39 / 88
39.
しおりを挟む
「私の花火が失敗したように見せかけたいのね。なんて図々しい子なの」
侍女をたくさん連れてきているわね。密偵に送ったフルールが私に目で合図を送ってくる。言いたいことは分かった。クリスティーヌが侍女たちにさりげなく放火させたんでしょ? 大丈夫よ。私なら平気。それに、フルールが逆らえない状況なら、私が火を消せば済む話じゃない。
逃げ惑う人々。お父さまは来賓を屋内へと逃がしている。そのわきでバケツに水を汲んだ使用人たちが駆けずり回っている。
「コラリー、こっちにも水を持ってきて」
ここで慌てて消火魔法を使うほど馬鹿じゃないわ。きっと私はまだ水の魔法は使えないだろうから。違う魔法を発動させたらそれこそクリスティーヌの思うつぼ。できないなら素直にできないまま、水で消火してやろうじゃない。
「ただいまそちらへ!」
しかし、侍女コラリーが足を踏み出したとたん、水が降ってきた。
「嘘でしょ?」
火災を仕組んだ張本人のクリスティーヌが水魔法で鎮火させた。
嘘。あなた水魔法は使えないはずよね? 魔法に見えるように侍女たちが筒で水鉄砲のように背後から水でもまいてるの? 信じられない統率力。火をつけるためのマッチを持った侍女と水を持った侍女がいる。
逃げ惑う貴族たちの混乱でほとんど誰もマッチポンプに気づかない。互いに折り重なって、手に持っているものを見えないように陣形を組んでいる。私をはめるために編み出した計画。私の扱える魔法が炎だと気づいた時点で練られていたと考えるべき――やるわね。でも、あなたのだって所詮は三流のエセ魔法じゃない? なすりつけられるほど、馬鹿じゃないわ。
戸惑っているふりをして、クリスティーヌの侍女にわざとぶつかって倒れる。
「痛い」
私は助け起こそうとしない侍女を睨みつける。その手からぽろりとマッチと水の入った筒を取りこぼした。
「あら、火の不始末が悪かったんじゃなくて?」
「こ、これはっ」
「コラリー、この人を捕まえて」
「はい、アミシアさま。ですが、これは!」
クリスティーヌの侍女の腰回りからも油の入った瓶が見つかった。
「お父さま、これを見て下さい!」
「何だアミシア――一体どういうことだ……」
私一人では全員を捕まえるのは無理がある。すると、気を利かせたフルールがほかの貴族を案内するふりをしながら、クリスティーヌの侍女たちに体当たりをかませた。
「こちらにお逃げ下さっあ!」
「きゃーーー!」
何人か巻き込んで激しく転倒したけれど、貴婦人を巻き込むなんて勇気があるわ。貴婦人は転倒を免れたけど、下手をしたら本当に首よフルール。でも、その無茶をしてくれたおかげでクリスティーヌの侍女たちが各々手にしていた小道具が飛び出てきた。
「お前たち、これは一体なんだ?」
お父さまが事態を把握した。クリスティーヌが主犯だとは思っていないようだけど、放火だと確信して侍女たちを指差した。
「この件に加担していないと女神イシュリアに誓える者以外、ここに残りなさい。処分を検討しないとな」
「待ってお父さま」
フルールだけはなんとか無実を証明しないと。このころにはクリスティーヌは顔面蒼白で、いつ自分もお父さまに謹慎を命じられるか内心気が気でない様子。ほんといい気味ね。
「みんな動かないで。それぞれが落としたマッチ類の前から。あら、あなたは何も加担していないのかしら?」
フルールは真剣な眼差しで私を見返してくる。だから、私に任せなさいという意味でウインクしてあげる。すると少し緊張がほぐれた面持ちをする。
「あの子の性分は知っています。以前、私のドレスを汚しましたから。粗相があったのは間違いないけれど、今回の件に関わっているとは思えません」
「どういうことだアミシア」
「あの子はミスは犯しますが、放火などの犯罪行為を犯すなどという愚かな判断はしません。それに、あの子のマッチの箱を調べて下さい。ほかのマッチは全て使用された跡があるのに、あの子のマッチの箱の側面にはすられた跡もなければ、マッチの本数も減っていない。見たところ、みな新品のマッチを使っているようですし、本数を数えれば誰が何本使用したかも分かるはず」
「おお、アミシア、聡明だな。よし、その娘以外は全員今日を持って退職してもらう!」
お父さま、いざってときの采配が素晴らしい。顔もいつになく凛々しくて目元が私と似ているって今はじめて気づいた。
見て、クリスティーヌの侍女の半数近くが今日をもって首よ。明日から新しい侍女を雇うにしても、クリスティーヌの駒になってくれる侍女はもうほとんどいないも同然ね。
フルール、それにお父さま、ありがとう。
侍女をたくさん連れてきているわね。密偵に送ったフルールが私に目で合図を送ってくる。言いたいことは分かった。クリスティーヌが侍女たちにさりげなく放火させたんでしょ? 大丈夫よ。私なら平気。それに、フルールが逆らえない状況なら、私が火を消せば済む話じゃない。
逃げ惑う人々。お父さまは来賓を屋内へと逃がしている。そのわきでバケツに水を汲んだ使用人たちが駆けずり回っている。
「コラリー、こっちにも水を持ってきて」
ここで慌てて消火魔法を使うほど馬鹿じゃないわ。きっと私はまだ水の魔法は使えないだろうから。違う魔法を発動させたらそれこそクリスティーヌの思うつぼ。できないなら素直にできないまま、水で消火してやろうじゃない。
「ただいまそちらへ!」
しかし、侍女コラリーが足を踏み出したとたん、水が降ってきた。
「嘘でしょ?」
火災を仕組んだ張本人のクリスティーヌが水魔法で鎮火させた。
嘘。あなた水魔法は使えないはずよね? 魔法に見えるように侍女たちが筒で水鉄砲のように背後から水でもまいてるの? 信じられない統率力。火をつけるためのマッチを持った侍女と水を持った侍女がいる。
逃げ惑う貴族たちの混乱でほとんど誰もマッチポンプに気づかない。互いに折り重なって、手に持っているものを見えないように陣形を組んでいる。私をはめるために編み出した計画。私の扱える魔法が炎だと気づいた時点で練られていたと考えるべき――やるわね。でも、あなたのだって所詮は三流のエセ魔法じゃない? なすりつけられるほど、馬鹿じゃないわ。
戸惑っているふりをして、クリスティーヌの侍女にわざとぶつかって倒れる。
「痛い」
私は助け起こそうとしない侍女を睨みつける。その手からぽろりとマッチと水の入った筒を取りこぼした。
「あら、火の不始末が悪かったんじゃなくて?」
「こ、これはっ」
「コラリー、この人を捕まえて」
「はい、アミシアさま。ですが、これは!」
クリスティーヌの侍女の腰回りからも油の入った瓶が見つかった。
「お父さま、これを見て下さい!」
「何だアミシア――一体どういうことだ……」
私一人では全員を捕まえるのは無理がある。すると、気を利かせたフルールがほかの貴族を案内するふりをしながら、クリスティーヌの侍女たちに体当たりをかませた。
「こちらにお逃げ下さっあ!」
「きゃーーー!」
何人か巻き込んで激しく転倒したけれど、貴婦人を巻き込むなんて勇気があるわ。貴婦人は転倒を免れたけど、下手をしたら本当に首よフルール。でも、その無茶をしてくれたおかげでクリスティーヌの侍女たちが各々手にしていた小道具が飛び出てきた。
「お前たち、これは一体なんだ?」
お父さまが事態を把握した。クリスティーヌが主犯だとは思っていないようだけど、放火だと確信して侍女たちを指差した。
「この件に加担していないと女神イシュリアに誓える者以外、ここに残りなさい。処分を検討しないとな」
「待ってお父さま」
フルールだけはなんとか無実を証明しないと。このころにはクリスティーヌは顔面蒼白で、いつ自分もお父さまに謹慎を命じられるか内心気が気でない様子。ほんといい気味ね。
「みんな動かないで。それぞれが落としたマッチ類の前から。あら、あなたは何も加担していないのかしら?」
フルールは真剣な眼差しで私を見返してくる。だから、私に任せなさいという意味でウインクしてあげる。すると少し緊張がほぐれた面持ちをする。
「あの子の性分は知っています。以前、私のドレスを汚しましたから。粗相があったのは間違いないけれど、今回の件に関わっているとは思えません」
「どういうことだアミシア」
「あの子はミスは犯しますが、放火などの犯罪行為を犯すなどという愚かな判断はしません。それに、あの子のマッチの箱を調べて下さい。ほかのマッチは全て使用された跡があるのに、あの子のマッチの箱の側面にはすられた跡もなければ、マッチの本数も減っていない。見たところ、みな新品のマッチを使っているようですし、本数を数えれば誰が何本使用したかも分かるはず」
「おお、アミシア、聡明だな。よし、その娘以外は全員今日を持って退職してもらう!」
お父さま、いざってときの采配が素晴らしい。顔もいつになく凛々しくて目元が私と似ているって今はじめて気づいた。
見て、クリスティーヌの侍女の半数近くが今日をもって首よ。明日から新しい侍女を雇うにしても、クリスティーヌの駒になってくれる侍女はもうほとんどいないも同然ね。
フルール、それにお父さま、ありがとう。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件
2626
ファンタジー
家族を殺した犯人に報復を遂げた後で死んだはずの俺が、ある鬱小説の中の悪役(2歳児)に転生していた。
どうしてだ、何でなんだ!?
いや、そんな悠長な台詞を言っている暇はない!
――このままじゃ俺の取り憑いている悪役が闇堕ちする最大最悪の事件が、すぐに起きちまう!
弟のイチ推し小説で、熱心に俺にも布教していたから内容はかなり知っているんだ。
もう二度と家族を失わないために、バッドエンドを回避してやる!
転生×異世界×バッドエンド回避のために悪戦苦闘する「悪役」の物語。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】大聖女の息子はやり直す
ゆるぽ
ファンタジー
大聖女の息子にして次期侯爵であるディート・ルナライズは義母と義姉に心酔し破滅してしまった。力尽き倒れた瞬間に15歳の誕生日に戻っていたのだ。今度は絶対に間違えないと誓う彼が行動していくうちに1度目では知らなかった事実がどんどんと明らかになっていく。母の身に起きた出来事と自身と実妹の秘密。義母と義姉の目的とはいったい?/完結いたしました。また念のためR15に変更。/初めて長編を書き上げることが出来ました。読んでいただいたすべての方に感謝申し上げます。
最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜
黄舞
ファンタジー
勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。
そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは……
「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」
見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。
戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中!
主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です
基本的にコメディ色が強いです
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
無価値と呼ばれる『恵みの聖女』は、実は転生した大聖女でした〜荒れ地の国の開拓記〜
深凪雪花
ファンタジー
四聖女の一人である『恵みの聖女』は、緑豊かなシムディア王国においては無価値な聖女とされている。しかし、今代の『恵みの聖女』クラリスは、やる気のない性格から三食昼寝付きの聖宮生活に満足していた。
このままこの暮らしが続く……と思いきや、お前を養う金がもったいない、という理由から荒れ地の国タナルの王子サイードに嫁がされることになってしまう。
ひょんなことからサイードとともにタナルの人々が住めない不毛な荒れ地を開拓することになったクラリスは、前世の知識やチート魔法を駆使して国土開拓します!
※突っ込みどころがあるお話かもしれませんが、生温かく見守っていただけたら幸いです。ですが、ご指摘やご意見は大歓迎です。
※恋愛要素は薄いかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる