と剣戟を振るう音がする。

「リュカ王子、急がないと」

 王子はなぜか余裕の表情。それどころか、私に抱き着いて離してくれない。

「アミシア。驚いたよ。本当に。もう一度見せてくれないか? 君の本当の姿を」

「今、それどころじゃ!」

 これからも、隠し続けるつもりだった私の本当の姿を見ても驚かないでくれるのは嬉しいけれど。そろっと頭から角を出す。もうどうにでもなれ。

 リュカ王子の視線が私の頭上から降りてくる。恥ずかしい。リュカ王子は私の顎をつかんだ。持ち上げられて情熱的に光る赤茶色の瞳と視線が出会う。そっと重ねられた唇。

「…………え?」

 目を閉じている王子。今この非常事態に? という驚きより、その甘い味に私は戸惑った。だけど、すぐにどうでもよくなった。この人は私のことを信じてくれる。私の本当の姿を愛してくれる――。

 ッカーーーーーーーーーーーー。

 光と共に耳鳴り。たまらなく眩しい。光は私の身体から放たれている!
 手の甲が熱い。ま、まさか!

 聖女の印が手の甲に現れている!

「俺は君にかけたい」

 リュカ王子はニヤリと笑った。

「聖女になるには騎士にキスされることが条件だ。まさか、俺が騎士の一人であること、忘れているわけじゃないよな?」

「はっ」

 ほ、ほんとだ。騎士ミレーさまが権限を持っているから、すっかり忘れていた。

「リュカ王子。恐れ入ります。あなたは戦場の英雄騎士ですものね。でも、せっかくロマンチックになってたときに言うセリフですか?」

「ああ。君には今じゃなく、結婚式で泣いてもらいたい」
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