上 下
33 / 33

その33 アスタリアの神

しおりを挟む
 ◇◇◇

 アイリスは今まで、竜王陛下と聞いてもただ竜王を名乗る人間の王なのだと思っていた。大陸の覇者、アルファンド王国の名前を聞いたことはあれど、その国の実情までは知らなかったから。

(メイドのマリー達にも可愛らしい耳や尻尾がついているのは、人とは違うそういう種族だってこと?)

 彫刻のように綺麗な顔を覆うキラキラと輝く金の鱗。竜化した腕もまた、黄金色の鱗に覆われており、鋭くとがった爪が伸びている。

『きれい……』

 アイリスが思わず呟いた声にならない言葉に、フィリクスは素早く反応した。

「綺麗?君は竜化した私が、怖くはないのか?」

 か弱い人族はみな、恐ろしい竜の姿を本能的に恐れると思っていた。まあアイリスに恐れられたらきっと一生竜化をしないと誓うだろうが。

 アイリスはこくりと頷く。

『わたしたちアスタリアのたみにとって、りゅうはかみそのもの。りゅうよりうつくしいいきものなどいませんわ』

 キラキラとした目で見られてうっと息を呑むフィリクス。

「そ、そうか。神か……」

 まあ確かに今のアスタリアの元となる島を作ったのはフィリクスなのだが。子どものころ、何もなかった絶海の孤島に自分だけの秘密基地を作っていたのだ。大好きな花や果物を植えてたまに息抜きに行っていたのだが、ある日遭難した人間たちがいたのでそこに住まわせてやったのが始まりだ。最初は気になってあれこれ援助をしていたものの、次第に移り住む人間が増えたので最初に助けた人族に後を任せると、そのまま足が遠のいてしまった。気が付いたら国ができていたというわけだ。

「アスタリアには今でも私の植えたアイリスの花が咲いているだろうか。紺碧の海の色をした美しい花だ」

 フィリクスの言葉にアイリスは目を丸くする。

『ええ。くにじゅうにさいています。わたしのなまえもそのはなからとりました』

「そうか……」

 嬉しそうに微笑むフィリクスを見て、アイリスは震えた。

『かみさま……やはりあなたはわたしたちのかみなのですか!?』

「あ、え~と……そう言われるとなんだか申し訳ないのだが。島を作ったはいいが、ずいぶん放っておいてしまったしな」

『ああ!やはり!じひぶかいりゅうじんさま!あのでんせつはほんとうだったんですね!』

 泣きながら震えるアイリスを見てどうしようと途方に暮れるフィリクス。先ほどまでドラード国を滅亡させてやろうと思っていた気持ちがすっかり萎えてしまう。

「で?これは一体何の騒ぎだ?」

 サリーに連れてこられたダイアンは呆れたように声を上げた。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

猫じゃらし
2023.09.10 猫じゃらし

やられ放題のアイリス!笑 
竜王様、ずーっとずっと待ってたんだもんね……仕方ないね……笑
ミイナちゃんの奮闘、これから先の困難に応援が止まりません。
完結させてくださいね♡♡♡

しましまにゃんこ
2023.09.11 しましまにゃんこ

感想ありがとうございます!
まさにやられ放題(笑)なんか夢かなぁ、天国かなぁという感じでぼ〜っとしてる間に、竜王様が一人で盛り上がってる状態に。アイリスちゃん、大丈夫?
一方ミイナちゃんは孤軍奮闘してます。異国の地で周りは屈強で怪しい男だらけ!
二人の運命は!?
更新がんばりまーす(笑)

解除
蓮
2023.09.09

アイリスは可愛いし、ミイナは健気でもう2人共幸せになって欲しいと願わずにはいられません!
甘々の溺愛も楽しみにしてます!

しましまにゃんこ
2023.09.09 しましまにゃんこ

蓮さま感想をありがとうございます!
二人のヒロインがそれぞれ幸せになるまで頑張ります〜!

解除
夏乃
2023.09.02 夏乃

竜王様たちはなんかもう大丈夫!!という安心感があるので、にこにこ見守っています。
ミイナちゃんすごく応援してる……!!
ミイナちゃんがんばって、それで幸せになってほしい……!!!

しましまにゃんこ
2023.09.02 しましまにゃんこ

感想ありがとうございます!
竜王様に捕まっちゃうと、もう逃げられない!逃げようとすると大変なことになりそう……
そしてミイナちゃんの運命は!
ダブルヒロインなんだけど、一人捕まっちゃってるので主にミイナちゃんが一人で頑張ってます(笑)

解除

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。