74 / 88
74.
しおりを挟む
以前、クリスティーヌがお父様に提案した、道に祠を設置すること。その事業は国の認可も降りて実現してるのよね。きっと、女神の加護以外に何か意味があるはず。建立されたののは街道。ミレーさまと馬車で訪れると、周囲は人気もなく閑散としている。
「ここですかアミシアさま? 僕は空間の魔力濃度を測定魔法で測りますね」
「お願いしますね」
「アミシア。ここって以前クリスティーヌさまが設置を命じたという場所ですか?」
侍女コラリーが女神をかたどった像を訝しく思って見つめる。
「ええ。街道沿いよ。あなたも不思議に思うでしょ。クリスティーヌは女神さまのこと、女神だと思って尊敬しているかも怪しいわ。魔物召喚の小道具にしたっておかしくないと思うの」と、私はミレーさまに聞こえないように小声で話す。侍女フルールも祠に接近したとたん、私の元に引き返してきた。
「ただならぬ何かがありますね。気のせいでしょうか。気温があそこだけ違います。ミレーさまはあんなに近づいて大丈夫なんでしょうか」
魔力濃度が高いと気温が上昇するはず。
「ミレーさま、熱くないですか?」
「え? 言われてみれば」
「女神像には触れないようにして下さいね。念のため聖水を一振りかけてもらってもいいでしょうか?」
「確かに暑くなってきましたね。魔力濃度が高そうだ。だけど、聖水ですか。一応魔物退治で使うこともありますけど、それをどうして女神像に?」
ミレーさまは信じられないと言う顔をする。そりゃそうでしょうね。女神さまの像が穢れているなんて誰が想像するっていうの。
しぶしぶとミレーが懐から常備している聖水を取り出し、さっと一振りする。すると一瞬にして聖水は女神像から弾かれるようにして蒸発した。
「これはどういうことでしょう。まさか女神像が穢れているのか? あり得ない」
きっと、これでもクリスティーヌが犯人だとは信じないでしょうから、浄化だけでもやってもらおう。
「この祠は各地に点在しています。ミレーさまもご存じですよね。クリスティーヌが計画しました。祠を国家結界師の巡回ポイントに加えていただけませんか? 妹がせっかく建立した祠が穢されて、心苦しいの」
すると、コラリーが目に涙まで浮かべた演技をする。
「アミシア、なんて美しい心の持ち主なの!」
「ああ、アミシアさまの考えはいつも抜きん出ている。素晴らしいですね。しかし、どうして女神の像が。ここが魔物の出現ポイントだとすると、魔物は女神を恐れていないということですね」と、ミレーさまは驚愕する。
「そうでしょうね。でなければ、王宮という神聖な場所を襲わないと思いますよ」
「アミシアさまは、ここだとはじめから目星をつけておられたんですか?」
「なんとなく勘です」
少しはぐらかした。どうせ信じてくれないでしょうから。
「クリスティーヌが設置の案を出したことは僕も知っていますよ。彼女は人を驚かせるのが好きですからね。だけど、彼女は一度も僕といっしょにいるときに女神像に祈らないのです。ずっと変だと感じていました」
ミレーさまが少し気まずそう。
「いや、こんなこと言ったらいけないですよね。聖女が敬虔な信者ではないと告げ口しているようなものです。お恥ずかしい」
「いいんですよ。ミレーさま。クリスティーヌもきっと忙しいんですよ」
魔物を侵入させるのに忙しくて女神なんて崇拝してられないわよね。でも、この鈍いミレーさまが感づくぐらいだから相当ね。
「そういえば、ミレーさまは最近クリスティーヌと一緒によく出掛けていると聞きますが」
「そうですね。挙式の日程は延期したんですけどねえ。でも、リュカ王子と三人での日帰り旅行みたいなものが多いですよ。国中の隅々まで見て回っています。そ、それにお恥ずかしいですが、今夜も逢瀬を」
「まあ、ミレーさまったら。正直なこと。でも、楽しんで下さいね」
「いやだなアミシアさま。夜のデートですけれど、彼女はまだ未成年。僕は夜遅くなりすぎないよう送り返しますよ。でないと、伯爵にどやされますから」
確かに、あの優しいお父さまでも夜遊びにはうるさいからね。どんな様子でクリスティーヌが出かけるのか見張った方がよさそうね。
「ここですかアミシアさま? 僕は空間の魔力濃度を測定魔法で測りますね」
「お願いしますね」
「アミシア。ここって以前クリスティーヌさまが設置を命じたという場所ですか?」
侍女コラリーが女神をかたどった像を訝しく思って見つめる。
「ええ。街道沿いよ。あなたも不思議に思うでしょ。クリスティーヌは女神さまのこと、女神だと思って尊敬しているかも怪しいわ。魔物召喚の小道具にしたっておかしくないと思うの」と、私はミレーさまに聞こえないように小声で話す。侍女フルールも祠に接近したとたん、私の元に引き返してきた。
「ただならぬ何かがありますね。気のせいでしょうか。気温があそこだけ違います。ミレーさまはあんなに近づいて大丈夫なんでしょうか」
魔力濃度が高いと気温が上昇するはず。
「ミレーさま、熱くないですか?」
「え? 言われてみれば」
「女神像には触れないようにして下さいね。念のため聖水を一振りかけてもらってもいいでしょうか?」
「確かに暑くなってきましたね。魔力濃度が高そうだ。だけど、聖水ですか。一応魔物退治で使うこともありますけど、それをどうして女神像に?」
ミレーさまは信じられないと言う顔をする。そりゃそうでしょうね。女神さまの像が穢れているなんて誰が想像するっていうの。
しぶしぶとミレーが懐から常備している聖水を取り出し、さっと一振りする。すると一瞬にして聖水は女神像から弾かれるようにして蒸発した。
「これはどういうことでしょう。まさか女神像が穢れているのか? あり得ない」
きっと、これでもクリスティーヌが犯人だとは信じないでしょうから、浄化だけでもやってもらおう。
「この祠は各地に点在しています。ミレーさまもご存じですよね。クリスティーヌが計画しました。祠を国家結界師の巡回ポイントに加えていただけませんか? 妹がせっかく建立した祠が穢されて、心苦しいの」
すると、コラリーが目に涙まで浮かべた演技をする。
「アミシア、なんて美しい心の持ち主なの!」
「ああ、アミシアさまの考えはいつも抜きん出ている。素晴らしいですね。しかし、どうして女神の像が。ここが魔物の出現ポイントだとすると、魔物は女神を恐れていないということですね」と、ミレーさまは驚愕する。
「そうでしょうね。でなければ、王宮という神聖な場所を襲わないと思いますよ」
「アミシアさまは、ここだとはじめから目星をつけておられたんですか?」
「なんとなく勘です」
少しはぐらかした。どうせ信じてくれないでしょうから。
「クリスティーヌが設置の案を出したことは僕も知っていますよ。彼女は人を驚かせるのが好きですからね。だけど、彼女は一度も僕といっしょにいるときに女神像に祈らないのです。ずっと変だと感じていました」
ミレーさまが少し気まずそう。
「いや、こんなこと言ったらいけないですよね。聖女が敬虔な信者ではないと告げ口しているようなものです。お恥ずかしい」
「いいんですよ。ミレーさま。クリスティーヌもきっと忙しいんですよ」
魔物を侵入させるのに忙しくて女神なんて崇拝してられないわよね。でも、この鈍いミレーさまが感づくぐらいだから相当ね。
「そういえば、ミレーさまは最近クリスティーヌと一緒によく出掛けていると聞きますが」
「そうですね。挙式の日程は延期したんですけどねえ。でも、リュカ王子と三人での日帰り旅行みたいなものが多いですよ。国中の隅々まで見て回っています。そ、それにお恥ずかしいですが、今夜も逢瀬を」
「まあ、ミレーさまったら。正直なこと。でも、楽しんで下さいね」
「いやだなアミシアさま。夜のデートですけれど、彼女はまだ未成年。僕は夜遅くなりすぎないよう送り返しますよ。でないと、伯爵にどやされますから」
確かに、あの優しいお父さまでも夜遊びにはうるさいからね。どんな様子でクリスティーヌが出かけるのか見張った方がよさそうね。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王女殿下は家出を計画中
ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する
家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる