巻き戻り悪女の復讐の首飾り。妹が偽りの聖女なので私が成り代わります!

影津

文字の大きさ
上 下
28 / 88

28.

しおりを挟む
 日が暮れた遅い時刻に、クリスティーヌは屋敷に帰宅した。彼女は白い頬を紅潮させ、喜び勇んだ早足で玄関に入ってくる。屋敷の者に騎士ミレーと楽しい出来事があったのだと予感させた。

「遅かったな。心配したぞ」

 お父さまは夕食を二時間も遅らせてクリスティーヌを待った。私も待たされていっしょに食事するよう強要されたのは想定内。

 お父さまは私にも同じことを言わせたいんでしょう? 「遅くて心配したわよ、クリスティーヌ」って。そうすればお父さまは心痛の面持ちで「お前の帰りをみんなが待っていた」と、家族団らんを演出することができるもの。

 お父さまの無言の圧力に反抗して、無言でクリスティーヌを見やる。クリスティーヌの薄緑のドレスは新品同様に見えた。騎士ミレーさまに買ってもらったのね。

「待たせてしまいましたね、お父さま。お姉さまも」

 私に天使のような顔で微笑むクリスティーヌ。

「せっかくだからミレーさまと夕食もご一緒したらよかったのに」

 私は懇意《こんい》で伝えるのならこの台詞かなと、真心を込めて微笑みで返した。すると、お父さまが怪訝そうな顔をする。

「これ、アミシア。クリスティーヌは未成年だから早く帰ってきたんじゃないか。ミレー殿のご厚意があったに違いない」

 まあ、なんでも褒めてあげれば? とりあえず自然ななりゆきでクリスティーヌといっしょにディナーができるのだから、私としては文句はない。

 クリスティーヌが屋内用ドレスに着替えてきたところで、いよいよコース料理の配膳がはじまる。

 お父さまとクリスティーヌは運ばれてきた前菜を咀嚼《そしゃく》し、騎士ミレーの英雄譚に花を咲かせている。

「ミレーさまは、一人で狼の魔物を五体も退治したことがあるんだそうですよ」

「それはすごいな。ミレー殿は剣を使わずともその膂力《りょりょく》で魔犬程度なら倒せるという噂は本当だったようだ」

「とてもミレーさまの柔和な笑みからは想像がつきません。私、ミレーさまの勇気ある行動に感動し、是非その剣さばきを見たいとお願いしたんです。そうしたら今度、魔物討伐の折には私も見学させてもらえることになりました」

「ん? それは危険ではないのか? お前に何かあったら……私は」

「聖女はどんな魔物でも撃退できるようにならないといけないので」

 クリスティーヌがミレーに接近したのは、リュカ王子と謁見するためだけじゃないようね。魔物と繋がりを持つためだとしたら、今後は魔物の動きにも注意しないといけない。特にミレーはこの国の最高戦力を担う騎士。

 私がギロチンにかけられたときには、王国騎士団は聖女クリスティーヌの犬になってた。ミレーさま、がたいはいいのに頭は弱いから……。とにかく二人の動向からは目が離せないわ。

 コース料理の前菜が終わり、パンとスープが運ばれてくる。

 やっと来たわね、コラリーとフルールが。ミレーさまの武勇伝にも飽きてきたところだし――このくだらないラ・トゥール家だけの晩餐会をぶち壊しましょ?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...