上 下
8 / 33

その8 ドラード国の宝

しおりを挟む
 ◇◇◇
「くそっ!なんで俺がこんな目に!」

 ラナードは部屋に置かれた年代物の椅子を、入り口の格子にたたきつけた。だが、頑丈な格子はびくともしない。

「おい!誰かいないのかっ!この俺が呼んでるんだぞ!」

 西の塔は王族の中でも特に重い罪を犯した者が入る場所。生きてここを出たものはいないという。当然、罪人となったラナードを甲斐甲斐しく世話するメイドなどいない。ラナードは力なく頭を垂れた。

 こんなはずではなかった。王子の中でも飛び抜けて美しい容姿を持つラナードを、父王は特に目を掛け可愛がっていた。このまま順当にいけば、いずれ王位に手が届くに違いなかった。なぜ使節団に入るなどと言ってしまったのだろう。

「くそっ、くそっ!」

 手に血が滲むほど床を打ち付けても、ラナードの怒りは収まらなかった。ラナードが絶望しかけたそのとき、格子の嵌った灯り取り用の小さな窓の近くで、コツコツと小石をぶつけるような音が聞こえた。

「……誰だ。誰かそこにいるのか」

「ラナード兄様、聞こえますか……私です。ミイナです」

「ミイナかっ!お前、俺を助けにきたんだな!そうだな!」

「はい。必ず私がお助けします」

「そうか!ミイナ、よく来てくれた。お前だけは俺を裏切らないと思っていたぞ。鍵を持ってきたのか!?」

 ラナードは思わず声を弾ませた。ミイナはドナード国の数多いる王女の一人だが、赤褐色のうねるような髪に、ソバカスだらけの冴えない容姿の娘だったため、王の目に止まらなかった。

 ドナード王から忘れられた彼女はメイドたちにも侮られ、王女と呼ぶには気の毒なほどいつもみすぼらしい恰好をしていた。ラナードは腹を空かせた彼女に、気まぐれに菓子を与えたり、食事を与えたりしていたのだ。

「ラナード兄様、待っていてください。私が必ずお助けしますから。今からアスタリアに行って、花嫁が身に着けていた国宝の宝石を見つけてきます。そうすればきっと、父上も兄様を許して下さるはずです」

「なんだと」

「父上が勅令を出しました。アイリス王女に贈った国宝のブルーダイヤの首飾りを持ち帰ったものは、どんな願いも叶えると。二つとない貴重な宝物だそうです。私がそれを必ず見つけ出してきます」

「馬鹿な。どうやって広い海からたった一つの首飾りを探すんだ。何年掛かっても見つかりっこない」

「私は漂着物が多く集まる海岸を知っています。潮の流れから見て、アイリス王女の亡骸もそこに辿り着く可能性が高いでしょう。まずはそこを中心に探してみるつもりです」

「そ、そんなことより、ここの鍵はないのか……」

「残念ながら、今兄様を助け出したとしても、すぐに捕まってしまうでしょう。どうか、今少しお待ちください」

「わ、分かった」

「兄様……貴方が私にしてくださったこと、忘れません。必ずお返しします」

「ああ、信じてるぞ」

「では……」

 そう言い残すと、ミイナ王女は夜の闇に紛れて消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

出戻り公爵令嬢の閨指導

綾瀬 りょう
恋愛
 公爵令嬢のキャロルは初恋の心をおさえて十五で大国に嫁ぐこととなる。初恋であり幼馴染の王子オズワルドへの恋心は隠したまま。 数年後大国の王であった旦那様が亡くなり、子も居なかったキャロルは母国に戻ってくることになる。 そこには成人をしてもまだ婚約者の一人もいない初恋の王子がいた。恋心に蓋をしていたはずなのに国の掟「閨指導は同性が行う」という行事でキャロルの双子の弟のマシューが指名されてしまう。 幼馴染だからこそ閨指導なんてしたくない!!と逃げるマシューの代わりにキャロルはオズワルドに抱かれそうになり……!?!? 両片思いのラブストーリー予定です。 ※ がタイトルに入っている時はRシーンがあります。 初めてのTL作品です。書きながら直していくところもあるかもしれません。その時は活動報告でお知らせいたします。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

彼女が女王と言われるまでの話

音爽(ネソウ)
恋愛
恋に恋する乙女の王女メリントン・ファイブスターは夢見がちだ。 「私は真に心から愛する方じゃないと結婚しません!例え陛下が立腹されようとね」 しかも彼女は望まぬ婚姻をさせるなら修道院に入ると脅す、これにはファイブスター王も頭を抱えた。現王の一粒種である王女を女王にしようと画策していた、王配は隣国の第三王子をと考えていたのだ。 悩んだ王は半年間のうちに心を許す殿方を射止め期間内に現れなかったらアングラードの王子と婚約させると約束させた。 張り切る王女は早速と王都学園に編入する、そこでポルドワン・ランブール伯爵令息と出会う。これは運命だと彼女は思った……のだが

竜人王の伴侶

朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語 国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます 作者独自の世界観ですのでご都合主義です 過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください) 40話前後で完結予定です 拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください 4/4にて完結しました ご覧いただきありがとうございました

処理中です...