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第1章

32話 三者会談に参加する俺

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急いで外出の準備をしてクリスと階下に降りると、食堂にはすでにベレッタが朝食を食べていた。

「おう!2人とも遅かったな!早く食べて早く行こう!」

ベレッタはもう食べ終わるらしくて、急かしてくるのをクリスが宥める。
彼女は昨日の件で詳しい調査の結果を早く聞きたいのだろう。本来の彼女の目的である恋人の行方に繋がる情報もあるかもしれない。
そういえば昨日子供たちを助け出す時にも、それぞれの顔をじっとみて全員チェックしていた。
落胆していたから、あの中に彼女の恋人は見つからなかったのだろう。

「あの魔族。クルドとかいったあの野郎。大人も欲しいとか言ってたよな。だからヘレンもやっぱり誘拐された可能性が高いと私は思ってる。もしかしたらそれに繋がる情報もあるんじゃないかと…せかしてすまん。」
「確かに大人でも欲しいと言っていたな。一体なんのために…」

そこまで言ってクリスは口をつぐむ。俺も一緒だ。嫌な想像をしてしまった。
あいつは仲間であるはずのフランク騎士団長にさえ人体実験をしていた。ということはベレッタの恋人もされているかもしれない。想像だけで済めばいいが、嫌な汗が流れる。

「あたしはヘレンさえ無事であれば、どんな姿だって連れて帰るよ。本当に無事であってほしい…。」

祈るような仕草で、ベレッタは目を閉じる。
実は俺もヘレンさんの状況を調べようと思って、創造者モードの時に検索したことがある。
ところが検索結果には彼女のステータスは表示されたものの、なぜか居場所や詳しい状況については表示されなかった。俺の知らない裏の設定でもあのゲームにはあるのだろうか?今度調べてみよう。

食事が終わり急いで宿を出ると、ちょうど目の前に到着した迎えの馬車に飛び乗った。


段々と壮麗な城に近づいていく。少し離れたところではその大きさにあまり実感がわかなかったが、近づいてみるとその規模の大きさに度肝を抜かれる。まるで富士山みたいだ。
この国の規模を表すのが城の大きさだが、人間の領域で最も広い領土をファーレンの王城は一際大きい。

城の裏手の方に回り込んだ馬車は、入り口の前に止まると俺たちを下ろしてさっさと走り去っていった。
入り口の前には執事風の男がすでに待ち構えて、俺たちに会釈をした。

「お待ちしておりました。クリストフ様、タケル様、ベレッタ様でいらっしゃいますね?私はキール殿下の専属執事カールと申します。これより殿下がお待ちの部屋までご案内いたします。」

カールは黒髪の見た目少年のような風貌だが、動きのそれは流麗でまるでベテランの執事にしか見えない。俺より年下に見えるんだけど一体何歳なんだろう。声は少し高かったけれど。

そんな余計なことを考えている俺を差し置いて、カールたちはどんどん先に進んでいくので慌ててついていった。


広大な王城の中をしばらく歩くと、一室に通された。中には特に飾り物もなく、どうやら打ち合わせのための実務的な部屋のようだ。あまり表にできない話だからか、城の奥の方の実務エリアまで案内したってところだろうか。
部屋にはすでにキール殿下が座って書類を読んでいた。

「朝から呼び出してすまない。どうぞ座ってくれ。カール彼らにお茶を。」

言われたカールは粛々とお茶の準備をして、俺たちに出してくれた。てっきり部屋から出ていくのかと思ったが、そのまま部屋の片隅で待機姿勢をしている。

「ああ、彼も関係者だからそのままでいいんだ。気にしないでくれ。さて、昨日のことだが色々整理したくてね。報告書も作成しないといけないし、今後のこともあるから手を貸してもらいたい。」
「ええと、ギルドにも報告しないといけないんですが…。」

俺がそう言うとキール殿下は手で制した。

「ギルバートはこの後ここに来ることになっている。それとマルヴィン教皇にもお越し願っている。だから二度手間の心配もいらないよ。安心して欲しい。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「まあ、報告の為だけでもないけどね。さっきも言ったが、今後の対応についても検討しないといけないからね。ギルドや教会の考えも聞いておきたい。」
「今後の対応というと?」
「それは彼らが来てから…どうやら到着したようだ。」

コンコンとノックされるとギルバートとマルヴィン教皇が入室してきた。俺たちは一度席を立つと到着した二人に気にするなと合図されて着席する。マルヴィン教皇は変装しているから、今回もお忍びのようだ。

「さて、全員揃ったことだし話を始めよう。まずギルドと教会には今回の件に協力いただいて感謝している。本来なら騎士団が担当するはずだったんだが、今回はそういうわけにもいかなかった。」
「気になさらないでください。我々は神の思し召しに従ったまで。そうでなくとも子供達の救出なれば手は惜しみません。」
「そうです。殿下。我々ギルドにも元々多くの捜索依頼が出ていました。流石に騎士団相手ではギルドだけでは解決は難しかったでしょう。教会の協力があったのもいい方に向かった。」
「そうだ。国と民間組織であるギルド、そして教会、さらには神から選ばれし者も加わった。今回の件は忌むべきことだったが、学んだこともあったな。」
「まさしく。クリス殿たちの活躍もエンリコから聞いています。キール殿下も活躍されたとか。さすがです。」
「まあ、それについては後でちょっと確認したいこともある。まずはその後の状況について説明しておこう。」

そういうとキール殿下は先ほどまで読んでいた書類を見ながら、子供たちを助け出してから今までの経緯を説明してくれた。
まずは子供達の状況。130名もの子供達は首輪の効果で昏睡状態に陥っていたが、大聖堂で回復魔法が使える者総動員で回復を施したところ、すでに半分以上が意識を取り戻している。健康状態を確認した後問題ない子供達から順番に親に引き渡され、帰宅しているという。

「よかった…。」
「本当によかったな。全員が無事であったというのも…。」
「今回は不幸中の幸いであった。子供達は攫われてすぐあの首輪をつけられて意識がなかったからか、何も覚えてないようだ。従ってトラウマにもなっていない。」

次に捉えられた騎士たちについて。あの時捕らえられた騎士たちのほとんどは意識が戻っており、彼らの証言からさらにその場にいなかった関係者全員を捕らえたようだ。ちなみに過去に俺にかったるそうな対応をしていた生活安全課課長のダンカンの名前も上がっていた。
彼らが担ったのはそれぞれの部署における情報操作・隠蔽、倉庫への運搬・守備、他都市への情報伝達などだった。

あれほど大規模な誘拐なのだからそれなりの人間が関わっているとは思っていたが、騎士団から総勢50名を超える容疑者が出るとは…。

「これは前代未聞の醜聞だ。本来国民を守護するはずの騎士団が子供の誘拐に関わったなどと、恥ずべき事態だ。騎士団が国民から信頼を取り戻すのに一体どれ程の時間が必要なのか検討もつかない。いっそ一度解体することも検討に入れている。」

キール殿下が眉間に皺をよせて頭を抱えながら話している。おそらくはすでに国民から批判の声が上がっているのだろう。子供たちを助けられてよかったで終わらせられるわけではないのだろう。
王族の苦悩をまざまざと感じる。

「ところで殿下、なぜ魔族が人間の子供を誘拐なぞしているんです?なんでも魔力が高めの子供が多いとは聞いていますが…洗脳とか?」

教皇がおそらくこの場の全員が感じている疑問を口にした。俺は知っているけど、ここで明らかになってほしい。

「それが…口にするのも悍ましいことだが、兵器に転用しようとしていたらしい。」
「は?兵器…ですと?」
「魔力の高い人間の子供から魔力を強制的に引き出し、兵器に使おうとしていたらしい。どのような兵器かは現在調査を続けているところだが…帝国とはこうもおぞましいことを考えられるようだ。魔族の男が嬉しそうに話しているのをたまたま聞いた騎士の一人が証言している。」

部屋にしばらく沈黙が訪れる。子供たちを兵器に使うなどとおよそ人を人とも思ってない。ようやくこの情報が人間たちの間に広がることで俺の帝国に対して持っている怒りを共有することができる。俺はそう思って話を見守っていた。


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