19 / 88
19.
しおりを挟む
今日も歌のレッスン。ララ先生の表情は硬い。きっと、教えてくれているのは私のお金が目当てなだけなのよね。仲良くまでとはいかないけれど、教えてくれるだけ感謝しないとね。
私も、聖女になるには魔力が必要だと分かってから歌の授業に身が入らなくなった日もあったし。それでもピアノだけはやりたくて。そうだ、ピアノの置いてある部屋の棚に先生のプレゼントとして花でも飾ろうかしら。
さらに、翌日。チューリップを花瓶に飾ってみたわ。
「アミシア。それはなんですか?」
「ララ先生への贈り物です。せっかくなので飾りました。レッスン後に、お持ち帰りいただけるように包みますね」
クリスティーヌは、にこにこと微笑んでいる。きっと、馬鹿にしてるんでしょ? でもこういう小さなことから仲良くなれるものなのよ。
でもまあ、クリスティーヌの歌、ほんとに上手いわね。廊下で盗み聞きしている侍女たちの拍手が聞こえてきた。やだ、鬱陶しい。クリスティーヌのファンアピールしなくてもいいのよ。
どっと疲れちゃった。クリスティーヌがわざとやったわけじゃないけれど。応援されているのとされていないのとで、だいぶ違うのね。別に私一人でも最後まで何曲でも歌いきってやるわよ?
でも、誰のために歌ってるの? 窓の外が快晴で嫌になる。歌声はどこにも響かないじゃない。大広間? 天井画の天使たち? それとも、チューリップ? 誰に向かって私は歌っているの。ララ先生に褒められるため? それだけなの? どこにも届かないみたいじゃない……。
「アミシア、声が伸びてないですよ」
「はい。先生」
涙声になってるじゃない。どうしたのよ私。
「ララ先生、申し訳ありません。今日はもう部屋で休んでもいいですか?」
「あら、お姉さま。三日で休むんですね?」
「ちょっと風邪気味なのよ」
ほんとに鼻声になってきちゃう。絶対、負けないんだから。だけど、今日だけ休ませて。
部屋に早く戻ったのでコラリーとほかの侍女たちが部屋を掃除しているところに遭遇した。
「あら、アミシアさま。どうされましたか? 顔色が……」
私が黙っていると、ほかの侍女たちをコラリーは部屋の外に出した。
「少々片付けが残っておりますが、ベッドの周りは全て終わってます。お嬢さま、お休みになられますか?」
「え、ええ」
「お嬢さまが三日もレッスンを続けたのははじめてですね」
「こ、コラリーまでそんな」
「まあ、そのようなことを言われたのですか?」
ギクッ。
「そうじゃなくて」
「ものごとを三日続けるのはとても難しいことだと思います。私もこのお屋敷に慣れるまで一か月かかりましたから。最初の三日は、広い屋敷内で迷子になったり、部屋を間違えたりで走り回ってものを壊したりと、よくとある方から怒られました」
「え、コラリーもそんな時期があったのね。ベテランなのに? ある方って誰?」
「ええ、みんなはじめは初心者なんですよ。うーん、その方は私の口からはお教えするのは時間がかかりますね」
「そうなの?」
「そのうち分かります。とにかく、お嬢さまは無理せずに、自分のペースで上達すればいいと思いますよ?」
「そうねぇ」
とりあえず明日も頑張ろう。行きたくないって思い始めたんならレッスンの時間を減らせばいいんだし。それか、クリスティーヌと練習時間を追加料金を払ってでも分けてもらうか……。うーん、それはなしかな。
私も、聖女になるには魔力が必要だと分かってから歌の授業に身が入らなくなった日もあったし。それでもピアノだけはやりたくて。そうだ、ピアノの置いてある部屋の棚に先生のプレゼントとして花でも飾ろうかしら。
さらに、翌日。チューリップを花瓶に飾ってみたわ。
「アミシア。それはなんですか?」
「ララ先生への贈り物です。せっかくなので飾りました。レッスン後に、お持ち帰りいただけるように包みますね」
クリスティーヌは、にこにこと微笑んでいる。きっと、馬鹿にしてるんでしょ? でもこういう小さなことから仲良くなれるものなのよ。
でもまあ、クリスティーヌの歌、ほんとに上手いわね。廊下で盗み聞きしている侍女たちの拍手が聞こえてきた。やだ、鬱陶しい。クリスティーヌのファンアピールしなくてもいいのよ。
どっと疲れちゃった。クリスティーヌがわざとやったわけじゃないけれど。応援されているのとされていないのとで、だいぶ違うのね。別に私一人でも最後まで何曲でも歌いきってやるわよ?
でも、誰のために歌ってるの? 窓の外が快晴で嫌になる。歌声はどこにも響かないじゃない。大広間? 天井画の天使たち? それとも、チューリップ? 誰に向かって私は歌っているの。ララ先生に褒められるため? それだけなの? どこにも届かないみたいじゃない……。
「アミシア、声が伸びてないですよ」
「はい。先生」
涙声になってるじゃない。どうしたのよ私。
「ララ先生、申し訳ありません。今日はもう部屋で休んでもいいですか?」
「あら、お姉さま。三日で休むんですね?」
「ちょっと風邪気味なのよ」
ほんとに鼻声になってきちゃう。絶対、負けないんだから。だけど、今日だけ休ませて。
部屋に早く戻ったのでコラリーとほかの侍女たちが部屋を掃除しているところに遭遇した。
「あら、アミシアさま。どうされましたか? 顔色が……」
私が黙っていると、ほかの侍女たちをコラリーは部屋の外に出した。
「少々片付けが残っておりますが、ベッドの周りは全て終わってます。お嬢さま、お休みになられますか?」
「え、ええ」
「お嬢さまが三日もレッスンを続けたのははじめてですね」
「こ、コラリーまでそんな」
「まあ、そのようなことを言われたのですか?」
ギクッ。
「そうじゃなくて」
「ものごとを三日続けるのはとても難しいことだと思います。私もこのお屋敷に慣れるまで一か月かかりましたから。最初の三日は、広い屋敷内で迷子になったり、部屋を間違えたりで走り回ってものを壊したりと、よくとある方から怒られました」
「え、コラリーもそんな時期があったのね。ベテランなのに? ある方って誰?」
「ええ、みんなはじめは初心者なんですよ。うーん、その方は私の口からはお教えするのは時間がかかりますね」
「そうなの?」
「そのうち分かります。とにかく、お嬢さまは無理せずに、自分のペースで上達すればいいと思いますよ?」
「そうねぇ」
とりあえず明日も頑張ろう。行きたくないって思い始めたんならレッスンの時間を減らせばいいんだし。それか、クリスティーヌと練習時間を追加料金を払ってでも分けてもらうか……。うーん、それはなしかな。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる