64 / 88
64.
しおりを挟む
「よく来て下さった。ラ・トゥール伯爵令嬢」
今日のリュカ王子は悪魔みたいに冷ややかに笑っている。私の顔を見るなりこれよ。どういうこと?
「こちらこそご招待頂けて光栄ですわ。オリオール皇太子さま」
私の態度を慇懃無礼だと言わんばかりに、リュカ王子は小さく鼻を鳴らした。
「俺たち、こんなに距離が遠かったのか。もっと親しいと思っていたよ?」
お互いに苗字で呼び合うことを不服だとでも言うの? ちょっとは王子らしくしてもらいたいものね。これが手紙で自白していた「偽りの自分を演じている」ってことかしら? 公の場の大袈裟な態度や遠回しな言い方。そして、形式的に挨拶する優先順位に縛られて窮屈していそうよね。
「手紙ならミレーさまから頂きました。そのことをおっしゃっていますの?」
「精一杯伝えたつもりだ」
どことなく不機嫌に見える。大勢がいるから大人しくしているけれど、二人きりになったら噛みつきかねない形相ね。でも、こういうのも楽しいわ。悪魔みたいな腹積もりを持った者同士で腹を探り合うの。とっても、スリリングよ。私たちお似合いになれそう。
「……待ったか?」
「いいえ。たった十五分ですもの」
「俺は待った」
「あら、待たせてしまいましたの? それは申し訳ありませんわ。爵位が低くて」
「いや、そうじゃない」
「違いますの? それとも陛下は聖女クリスティーヌとお戯れになっていたのかと」
「おい、ふざけるのも大概にしろよ」
あ、けっこう簡単にからかうことができるものね。リュカ王子ったらムキになって。ちょっとかわいい?
と、ここに挨拶を済ませて大広間に行ったはずのクリスティーヌが戻ってきた。
「リュカ王子。この後の聖歌楽しみにしていてくださいね。だけど私、緊張してきますぅ」
ここに来てぶりっこ!?
王子の瞳が怪しく光る。邪魔だと思うのは当然よね。
「本当に君が緊張しているのなら、ミスするところも見てみたいな。完璧な女性も好きだけどね。なんだか、君の完璧さは作り物みたいで怖いよ。どこか一つでも欠けたら、もろく崩れてしまいそうで」
リュカ王子って、けっこう鋭いのね。もしかしらた偽りの聖女の正体も見抜けるんじゃない?
「へ? ミ、ミスするなんてとんでもございません。きょ、今日のために練習してきたんですから。もう、リュカ王子さま、プレッシャーかけ過ぎないで下さいよぉ」
そそくさと逃げて行った。情けないわね。そんなので王子を丸め込んで私を処刑したの? なんだか悲しくなっちゃう。処刑された以前の私、ごめんね。あんな聖女にやられただなんて。
「ところでアミシア。今日は君のピアノの演奏も聞けるのか?」
「はい、王子。陰ながら聖女さまのお力になれたらと。発表会と違って一緒にではないですけどね。私は演奏家の方々とピアノが必要なときに参加させてもらうだけですので」
「それは楽しみだ。言っておくけど、演奏家は君のピアノがなくても俺を楽しませる連中ばかりだ。心に残るピアノを期待しているよ」
出たわよ、ドSが。そりゃそうでしょうよ。王族御用達の演奏家ばかりですもの。
「出るからにはやらせて頂きますよ。私も楽しみたいですもの、よろしければ陛下と」
リュカ王子はニンマリと微笑む。あれ? 自分で言ったつもりなのに言わされたみたいで嫌だわ。ほんとにもうっ。
今日のリュカ王子は悪魔みたいに冷ややかに笑っている。私の顔を見るなりこれよ。どういうこと?
「こちらこそご招待頂けて光栄ですわ。オリオール皇太子さま」
私の態度を慇懃無礼だと言わんばかりに、リュカ王子は小さく鼻を鳴らした。
「俺たち、こんなに距離が遠かったのか。もっと親しいと思っていたよ?」
お互いに苗字で呼び合うことを不服だとでも言うの? ちょっとは王子らしくしてもらいたいものね。これが手紙で自白していた「偽りの自分を演じている」ってことかしら? 公の場の大袈裟な態度や遠回しな言い方。そして、形式的に挨拶する優先順位に縛られて窮屈していそうよね。
「手紙ならミレーさまから頂きました。そのことをおっしゃっていますの?」
「精一杯伝えたつもりだ」
どことなく不機嫌に見える。大勢がいるから大人しくしているけれど、二人きりになったら噛みつきかねない形相ね。でも、こういうのも楽しいわ。悪魔みたいな腹積もりを持った者同士で腹を探り合うの。とっても、スリリングよ。私たちお似合いになれそう。
「……待ったか?」
「いいえ。たった十五分ですもの」
「俺は待った」
「あら、待たせてしまいましたの? それは申し訳ありませんわ。爵位が低くて」
「いや、そうじゃない」
「違いますの? それとも陛下は聖女クリスティーヌとお戯れになっていたのかと」
「おい、ふざけるのも大概にしろよ」
あ、けっこう簡単にからかうことができるものね。リュカ王子ったらムキになって。ちょっとかわいい?
と、ここに挨拶を済ませて大広間に行ったはずのクリスティーヌが戻ってきた。
「リュカ王子。この後の聖歌楽しみにしていてくださいね。だけど私、緊張してきますぅ」
ここに来てぶりっこ!?
王子の瞳が怪しく光る。邪魔だと思うのは当然よね。
「本当に君が緊張しているのなら、ミスするところも見てみたいな。完璧な女性も好きだけどね。なんだか、君の完璧さは作り物みたいで怖いよ。どこか一つでも欠けたら、もろく崩れてしまいそうで」
リュカ王子って、けっこう鋭いのね。もしかしらた偽りの聖女の正体も見抜けるんじゃない?
「へ? ミ、ミスするなんてとんでもございません。きょ、今日のために練習してきたんですから。もう、リュカ王子さま、プレッシャーかけ過ぎないで下さいよぉ」
そそくさと逃げて行った。情けないわね。そんなので王子を丸め込んで私を処刑したの? なんだか悲しくなっちゃう。処刑された以前の私、ごめんね。あんな聖女にやられただなんて。
「ところでアミシア。今日は君のピアノの演奏も聞けるのか?」
「はい、王子。陰ながら聖女さまのお力になれたらと。発表会と違って一緒にではないですけどね。私は演奏家の方々とピアノが必要なときに参加させてもらうだけですので」
「それは楽しみだ。言っておくけど、演奏家は君のピアノがなくても俺を楽しませる連中ばかりだ。心に残るピアノを期待しているよ」
出たわよ、ドSが。そりゃそうでしょうよ。王族御用達の演奏家ばかりですもの。
「出るからにはやらせて頂きますよ。私も楽しみたいですもの、よろしければ陛下と」
リュカ王子はニンマリと微笑む。あれ? 自分で言ったつもりなのに言わされたみたいで嫌だわ。ほんとにもうっ。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる