海に捨てられた王女と恋をしたい竜王

しましまにゃんこ

文字の大きさ
上 下
12 / 33

その12 アスタリアへ

しおりを挟む
 ◇◇◇

 ミイナはアイリスの故郷であるアスタリアに向かうことにした。しかし、いくら泳ぎが達者とはいえ、海を泳いで渡ることなどできない。港に向かったミーアは、アスタリアに向かう商船を見つけると、長い髪をばっさり切り落とし、船員に近づいた。

 女一人が船に乗せてくれと言えば怪しまれる。けれども、ミイナの体は痩せっぽちで、髪の毛さえ短ければ12~13歳ぐらいの少年に見えるはずだ。

「なあ、俺を船に乗せてくれないか?」

「あん?なんで船に乗りたいんだ?」

「アスタリアに嫁いだ姉さんに会いに行きたいんだ。もうずっと会っていないから」

「ふうん、まあ、乗せてやらないこともないが」

「これ。少ないけど」

「へえ。真珠じゃないか。いいぜ。船長に紹介してやるよ」

 男は真珠を受け取ると、ミイナを船長のところに連れて行ってくれた。

「船長、この坊主がアスタリアに行きたいって言うんですが、ちょうど雑用係が欲しかったところなんで、使えませんかね?」

「あん?ずいぶんやせっぽっちだが使えるのか?」

「しっかり働くよな!坊主!」

「はい。よろしくお願いします」

「まあいいぜ。しっかりやんな」

「良かったな、坊主!」

 真珠を渡したにも関わらず、体よく雑用まで押し付けられる形になったが、一刻も早く船に乗りたかったミイナに迷う余地などない。

「坊主、こっちの荷物を下に運んどいてくれ。それが終わったら食堂でジャガイモの皮むきな」

「はいっ!」

 女だとばれない様に細心の注意を払いつつ、日々黙々と雑務をこなす。幸いこまねずみのようによく働くミイナを、船員たちは可愛がってくれた。

「ほら坊主、しっかり食べろよ。そんな細いと立派な男になれねえぞ。男はなんといっても筋肉だ。筋肉は裏切らないからな」

「いやいや、これからは学がないとな。学のない男は出世しないぜ?」

「そういうお前は学があるのかよ」

「あればこんなところにいるわけないだろ?」

「ちげえねえな」

 豪快に笑いあう男たちにミイナはあいまいな微笑みを返す。

(どうなるかと思ったけど、いい人たちで良かった)

、ちゃんと食べてるか?」

「あ、船長。はい。頂いています。船長もどうぞ!」

「ありがとよ」

 ミイナの顔を見つめる船長。

「お前を見てると懐かしい人を思い出すな」

「懐かしい人、ですか」

「ああ。もう会うこともないがな……お前みたいな綺麗な翡翠の瞳を持つ女性だった」

「なんだ~、船長の女ですか!?あっしらにも聞かせてくだせえよ」

「ば~か。そんなんじゃねえよ」

(瞳の色だけだけど……容姿を褒められたのは初めてだな……)

「あと一週間もすりゃアスタリアに着く。アスタリアにはいつまでいるつもりなんだ?俺たちは二週間ばかり積み下ろしして帰る予定だが、良ければ帰りも俺たちの船に乗るか?」

「いいんですか!?助かります」

「ああ。お前はよく働いてくれるから助かるよ」

「へへ……」

(もうすぐアスタリアに着く。待っててください、ラナード兄様。必ず手がかりをつかんで見せます)

 ◇◇◇

 甲板で一人酒を煽る船長の手には、ロケットが握り締められていた。小さな絵姿には幸せそうに微笑む翡翠色の瞳を持つ少女が描かれている。

「ジェニファー。運命ってのはどこまでも残酷なんだな」

 船長は赤い髪をそっとかき上げた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...