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44 ソフィアの出生の秘密
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◇◇◇
「ガライアス殿はね、シリウス伯爵家を利用して自分の野望を遂げようとしたんだ。いや、復讐といえるものかもしれないね。シリウス伯爵家の所有する門外不出の毒薬コレクションは、彼にはずいぶん魅力的に見えただろう。そして、自分のために使うことに一切の躊躇をしなかった」
「そのために、母上を利用したんだな……自分の子飼いの親父とくっつけてシリウス伯爵夫人として送り込んで。くそっ!やっぱりくそ野郎じゃねえか」
「どんな理由があったとしても、他人を犠牲にしていい理由にはならない。叔父の余罪は挙げるときりがないからな。貴族だけじゃない。毒薬の実験のために、多くのものが犠牲になったんだ。……シリウス伯爵が、前シリウス伯爵夫妻を事故に見せかけて殺害するよう指示したのも叔父だったと白状したよ。彼は直接手を下したわけではないが、使用人に金を握らせて馬車に細工をさせたらしい」
ジークが静かに告げる。
「親父が……くそっどいつもこいつも……」
ロイスの姿を複雑な気持ちで眺める。シリウス伯爵家に対するラピス王家の仕打ちは確かにひどい。ラピス王家とシリウス伯爵家の血を引くガライアスが自分の境遇を呪うのも分かる。でも、だからといってジークの母君を暗殺し、ジークも亡き者にしたうえで王座に就こうとした男を擁護する気にはなれなかった。
もうひとつ、私にはどうしても気になることがあった。
「ねえ、お父様、お母様はシリウス伯爵家の人間だったのね」
「うん。僕とは中立国であるダイナー王立学園で出会った。見た目は妖精のように儚く可憐で美しいのに、すごく男前でね。ソフィア、君はジェニファーにそっくりだ。とても、魅力的な人だったよ」
「そう、だったんだ……」
ずっとただの商家の娘だと思っていた。自分が貴族の血を引くなんて考えてもみなかった。しかも、よりにもよってそれがシリウス伯爵家だなんて。母の姿すら知らずに育った私としては、とても信じられないし実感もない。ジークはどこまで知ってたんだろう。ちらりとジークのほうを見ると心配そうにこちらを見つめているジークと目があった。
「ソフィア……」
「し、知らなかったな。私がそんな複雑な家の出身だったなんてね。お母様も苦労したのね。でもまあお父様はもともと平民なわけだし。今は単なる男爵家の娘!私は私。変わらないわ。そうでしょう?」
「あ~、まあ……」
「このさい、ソフィアには全て話しておいてはどうですか?」
ジークが真剣な顔で父に向き合う。
「やっぱりジークハルト殿下は気づいてたよね」
父が諦めたようにため息を吐くと、ジークは静かに言葉を続けた。
「ガイル・アリラン殿下。アリラン王国の王位継承権を持つ王弟殿下、ですよね」
「まあね」
ジークと父の言葉に目を丸くする。
「「は?」」
思わずロイスと声が被った。
「お父様がアリラン王国の王弟?うそでしょ!」
「アリラン王国……あのアリラン王国か」
「まあ、この国をはじめとしていい噂は聞かないよね」
「なんで、そんな人が平民になってるのよ……」
「ん?ふふ、君のお母さんと駆け落ちしたからだよ。愛の逃避行さ!」
あまりにもあっけらかんという父の言葉に頭を抱えたのだった。
「ガライアス殿はね、シリウス伯爵家を利用して自分の野望を遂げようとしたんだ。いや、復讐といえるものかもしれないね。シリウス伯爵家の所有する門外不出の毒薬コレクションは、彼にはずいぶん魅力的に見えただろう。そして、自分のために使うことに一切の躊躇をしなかった」
「そのために、母上を利用したんだな……自分の子飼いの親父とくっつけてシリウス伯爵夫人として送り込んで。くそっ!やっぱりくそ野郎じゃねえか」
「どんな理由があったとしても、他人を犠牲にしていい理由にはならない。叔父の余罪は挙げるときりがないからな。貴族だけじゃない。毒薬の実験のために、多くのものが犠牲になったんだ。……シリウス伯爵が、前シリウス伯爵夫妻を事故に見せかけて殺害するよう指示したのも叔父だったと白状したよ。彼は直接手を下したわけではないが、使用人に金を握らせて馬車に細工をさせたらしい」
ジークが静かに告げる。
「親父が……くそっどいつもこいつも……」
ロイスの姿を複雑な気持ちで眺める。シリウス伯爵家に対するラピス王家の仕打ちは確かにひどい。ラピス王家とシリウス伯爵家の血を引くガライアスが自分の境遇を呪うのも分かる。でも、だからといってジークの母君を暗殺し、ジークも亡き者にしたうえで王座に就こうとした男を擁護する気にはなれなかった。
もうひとつ、私にはどうしても気になることがあった。
「ねえ、お父様、お母様はシリウス伯爵家の人間だったのね」
「うん。僕とは中立国であるダイナー王立学園で出会った。見た目は妖精のように儚く可憐で美しいのに、すごく男前でね。ソフィア、君はジェニファーにそっくりだ。とても、魅力的な人だったよ」
「そう、だったんだ……」
ずっとただの商家の娘だと思っていた。自分が貴族の血を引くなんて考えてもみなかった。しかも、よりにもよってそれがシリウス伯爵家だなんて。母の姿すら知らずに育った私としては、とても信じられないし実感もない。ジークはどこまで知ってたんだろう。ちらりとジークのほうを見ると心配そうにこちらを見つめているジークと目があった。
「ソフィア……」
「し、知らなかったな。私がそんな複雑な家の出身だったなんてね。お母様も苦労したのね。でもまあお父様はもともと平民なわけだし。今は単なる男爵家の娘!私は私。変わらないわ。そうでしょう?」
「あ~、まあ……」
「このさい、ソフィアには全て話しておいてはどうですか?」
ジークが真剣な顔で父に向き合う。
「やっぱりジークハルト殿下は気づいてたよね」
父が諦めたようにため息を吐くと、ジークは静かに言葉を続けた。
「ガイル・アリラン殿下。アリラン王国の王位継承権を持つ王弟殿下、ですよね」
「まあね」
ジークと父の言葉に目を丸くする。
「「は?」」
思わずロイスと声が被った。
「お父様がアリラン王国の王弟?うそでしょ!」
「アリラン王国……あのアリラン王国か」
「まあ、この国をはじめとしていい噂は聞かないよね」
「なんで、そんな人が平民になってるのよ……」
「ん?ふふ、君のお母さんと駆け落ちしたからだよ。愛の逃避行さ!」
あまりにもあっけらかんという父の言葉に頭を抱えたのだった。
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