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24 ソフィアのスパイ大作戦
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暗闇を壁伝いにそろそろと歩いていると、少し離れた部屋の中から男たちの下卑た笑い声が聞こえてきた。どうやら先程の男たちが一つの部屋に集まって酒盛りを始めているようだ。
「なぁお頭、いいだろう?ちょっとぐらい味見したって」
「駄目だ。お前はいつもやりすぎるからな。盛ってんなら下のガキどもでも可愛がってこい」
「けっ!あんな貧相なガキ共相手に盛れんのはコイツぐらいでさ」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は生意気なガキには躾をしてやってるだけだ」
「よく言うぜ」
ガハハハハと大声で笑う声の中に先程剣を突き付けた男はいないようだ。
(まだ屋敷内にいるとしたらどこかな……)
取りあえずあいつらが一室にまとまっているのは有り難い。こうした貴族の屋敷では、外からは鍵を掛けることができるが内側からは掛けることが出来ない仕組みになっているドアが多い。
案の定この部屋もそうだ。それなら……
素早くヘアピンを外すと鍵穴に差し込み鍵を掛ける。この間わずか3秒。まぁ、斧かなんかで無理やりドアを破壊すれば出てこられるかもしれないが、無駄に丈夫なドアだ。壊すのも骨が折れるだろう。
こいつらへのお仕置きは後回しだ。まずは危険人物の場所を特定しておかなきゃね。
(偉そうな奴がいそうなのは一番豪華な主寝室とかかなぁ)
屋敷内はかなり広い。それなりに地位のある貴族の屋敷だったのだろう。主寝室らしき場所にたどり着くとそっと耳を押し当てる。
「私たちこれから……」
「それでは約束が違う!」
なにやら数人が話している声が聞こえる。あの男たちの他にも何人か協力者がいたようだ。
(女もいるみたいね……)
先程からキーキーと耳障りな声が聞こえてくる。
主寝室の鍵は内側から施錠できるものが多い。となると先程の手は使えない。
(あまり使いたく無いんだけどなぁ)
背に腹は代えられない。そっとドアを開けると素早く蓋を開けた小瓶を投げ入れる。一秒、二秒、三秒……
ドアの前でカウントすると室内が静まり返った。ほんの数秒で眠りに落ちる眠り薬だ。当分目覚めないだろう。
しかし、今の部屋にあの男がいたとは限らない。手持ちの眠り薬はあれ一本。できれば取っておきたかったけど、数人に追われると厄介だ。
(そう言えば下に子どもがいるようなこと言ってたわね……)
同じ様に攫われた子ども達がいるのかもしれない。あまり動き回るのは危険だが、場所ぐらいは特定できるかも。
使用人用の階段から今度は下の階に降りる。
大抵屋敷の地下にはワインセラーや食料庫があるはずだが。
階段を下りて息をのんだ。そこにあるのはまぎれもない地下牢で、5人の幼い子ども達が鎖で繋がれていたのだ。
「嘘でしょう……」
一体いつからここに閉じ込められているのか。酷く殴られた痕のある子どもや、荒い息を吐く子ども。中には身体を横たえたまま動かない子どもまでいる。
「だ、誰っ」
私の気配に怯えて身を縮める子ども達。5才から10才ぐらいだろうか。こんな小さな子どもに乱暴するなんて許せない!
「しっ、大丈夫。私も悪い人たちに捕まって逃げてきたの」
「お姉ちゃん、すぐ逃げて。ここにきちゃだめ。怖い人たちがくるの。またすぐに捕まっちゃうよ」
「大丈夫。怖い人達はみんな寝てるよ。お姉ちゃんと一緒に逃げよう」
「で、でも……」
幸い牢の鍵はすぐに見つかった。カギを開けると子ども達が恐る恐る出てきた。
「怖い……またすぐ捕まっちゃうよ。もう殴られたくないよ」
「怖かったね。まだ油断はできないけど、みんな歩ける?」
コクリと頷く子ども達。一人意識のない子をそっと抱き上げる。大丈夫。まだちゃんと息はある。でも、かなり弱ってるからすぐにお医者さんに見せないと。
素早く手枷を外してやるとこすれて真っ赤になっていた。可哀想に。
「えっ!外せるの!?どうやって?僕達何度も外そうとしてダメだったのに……」
「皆外してあげるからこっちにおいで」
全員の手枷を外すと子ども達を連れて階段を上る。うまくいけば子ども達だけでも裏口から逃げられるだろう。せめて普通の部屋の中に入れて外側から鍵を掛けて守ってあげよう。
「んん~?なんだ貴様……おいっ!ガキ共!どうやっ……」
階段を上がったところで酔っ払った男と遭遇したので素早く吹き矢で眠り針を撃ち込む。いきなり倒れた大男を呆然とみつめる子ども達。
「お、お姉ちゃん、一体何者……」
「ふふ、アルサイダー商会のソフィアよ。よろしくね?ちなみにこれ、アルサイダー商会の熊狩り用吹き矢。今度売り出す新商品なの」
「「「絶対欲しい~~~!!!」」」
新商品も人気でそう。でも、本当は人に使っちゃ駄目なんだからね?
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