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 息を飲むようなダンスが終わった。クリスティーヌとリュカ王子に盛大な拍手が沸き起こる。嫉妬したのは、私以外にもう一人……。

「リュカ王子説明して下さい。彼女は僕の婚約者ですよ!」

 騎士ミレーさま、はっきり言うのね。ここで自分が婚約者だとはっきり意識したってわけね。なんだか、私たち皮肉よね。リュカ王子に弄ばれている。クリスティーヌはその意図が分からず、自分が選ばれたと鼻高々に拍手に応えてお辞儀しているけれど。

 リュカ王子は冷たい目で周囲の貴族を見据えた。その高慢な計画は終わっていない。私を見るなり優しく微笑んだ!

「拍手は、このダンスを支えてくれる熱い演奏をしてくれた彼女に」

「へ?」

 私はピアノから席を離れたところ。出番は終わったもの。

「あ、ありがとうございます」

 リュカ王子はクリスティーヌには用がないというように、彼女をそれとなく放置した。

「次は君と踊りたい」

 リュカ王子は私に向かって直進してきた。

 私、ダンスは練習してきたけれど、どちらかというとピアノで王子の心をつかむのが目的。まあ、達成したんならいいんだけどね。

 リュカ王子は私を見下ろし、その怪しげな眼が有無を言わせない。私は手を取られて大広間の中央に案内される。

「あ、アミシアさまと踊られるのですね。リュカ王子。いいなー。僕、今日はまだクリスティーヌさまともアミシアさまとも踊ってないのに」

 ミレーさまはぶつぶつ言いながらクリスティーヌをダンスに誘う。すると、クリスティーヌは怒り心頭に大広間の隅に隠れるように行ってしまった。

「あ、あのリュカ王子」

「踊れないとは言わせない。はっきり言うと俺もダンスは苦手だ」

 演奏がはじまる。三曲目は弦楽器のみによる物静かな曲。とてもしなやかな曲で、ステップも緩やか。私が踊れるスピードの曲だわ。まさか王子、私のために曲目を変えた? 

 それでも私はリュカ王子にリードされた。ときどき足が絡まりそうになってはっとする。足を踏みでもしたら大変よ。

 リュカ王子は私が戸惑っても苦にしない。この人も――私と同じ。嘘ばかりつく人ね。苦手だなんて嘘じゃない。

 やっとこつをつかんできた。王子とすれ違うようなステップでも息を合わせて、ときに相手の吐息が私の髪の上に降りてくる。あっという間に演奏が終わった。

 スローテンポとはいえ息が上がってしまったわ。なぜだろう、リュカ王子も心なしか息が荒いみたい。やだ、目が合う。

 二人とも頬が真っ赤だった。王子がはっとして、自身の状態を意識したのか困惑して私から目を反らせた。

「リュカ王子。光栄です」

 握っていた手の指先から、ステップを踏んだ足の指先まで温かい。火照っている。そのことを意識したら、リュカ王子が逃げるように去って行く。

 貴族たちが私と王子に拍手を叩く波の音が、彼の恥ずかしがる背中を見送った。
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