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46 ロイスの決断 ソフィアの決意

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 ◇◇◇

「こんな場所!全て燃やしてしまえばいいっ!こんなものがあるから汚いことに利用しようとするやつが出るんだろう?だったらいっそ、何もかも燃やせばいいんだっ」

 ロイスが吐き捨てるように言った。

「ロイス殿。それが、君の答えかい?」

 父の静かな問いかけにロイスはキッとまなじりを吊り上げる。

「それ以外に何があるっていうんだ。代々伯爵家として王家に尽くしてきたシリウス一族だって、心の底ではこれ以上誇りを捨てて王家に隷属するなんてまっぴらだと思ってたんじゃないのか?全てを消し去ることでその願いが叶えられるなら本望だろう」

「それはどうかな……」

 ジークがぽつりと呟く。

「本当に、彼らはそれを望んでいただろうか……」

 ジークの言葉をロイスは鼻で笑った。

「ああ、あんたはいいよな。正当なラピス王家の後継者だ。虐げられたものの気持ちなんかこれっぽっちもわからないんだろう」

「ロイスっ!」

 思わずロイスを制止する声に力が入る。

「ジークは誰よりも間近で虐げられてきた人たちと接していたの。ずっと苦労知らずの王子様だったわけじゃない。わからないはずないでしょう」

 私の言葉にロイスはぐっと言葉を飲み込んだ。

「……言葉が過ぎました。申し訳ありませんでした」

 ポツリと謝罪の言葉を述べる。二人の関係は実に複雑だ。

「いや、いいんだ。一族の者でもない私が口出しできる問題でもなかった」

 ジークもロイスの謝罪を静かに受け入れた。

「ソフィアはどう思う?」

 ロイスと同じように、静かな父の問いかけに私は花園を見渡す。

 それは、夢のように美しい光景。どれだけの年月がこの姿を作り出したのだろうか。どれほどの旅人が、どれほどの研究者が、この花園を護り育ててきたのだろうか。父が「宝探し」だと言った言葉がしっくりくる。間違いなくここは、人類の宝箱だ。

「駄目よ。ここは、受け継いで、残しておくべき場所よ」

「ソフィア!?」

 ロイスが驚きに目を見開く。私の選択が意外だったようだ。

 父とジークが静かに先を促す。

「ここが、この場所こそが。シリウス一族が何を犠牲にしてでも本当に護りたかったものなんじゃないの?こんなの、一度失われてしまったら二度と戻らない。だからこそ、国を失い、身分を失って、敵にいいように利用されようとも。シリウス一族はその知識とともに、この花園を護り続けたんじゃないの?むしろ、シリウス一族を存続させるためにラピス王家を利用したとも考えられるわね」

「何のために……」

「民のために。そして、訪れる未来のためによ」

「民と……未来……」

「毒と薬は表裏一体だっていったでしょう。植物には様々な可能性があるの。そのすべての謎を一人の人間の短い生涯の間に解き明かすことなんてできない。だからこそ、代々大切に護り続けたのよ。新たな可能性を信じて。ここは、シリウス一族の英知を集めた場所。受け継がれてきた夢よ!焼くなんてとんでもない!私は護るわ。そして、生きている限り、ひとつでも多くの謎を解き明かして見せる!」

「ソフィア……」

 鼻息荒く言い切った私をロイスは呆然と見つめる。

「今度この宝を燃やそうなんて言ったらあんたをす巻きにして海に放り込むわよ」

「はっ!?」

 ロイスとのやり取りを面白そうに見守っていた父がふいに笑い出した。

「ふっ、ふふ、君ならそういうと思ってたよ。そんなところまで本当に、ジェニファーにそっくりだね」

「お母様に?」

「ああ、同じことを言われたよ。この花園や各地の薬草園なんてつぶしてしまえばいいって言った僕に、右ストレートをお見舞いされたっけ。『お前は馬鹿か?王家やシリウス伯爵家などどうでもいいが、この場所は人類の宝だ。護るべきものもわからないのか』ってね」


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