巻き戻り悪女の復讐の首飾り。妹が偽りの聖女なので私が成り代わります!

影津

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 よく晴れた日の午後。

 よく寝たああ。まだ過去に戻ったことに実感が湧かないけど。よく寝て食べて、それだけで生きていけるって最高じゃない? そう、クリスティーヌさえいなければね。

 何食わぬ顔でいっしょに朝食も昼食も取るの。あの子、ほんとに屋敷の中ではいい子なのよね。それが気持ち悪い。ほんとに魔族なのよね。忘れそうになるわ。ある日突然、毒を盛られたりしないわよね? 

 向かい合ってサラダを口に運ぶと、ほほ笑んでくるクリスティーヌ。私に愛想笑い? 心の中で何を思っているのか知らないけれど。

 騙されないようにしないと。だいたい、私たち伯爵家に入り込む目的は何? 侯爵家とかに入り込めばいいじゃない。クリスティーヌをつれてきたのはお父さまだけど……。それとも、この家系でなければいけなかった? まさか、お父さまのいう通り本当にクリスティーヌはお母さまに似ているの? 考えると吐き気がする。

 私はナプキンで口を軽く拭う。

「ごちそうさま」

 父フレデリックが不思議そうな顔をする。

「なんだ。もう食べないのか? 具合でも悪いのか」

「いえ。あまりお腹が減っていないので」

「そうか。ならいいんだが。午後からブドウ園の視察に行くんだが。お前はどうする? ワインにするのにちょうどいいブドウがあってな。試飲もできるぞ。みんなでどうだ?」

 領地のブドウ園はここから少し遠いのよね。というよりお父さま……私はワインは……。

「まあお父さま。私はまだワインは飲めませんわ。お姉さまは知らないですけど」とクリスティーヌが澄ました顔で言う。

 私も未成年じゃボケ。人を大酒飲みみたいに言わないでよ!

 断る理由もないんだけど。ただ、クリスティーヌを見張っておかないと気が済まないと思った。

 支度をして庭に出ると、御者が申し訳なさそうに小声でお父さまに何か告げているのが見えた。

「なんだって? 何故もっと早く言わない」

「申し訳ございません。私も人づてに聞いたものでして。まだ確認が取れていないのです」

「何でもいい。確認を取れ。それができないなら真っ先に私のところに報告に来るべきだろう。お前たちも早く馬車に乗れ」

 さっきまで穏やかだったお父さまが色めきだつ。何が原因かは知らないけれど、機嫌の悪い父には気をつけないと。

 私の向かい側に座ったお父さまがしきりにため息をつく。クリスティーヌは私の隣に座って、仲がいいんですよというにこやかな顔をしている。なんか頭にくる笑顔ね。苛々しているお父さまの前でよくやるわ。

 お父さまはクリスティーヌの顔を見ると、一層深いため息をついて涙ぐんだ。だけど私もクリスティーヌも事情を聞こうとしない。どちらが先に声をかけたかで負けが決まるみたい。いや、クリスティーヌならお父さまに声をかけても問題ないはず。

 私がもし声をかけたら、関係が悪化して溝が深まるかもしれない。クリスティーヌは私に声をかけさせたいのね。分かりやすい子。いいわ。乗ってやろうじゃない。

「お父さま」

「お前は黙っていろ」

 早っ。ちょっとは聞く耳を持って欲しいわ。クリスティーヌがニヤニヤしているけど、関係ない。

「いいえ。私はお父さまの心配をしているんです。私をブドウ園へ誘って下さったのに、急に態度が変わられたので。何かあったかどうかは聞きません」

 お父さまは、少し困惑している様子。クリスティーヌは私が思いきりお父さまに怒られるところを見たかったのだろうけど、残念ね。

「ブドウ園に魔物が出たらしい。被害のほどは不明だが」

 ときどき被害情報は聞いたことがあったけど。ここまで来たのね。人が襲われなかっただけましなのかもしれないけれど。

 すると、クリスティーヌが口を挟む。

「お父さま。私にできることがあれば言って下さいね。私がついています」

 あ、一番いいところを取られたかもしれないわ。でも、私じゃ絶対に言えない台詞なのよね。私が魔物退治なんてできるはずないもの。でも、クリスティーヌだって追い払うことはできたとしても退治はできないでしょうに。聖女の力で戦うつもり? それとも魔族の力の方?

「ははは。我が娘が聖女であることを知らしめねばならんな」

 お父さま、とたんに上機嫌になったわ。ほんと、買いかぶり過ぎよ。クリスティーヌは回復魔法しか使えないのよ。それをあちこちで、聖女さまだって自慢するのもどうかと思うわ。結界を張れるようになってから一人前の聖女と認めてあげてもいいと思うけど。
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