22 / 33
その22 特別になれない
しおりを挟む
◇◇◇
ミイナが震えながら公開羞恥プレイに耐え、ようやく辿り着いた先は、ダイアンの執務室だった。
「客をもてなすにはいささか地味な場所ではあるが、ここなら余計な邪魔は入らないからな」
ニヤリと笑ったダイアンの悪そうな顔に、思わずゴクリと唾を飲むミイナ。いまさらだが、招待されたとはいえ、他国の王宮にのこのことなんの準備もなくついてくるのは無謀だっただろうか。ここからの対応は慎重にしなければいけない。緊張するミイナをよそに、ダイアンはそれぞれに椅子を勧めるとさっさと本題に入った。
「さてお嬢さん。まずは招待に応じてくれて感謝する。何も取って食おうって訳じゃないから気楽にしてくれ、ちょっと確認したいことがあるだけだ。ロイ、お前もな」
ミイナは当たり前のように隣に座ったロイをちらりと見た後、思い切って自分から切り出すことにした。
「私が竜人族である、というお話ですね」
希少種として保護すべき竜人族。いきなり王宮にまで連れてこられたのは、それ以外考えられない。ロイにそのことが伝わっているか、この件にどのくらい関わっているかは分からないが、ロイもこの国の関係者であることは間違いないだろう。そう思った通り、ロイはミイナの言葉に驚いた様子もなかった。
「話が早くて助かる。さて、君は紛れもなく竜人の血を引いているようだが、何か心当たりはあるか?」
今はダイアンの後に控えている二人にも聞かれたが、ミイナには心当たりなど何もない。
「何も。私の両親は人族として生きていましたし、私自身も人族だと思って今まで生きてきました」
一国の王女として生まれながら、無力で無価値な人間として生きてきた。いきなりお前は希少な竜人族だと言われても、首をひねるばかりだ。
「なるほど。両親から特に竜人族について聞いたことはないということだな?」
「ありません」
「そうか。となると、そうとう古い竜の血筋かもしれないな」
ふむっと頷くダイアン。竜の因子が遺伝子に受け継がれていても、眠ったまま一生を終えるものも少なくない。けれども、ある日突然竜人として能力が覚醒することもある。
竜人族か人族かを見分ける方法は、そのあふれ出る生命力でわかる。他者を凌駕する最強種としての圧倒的な生命力。畏怖さえ感じるほどに。その種としての強さを獣人や竜人は本能的に見分けることができるが、人族には難しいようだ。
ミイナにも人族ではありえない生命力の強さを感じる。けれども、純粋な竜人族であるダイアンと比べると確かに弱い。竜としての能力が低いと言うよりは、本格的に本能が覚醒する前の幼体、といった感じか。ダイアンは素早く判断を下す。
「君はこれから竜人としての本能に目覚めると思う。まるで人の皮を脱ぎ捨てるように。その際、必ず私たちのサポートが必要になってくるだろう。同胞を守るのは年長者の務めだ。そこで君をこの国で保護したいと思っている。どうかな?」
「保護……ですか」
後ろで控えている二人も、竜人族は見つけ次第手厚く保護をすると言っていたが、ミイナはその言葉の意味を図りかねていた。
(手厚く保護、というと聞こえはいいけど、逃がさないために監禁されたり拘束されたりするんじゃないのかしら)
「具体的にはこの国の永住権と特権を得ることができる。まぁ、他国で言う貴族みたいなものだな。竜の血を引く一族の中でも、竜人として生まれてくるものは少ない。君は私が知る限り最も若い竜人だ。ミイナ、私達は君を歓迎するよ。私達は家族みたいなものだと思ってくれて構わない。ちなみに二番目に若いのがそこにいるロイだな」
ダイアンの言葉に思わず目を見張るミイナ。
「そうか、私が竜人だと分かったから、親切にしてくれたんですね。なんだ、そうだったんだ……」
危うく勘違いするところだった。この人にとって、特別な存在かもしれないなんて。馬鹿だ。優しくされるとすぐに心を許してしまうのは、少しでも愛されたいと願う浅ましさのせい。誰からも愛されなかったから。
ちくりと感じる胸の痛みに、ミイナはギュッと胸を押さえた。
ミイナが震えながら公開羞恥プレイに耐え、ようやく辿り着いた先は、ダイアンの執務室だった。
「客をもてなすにはいささか地味な場所ではあるが、ここなら余計な邪魔は入らないからな」
ニヤリと笑ったダイアンの悪そうな顔に、思わずゴクリと唾を飲むミイナ。いまさらだが、招待されたとはいえ、他国の王宮にのこのことなんの準備もなくついてくるのは無謀だっただろうか。ここからの対応は慎重にしなければいけない。緊張するミイナをよそに、ダイアンはそれぞれに椅子を勧めるとさっさと本題に入った。
「さてお嬢さん。まずは招待に応じてくれて感謝する。何も取って食おうって訳じゃないから気楽にしてくれ、ちょっと確認したいことがあるだけだ。ロイ、お前もな」
ミイナは当たり前のように隣に座ったロイをちらりと見た後、思い切って自分から切り出すことにした。
「私が竜人族である、というお話ですね」
希少種として保護すべき竜人族。いきなり王宮にまで連れてこられたのは、それ以外考えられない。ロイにそのことが伝わっているか、この件にどのくらい関わっているかは分からないが、ロイもこの国の関係者であることは間違いないだろう。そう思った通り、ロイはミイナの言葉に驚いた様子もなかった。
「話が早くて助かる。さて、君は紛れもなく竜人の血を引いているようだが、何か心当たりはあるか?」
今はダイアンの後に控えている二人にも聞かれたが、ミイナには心当たりなど何もない。
「何も。私の両親は人族として生きていましたし、私自身も人族だと思って今まで生きてきました」
一国の王女として生まれながら、無力で無価値な人間として生きてきた。いきなりお前は希少な竜人族だと言われても、首をひねるばかりだ。
「なるほど。両親から特に竜人族について聞いたことはないということだな?」
「ありません」
「そうか。となると、そうとう古い竜の血筋かもしれないな」
ふむっと頷くダイアン。竜の因子が遺伝子に受け継がれていても、眠ったまま一生を終えるものも少なくない。けれども、ある日突然竜人として能力が覚醒することもある。
竜人族か人族かを見分ける方法は、そのあふれ出る生命力でわかる。他者を凌駕する最強種としての圧倒的な生命力。畏怖さえ感じるほどに。その種としての強さを獣人や竜人は本能的に見分けることができるが、人族には難しいようだ。
ミイナにも人族ではありえない生命力の強さを感じる。けれども、純粋な竜人族であるダイアンと比べると確かに弱い。竜としての能力が低いと言うよりは、本格的に本能が覚醒する前の幼体、といった感じか。ダイアンは素早く判断を下す。
「君はこれから竜人としての本能に目覚めると思う。まるで人の皮を脱ぎ捨てるように。その際、必ず私たちのサポートが必要になってくるだろう。同胞を守るのは年長者の務めだ。そこで君をこの国で保護したいと思っている。どうかな?」
「保護……ですか」
後ろで控えている二人も、竜人族は見つけ次第手厚く保護をすると言っていたが、ミイナはその言葉の意味を図りかねていた。
(手厚く保護、というと聞こえはいいけど、逃がさないために監禁されたり拘束されたりするんじゃないのかしら)
「具体的にはこの国の永住権と特権を得ることができる。まぁ、他国で言う貴族みたいなものだな。竜の血を引く一族の中でも、竜人として生まれてくるものは少ない。君は私が知る限り最も若い竜人だ。ミイナ、私達は君を歓迎するよ。私達は家族みたいなものだと思ってくれて構わない。ちなみに二番目に若いのがそこにいるロイだな」
ダイアンの言葉に思わず目を見張るミイナ。
「そうか、私が竜人だと分かったから、親切にしてくれたんですね。なんだ、そうだったんだ……」
危うく勘違いするところだった。この人にとって、特別な存在かもしれないなんて。馬鹿だ。優しくされるとすぐに心を許してしまうのは、少しでも愛されたいと願う浅ましさのせい。誰からも愛されなかったから。
ちくりと感じる胸の痛みに、ミイナはギュッと胸を押さえた。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる