29 / 88
29.
しおりを挟む
配膳のときは私専属の侍女がクリスティーヌに従事することもある。
フルールは私と目を合わせない。一年侍女として働いて、すでにベテランの風格。
侍女コラリーを目撃者にするため、コラリーがお父さまにスープを運んでくるときを狙って、私も前菜を食べ終える。私の皿を片づけたのはクリスティーヌの侍女だったけれど、問題はない。入れ替わりで素早くフルールが私のところへスープを運んでくる。
「あっ」
フルールが私のドレスにスープをこぼす。
「きゃぁ! 熱いっ。冗談じゃないわ!」
演技でもなく本当に熱い。
「どうしてくれるの! お気に入りのドレスが台無しじゃない!」
私の真っ赤なドレスに、スープの油や具がこびりついている。
「申し訳ございません、アミシアさま」
フルールの平謝り。口を堅く結んで怯えているようにも見える。この子、演技力も申し分ない。私も演技で応える。
「謝ってすまないわよ! 深紅のドレスはこれが気に入ってたのよ!」
見かねたお父さまが口を挟む。
「落ち着きなさいアミシア。真っ赤なドレスなら何着も持ってるだろう? クリスティーヌを二時間も待ったんだ。くつろいで食べようじゃないか」
「お父さま、ドレスは全部色が違いますわ。朱や、ローズ色もあるんです。それぐらい見たら分かるものでしょ」
「その口の聞き方はなんだ!」
「お父さま、くつろぎたいと今おっしゃいましたよね? 私も同じ気持ちですよ! この出来損ないの侍女が私のドレスを台無しにしたせいで、私はあとのメインディッシュとデザートもこの汚れたドレスで過ごさないといけないのよ!」
私は癇癪を起した演技をして、立ち上がる。
はっと、息をひそめるフルール。違和感のないやり取りができたわ。これをクリスティーヌは少しせせら笑って見てくる。
「弁償してよ」
「アミシアさま、さすがにそのような高価なドレスは私一人では……」
「じゃあ、どうしてくれるの?」
私のスカートを拭くための布巾をコラリーが用意してフルールに手渡す。フルールは今思い至ったという顔で私のドレスを拭きはじめる。
「もっと、丁寧に!」
乱雑に扱うフルールの手を私は叩く。これも、お互いに了承していること。
「痛っ。お、お嬢さま」
「なに、口答えするつもり?」
「……いえ」と、口ごもるフルール。
お父さまが頭を悩ませているような顔をしているので、ここら辺でさらっと決めてしまおう。
「あなた、働いて何年なの?」
「……一年です」
私は今初めて聞いたように驚倒《きょうとう》する。
「たった一年働いて私に口答えしようとしたの? もういい! 私の侍女から外れて!」
さすがに不安な表情をしたコラリーが私のドレスを拭くフルールを手伝った。
「アミシアさま。さすがに言い過ぎでは」
「コラリーは黙って。フルールと二人の問題よ。フルールはもういらない」
お父さまが目を丸くする。
「いや、フルールは良い侍女だろう。新人とはいえ誰よりも仕事を覚えるのが早く、しかも終わらせるのも早い。首にするのは断じて許さんぞ」
優秀なのは周知の事実。クリスティーヌもそう。だから、絶対クリスティーヌはフルールを取りに来ると思う。
「まあ、お姉さま。侍女を首にしてしまうの? もったいない。私のところの侍女が足りないので専属にしてもかまいませんか?」
私は眉間にしわを寄せる。
「勝手にしたら?」
ほら、餌に食らいついた。
フルールが最後の演技で、私に名残惜しそうな顔をしてきた。もう、フルールったら。上出来すぎて吹き出しそうになるのを必死でこらえる。
クリスティーヌのところに行ってもあなたが私の侍女であることに変わりはないわ。頼んだわよ。
フルールは私と目を合わせない。一年侍女として働いて、すでにベテランの風格。
侍女コラリーを目撃者にするため、コラリーがお父さまにスープを運んでくるときを狙って、私も前菜を食べ終える。私の皿を片づけたのはクリスティーヌの侍女だったけれど、問題はない。入れ替わりで素早くフルールが私のところへスープを運んでくる。
「あっ」
フルールが私のドレスにスープをこぼす。
「きゃぁ! 熱いっ。冗談じゃないわ!」
演技でもなく本当に熱い。
「どうしてくれるの! お気に入りのドレスが台無しじゃない!」
私の真っ赤なドレスに、スープの油や具がこびりついている。
「申し訳ございません、アミシアさま」
フルールの平謝り。口を堅く結んで怯えているようにも見える。この子、演技力も申し分ない。私も演技で応える。
「謝ってすまないわよ! 深紅のドレスはこれが気に入ってたのよ!」
見かねたお父さまが口を挟む。
「落ち着きなさいアミシア。真っ赤なドレスなら何着も持ってるだろう? クリスティーヌを二時間も待ったんだ。くつろいで食べようじゃないか」
「お父さま、ドレスは全部色が違いますわ。朱や、ローズ色もあるんです。それぐらい見たら分かるものでしょ」
「その口の聞き方はなんだ!」
「お父さま、くつろぎたいと今おっしゃいましたよね? 私も同じ気持ちですよ! この出来損ないの侍女が私のドレスを台無しにしたせいで、私はあとのメインディッシュとデザートもこの汚れたドレスで過ごさないといけないのよ!」
私は癇癪を起した演技をして、立ち上がる。
はっと、息をひそめるフルール。違和感のないやり取りができたわ。これをクリスティーヌは少しせせら笑って見てくる。
「弁償してよ」
「アミシアさま、さすがにそのような高価なドレスは私一人では……」
「じゃあ、どうしてくれるの?」
私のスカートを拭くための布巾をコラリーが用意してフルールに手渡す。フルールは今思い至ったという顔で私のドレスを拭きはじめる。
「もっと、丁寧に!」
乱雑に扱うフルールの手を私は叩く。これも、お互いに了承していること。
「痛っ。お、お嬢さま」
「なに、口答えするつもり?」
「……いえ」と、口ごもるフルール。
お父さまが頭を悩ませているような顔をしているので、ここら辺でさらっと決めてしまおう。
「あなた、働いて何年なの?」
「……一年です」
私は今初めて聞いたように驚倒《きょうとう》する。
「たった一年働いて私に口答えしようとしたの? もういい! 私の侍女から外れて!」
さすがに不安な表情をしたコラリーが私のドレスを拭くフルールを手伝った。
「アミシアさま。さすがに言い過ぎでは」
「コラリーは黙って。フルールと二人の問題よ。フルールはもういらない」
お父さまが目を丸くする。
「いや、フルールは良い侍女だろう。新人とはいえ誰よりも仕事を覚えるのが早く、しかも終わらせるのも早い。首にするのは断じて許さんぞ」
優秀なのは周知の事実。クリスティーヌもそう。だから、絶対クリスティーヌはフルールを取りに来ると思う。
「まあ、お姉さま。侍女を首にしてしまうの? もったいない。私のところの侍女が足りないので専属にしてもかまいませんか?」
私は眉間にしわを寄せる。
「勝手にしたら?」
ほら、餌に食らいついた。
フルールが最後の演技で、私に名残惜しそうな顔をしてきた。もう、フルールったら。上出来すぎて吹き出しそうになるのを必死でこらえる。
クリスティーヌのところに行ってもあなたが私の侍女であることに変わりはないわ。頼んだわよ。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら登場人物全員がバッドエンドを迎える鬱小説の悪役だった件
2626
ファンタジー
家族を殺した犯人に報復を遂げた後で死んだはずの俺が、ある鬱小説の中の悪役(2歳児)に転生していた。
どうしてだ、何でなんだ!?
いや、そんな悠長な台詞を言っている暇はない!
――このままじゃ俺の取り憑いている悪役が闇堕ちする最大最悪の事件が、すぐに起きちまう!
弟のイチ推し小説で、熱心に俺にも布教していたから内容はかなり知っているんだ。
もう二度と家族を失わないために、バッドエンドを回避してやる!
転生×異世界×バッドエンド回避のために悪戦苦闘する「悪役」の物語。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】大聖女の息子はやり直す
ゆるぽ
ファンタジー
大聖女の息子にして次期侯爵であるディート・ルナライズは義母と義姉に心酔し破滅してしまった。力尽き倒れた瞬間に15歳の誕生日に戻っていたのだ。今度は絶対に間違えないと誓う彼が行動していくうちに1度目では知らなかった事実がどんどんと明らかになっていく。母の身に起きた出来事と自身と実妹の秘密。義母と義姉の目的とはいったい?/完結いたしました。また念のためR15に変更。/初めて長編を書き上げることが出来ました。読んでいただいたすべての方に感謝申し上げます。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜
黄舞
ファンタジー
勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。
そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは……
「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」
見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。
戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中!
主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です
基本的にコメディ色が強いです
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
無価値と呼ばれる『恵みの聖女』は、実は転生した大聖女でした〜荒れ地の国の開拓記〜
深凪雪花
ファンタジー
四聖女の一人である『恵みの聖女』は、緑豊かなシムディア王国においては無価値な聖女とされている。しかし、今代の『恵みの聖女』クラリスは、やる気のない性格から三食昼寝付きの聖宮生活に満足していた。
このままこの暮らしが続く……と思いきや、お前を養う金がもったいない、という理由から荒れ地の国タナルの王子サイードに嫁がされることになってしまう。
ひょんなことからサイードとともにタナルの人々が住めない不毛な荒れ地を開拓することになったクラリスは、前世の知識やチート魔法を駆使して国土開拓します!
※突っ込みどころがあるお話かもしれませんが、生温かく見守っていただけたら幸いです。ですが、ご指摘やご意見は大歓迎です。
※恋愛要素は薄いかもしれません。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる