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そうじゃない!
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俺はこの夏に決心したことがある。
高校生最後の夏に、中学の頃からずっと好きだった友達の士郎に告白する。
いや、できないまでも自分の気持ちをそれとなく伝えたい。
長年燻っていたこの思いを、受験勉強が追い込みに入る前に伝えてしまいたい。
でも士郎は根っからの女の子好きだ。
出会った時から話の8割は女の子の話で、残り2割も女の子の話で終わる。
俺はずっと都合のいい聞き手として、士郎の話しやすいように相槌を打ちながら、このどうしようもない気持ちを燻らせていたんだ。
士郎は惚れた欲目から言っても格好いい。
学年でも1番か2番を争うほどの格好良さで、サッカー部に所属とくれば学校のカースト上位は決まったようなものだ。性格も朗らかで誰とでもすぐ打ち解けられるし、頭もいい。
欠点らしい欠点といえば、周囲の人の好意に無頓着ということだろうか。とことん人たらしな男なのだった。
美術部の俺が彼と友達い続けられるのも、単に彼が優しいからに他ならない。
俺には士郎以外友達と呼べるものはいなかったが、士郎にはたくさんの友達がいる。
「弘樹、どうした? またやられたのか?」
「う~ん。またなくなってる・・・俺の筆箱」
「なんのためにいちいちお前の筆箱取るんだろうな?」
「わからん・・・」
「おーい! 弘樹! 練習始まるぞ!」
「わかった! ごめん。また後でな!」
サッカー部の同級生に呼ばれて士郎は出ていく。本来なら俺に声をかけるような立場でもないのに、いまだに何かあるといつもこうやって声をかけてくれるのも士郎だった。
高校に入ってから特に、自分の物がなくなることが悩みの種ではあったけれど、こうやって士郎がいつも励ましてくれるからあまり気にせずに生活してこれた。
本当なら、今の自分の立場で満足するべきなのかもしれない。
ずっとそう思っていたけど、自分の気持ちに嘘をつき続けることもまた苦痛でしかない。
ここ最近は夢にうなされるようになってしまった。時々情緒が不安定になり、涙も出てきてしまう。
やっぱり今年の夏のうちに気持ちを伝えよう。
意思薄弱で決心もすぐに鈍る俺だけど、これだけははたさないといけない。
「弘樹~慰めてくれよ!」
「またなのか。高校入って何回目よ。それ。」
「今回で十回目かなあ。」
「マジかよ・・・」
「俺だってマジかだよ・・・」
中学の頃からモテていた士郎はよく女の子から告白される。女の子好きの士郎のことだから、自分から告白するところは一度も見たことないが、気がつくといつも彼女を作って報告してくる。
そして同じ回数だけ「振られた」と報告してくる。
俺の役目は振られて、気持ちの凹んだ士郎を慰めることだ。結構役得だと俺は思ってる。
今士郎は座っている俺の膝にしがみついている。最大限甘えている時の士郎はいつもこうだ。
彼女を作ったことは無数にあるが、その都度3ヶ月も経たずに振られてしまうのは、相手に誠意が伝わっていないことが1番の原因だと俺はわかっているが、そんなことを士郎にむざむざ教えるつもりなどない。
「士郎の良さがわかってないんだよ。必ずいるよそういう相手が。(俺が一番わかってるけど)」
「そうかなあ・・・今度こそはって思うんだけどな」
「お前の優しさがわかる人とくっついた方が幸せになれると思うんだよ(それは俺だけど)」
いつもなら心の中の言葉はお首にも出さないように、ただただ優しい声をかけ続ることにしている。
もし口に出してしまったら、今の役得さえなくなってしまうことは明白だから。
だけどもうこの最後の夏だけは、自分の気持ちを伝えるって決めたから、ここで終わらせないようにほんの少し気持ちを乗せることにした。
「俺は絶対お前から離れないから。」
これが今俺にできる最大限の譲歩。これ以上は無理。
聞き様によっては「親友として」とも取れるし、「恋人として」とも取れるはず。
いや人の好意に無頓着な士郎なら、きっと気づかないかも。
そう、思っていたのだけれど。
「そんなんじゃ足りないよ。何? このまま親友で終わらす気? 全部見せてくれるんじゃないの?」
「へ?」
突然目を三角形に尖らせて、低い声で士郎が言った。
俺は言葉の意味が分からず、硬直してしまった。
「この夏に俺に告白するつもりなんじゃないの? 昨日だって家で練習してたじゃん。今すごく落ち込んでる俺に漬け込むチャンスじゃん! 今でしょ!」
「へ? へ?」
士郎の言っている意味が分からない。
急に早口になる士郎に頭が追いつかない。
なぜ俺しか知らないはずのことを知っている? なんで俺が昨日家で原稿作って、声に出してまで練習したことはこいつは知っているのだろう?
「弘樹は俺のこと好きなんだから、もういっちゃうけど、俺弘樹のことならなんでも知ってるよ。弘樹が時々俺の写メ見ながら話しかけてるのも知ってるし、家でやってるゲームも知ってるし、最近お気に入りで使ってる入浴剤の種類も知ってる。ちなみに最近のおかずも俺でしょ?一番使ってるのは俺の試合中の写真だよね?いや確かにあの写真は自分でもいい写りだと思ってる!他にも弘樹の好きな食べ物も知ってるし、最近めっちゃハマってる漫画も当然知ってる。もうこれ両思いだから、全部言っちゃうけど、俺も弘樹のこと好きだから!安心していいからね!」
一息になんだかとんでもないことを多々吐かれた気がするが、正直まだ自分の中で言葉の意味が消化しきれてない。
なんだか、とんでもないことになっているのではないか。
俺の背筋がさっきから冷えすぎて、カチコチになってしまっている。体も動かないがこれは士郎が腰回りに手を回して力を入れてるからだ。
さっき言っていたことをもう一度反芻してみると、あまりのストーカーぶりにドンびいてしまった。
「いや~俺もずっと弘樹のこと追いかけてたけど、両思いだってわかった時は嬉しくって弘樹の上履きぺろぺろしちゃったよ。」
確かに俺は士郎のことが好きだったけど、こういうのを望んでいたわけじゃない。
確かに両思いは嬉しい、嬉しいがなんか違う。
目つきがだんだんいやらしくなっていく士郎の顔から目を背けて、「そうじゃない!」と俺は叫んだ。
でも全く俺から離れる気はないらしい。
高校生最後の夏に、中学の頃からずっと好きだった友達の士郎に告白する。
いや、できないまでも自分の気持ちをそれとなく伝えたい。
長年燻っていたこの思いを、受験勉強が追い込みに入る前に伝えてしまいたい。
でも士郎は根っからの女の子好きだ。
出会った時から話の8割は女の子の話で、残り2割も女の子の話で終わる。
俺はずっと都合のいい聞き手として、士郎の話しやすいように相槌を打ちながら、このどうしようもない気持ちを燻らせていたんだ。
士郎は惚れた欲目から言っても格好いい。
学年でも1番か2番を争うほどの格好良さで、サッカー部に所属とくれば学校のカースト上位は決まったようなものだ。性格も朗らかで誰とでもすぐ打ち解けられるし、頭もいい。
欠点らしい欠点といえば、周囲の人の好意に無頓着ということだろうか。とことん人たらしな男なのだった。
美術部の俺が彼と友達い続けられるのも、単に彼が優しいからに他ならない。
俺には士郎以外友達と呼べるものはいなかったが、士郎にはたくさんの友達がいる。
「弘樹、どうした? またやられたのか?」
「う~ん。またなくなってる・・・俺の筆箱」
「なんのためにいちいちお前の筆箱取るんだろうな?」
「わからん・・・」
「おーい! 弘樹! 練習始まるぞ!」
「わかった! ごめん。また後でな!」
サッカー部の同級生に呼ばれて士郎は出ていく。本来なら俺に声をかけるような立場でもないのに、いまだに何かあるといつもこうやって声をかけてくれるのも士郎だった。
高校に入ってから特に、自分の物がなくなることが悩みの種ではあったけれど、こうやって士郎がいつも励ましてくれるからあまり気にせずに生活してこれた。
本当なら、今の自分の立場で満足するべきなのかもしれない。
ずっとそう思っていたけど、自分の気持ちに嘘をつき続けることもまた苦痛でしかない。
ここ最近は夢にうなされるようになってしまった。時々情緒が不安定になり、涙も出てきてしまう。
やっぱり今年の夏のうちに気持ちを伝えよう。
意思薄弱で決心もすぐに鈍る俺だけど、これだけははたさないといけない。
「弘樹~慰めてくれよ!」
「またなのか。高校入って何回目よ。それ。」
「今回で十回目かなあ。」
「マジかよ・・・」
「俺だってマジかだよ・・・」
中学の頃からモテていた士郎はよく女の子から告白される。女の子好きの士郎のことだから、自分から告白するところは一度も見たことないが、気がつくといつも彼女を作って報告してくる。
そして同じ回数だけ「振られた」と報告してくる。
俺の役目は振られて、気持ちの凹んだ士郎を慰めることだ。結構役得だと俺は思ってる。
今士郎は座っている俺の膝にしがみついている。最大限甘えている時の士郎はいつもこうだ。
彼女を作ったことは無数にあるが、その都度3ヶ月も経たずに振られてしまうのは、相手に誠意が伝わっていないことが1番の原因だと俺はわかっているが、そんなことを士郎にむざむざ教えるつもりなどない。
「士郎の良さがわかってないんだよ。必ずいるよそういう相手が。(俺が一番わかってるけど)」
「そうかなあ・・・今度こそはって思うんだけどな」
「お前の優しさがわかる人とくっついた方が幸せになれると思うんだよ(それは俺だけど)」
いつもなら心の中の言葉はお首にも出さないように、ただただ優しい声をかけ続ることにしている。
もし口に出してしまったら、今の役得さえなくなってしまうことは明白だから。
だけどもうこの最後の夏だけは、自分の気持ちを伝えるって決めたから、ここで終わらせないようにほんの少し気持ちを乗せることにした。
「俺は絶対お前から離れないから。」
これが今俺にできる最大限の譲歩。これ以上は無理。
聞き様によっては「親友として」とも取れるし、「恋人として」とも取れるはず。
いや人の好意に無頓着な士郎なら、きっと気づかないかも。
そう、思っていたのだけれど。
「そんなんじゃ足りないよ。何? このまま親友で終わらす気? 全部見せてくれるんじゃないの?」
「へ?」
突然目を三角形に尖らせて、低い声で士郎が言った。
俺は言葉の意味が分からず、硬直してしまった。
「この夏に俺に告白するつもりなんじゃないの? 昨日だって家で練習してたじゃん。今すごく落ち込んでる俺に漬け込むチャンスじゃん! 今でしょ!」
「へ? へ?」
士郎の言っている意味が分からない。
急に早口になる士郎に頭が追いつかない。
なぜ俺しか知らないはずのことを知っている? なんで俺が昨日家で原稿作って、声に出してまで練習したことはこいつは知っているのだろう?
「弘樹は俺のこと好きなんだから、もういっちゃうけど、俺弘樹のことならなんでも知ってるよ。弘樹が時々俺の写メ見ながら話しかけてるのも知ってるし、家でやってるゲームも知ってるし、最近お気に入りで使ってる入浴剤の種類も知ってる。ちなみに最近のおかずも俺でしょ?一番使ってるのは俺の試合中の写真だよね?いや確かにあの写真は自分でもいい写りだと思ってる!他にも弘樹の好きな食べ物も知ってるし、最近めっちゃハマってる漫画も当然知ってる。もうこれ両思いだから、全部言っちゃうけど、俺も弘樹のこと好きだから!安心していいからね!」
一息になんだかとんでもないことを多々吐かれた気がするが、正直まだ自分の中で言葉の意味が消化しきれてない。
なんだか、とんでもないことになっているのではないか。
俺の背筋がさっきから冷えすぎて、カチコチになってしまっている。体も動かないがこれは士郎が腰回りに手を回して力を入れてるからだ。
さっき言っていたことをもう一度反芻してみると、あまりのストーカーぶりにドンびいてしまった。
「いや~俺もずっと弘樹のこと追いかけてたけど、両思いだってわかった時は嬉しくって弘樹の上履きぺろぺろしちゃったよ。」
確かに俺は士郎のことが好きだったけど、こういうのを望んでいたわけじゃない。
確かに両思いは嬉しい、嬉しいがなんか違う。
目つきがだんだんいやらしくなっていく士郎の顔から目を背けて、「そうじゃない!」と俺は叫んだ。
でも全く俺から離れる気はないらしい。
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