上 下
20 / 50

20 悪役令嬢はご機嫌ななめ

しおりを挟む
 
 ◇◇◇

「待ってましたわ。あなたこの非常事態に一体何をなさってたの!?」

 屋敷に入ったとたん、玄関ホールで仁王立ちしていた令嬢に凄まじい剣幕で詰め寄られギョッとする。

「はっ、えっ?……はぇ?」

「お陰でずいぶん時間を無駄にしてしまいましたわっ!もう一刻の猶予もありません。今すぐ王宮に乗り込みますわよっ!」

「は、はいい???ま、待って。し、失礼ですがどちら様でしょうか……」

「私を知らないですって!?これだから平民上がりは嫌なのよっ!いえ、今は私のことなんてどうだっていいわ。近衛騎士たちに捕まったロイス様を助けにいくのよっ!あなたも一緒にきてもらうわよっ!」

(んんっ!?ロイス?そう言えばさっきロイスと一緒にいた……キャロルちゃん、だっけ……?)

 学園で見かける度に違う令嬢を連れているロイスのこと。相手の顔なんていちいち覚えてもいないが、目の前のご令嬢にはなにやら見覚えがある。

 よく見ると、甘いピンクブロンドに透き通るような空色の瞳を持つ、なんとも儚げな風貌の美少女だ。

 くっ!ロイスの奴めっ!こんな儚げな美少女にまで手を出すとはっ!羨ま……けしからんっ!!


 内心ロイスを罵倒しつつ、なぜキャロルちゃんが家の玄関前で仁王立ちしてるのかは謎。さっきからバルトがハラハラした様子で見守っているし。一体いつから待ってたんだろう。

「えーと、お待たせして申し訳ありません?」

「ついてらっしゃいっ!」

 鼻息も荒く手を取られるとあれよあれよという間に待機していた馬車に乗せられる。立派な二頭立ての馬車に付けられた家紋を見て思わず息をのんだ。

「ソード侯爵家……」

「あら?さすがに気がついたようね?」

 フフンと鼻を鳴らすキャロルちゃんを見て納得する。貴族なら知らないはずなどない。だって

(宰相閣下のご令嬢。未来の、王太子妃様だ……)

 ◇◇◇

「はぁ、ロイス様、今頃騎士たちにひどい目にあわされてないかしら。だいたいなんで近衛騎士が学園にまで出張ってきますのっ!貴重な学園生活が台無しですわっ」

 先程からイライラを隠そうともしないキャロルちゃんに

「はあ、そうですね」

「心配ですね」

 と気のない返事をしていたらついに怒られた。

「大体!あなたは仮にもロイス様の婚約者でしょう!何をそんなに落ち着いてますの!?ロイス様のことが心配ではないの!?」

「あ、いやぁ、心配ではあるんですが、多分ロイスが原因で連れていかれたわけじゃ無さそうなので……そんなにひどい目にはあってないんじゃないかなと」

「なぜそんなことがわかるのよっ!」

 キッと睨み付けられて言葉に詰まる。ラファのことは秘密だ。

「とある情報筋と申しましょうか……」

 私を睨み付けていたキャロルちゃんは、途端にポロポロと泣き出してしまった。

「本当……?本当に、ロイス様は大丈夫だと思う……?」

 わっと泣き出したキャロルちゃんの背中をさすりながら思う。

(うーん、これって、もしかして浮気にあたるのかな?王太子妃候補だったよねぇ?)

 何やらヤバそうな匂いがする。余り関わらないほうがいいのでは……と思ったそのとき、

「ロイス様だけが、私に話し掛けて下さったの……」

 キャロルちゃんがポツリポツリと話し出した。

 王太子妃候補として選ばれたものの、一度も王太子殿下に謁見を許されたことがないこと。

 そのせいで他の貴族から遠巻きに見られていたこと。

 威厳を保つためにとびきり傲慢な態度をとっていたらますます孤立してしまったこと。

(王太子殿下のお噂はあまり聞かないのよね。確か飛び級で学園を卒業した天才だけど、人嫌いで離宮に閉じこもりがちとか……)

「息の詰まるような学園生活でロイス様だけが、他の令嬢と変わらない態度で私に接して下さったの。嬉しかったわ」

 単に可愛かったから声をかけただけなんじゃ……と思いつつ、黙って聞くことにする。

「でも、もし、私のせいでロイス様が捕まったんだとしたら……王族への不敬罪で処分とか、されたら……」

 再び涙がポロポロとあふれてくる。

「お願い。ロイス様の婚約者のあなたからも、ロイス様の減刑を求めてほしいのっ!」

「あー、いえ、うーん……」

 あれ、もしかしてもし本当にそうならヤバくない?ロイス、王太子殿下に手打ちにされちゃうんじゃないの?

「……ちなみにロイスとはどの程度のご関係ですか?」

「ど、どの程度って!」

 途端に顔を赤らめソワソワと視線を彷徨わせるキャロルちゃん。何これ可愛い。

「お、お昼に庭園をお散歩したり、ランチをご一緒したり、図書館でおすすめの本を選んでもらったり……」

 うん。大丈夫。それなら手打ちにされることはないだろう。

「こ、この間、く、口付けを……」

 きゃっと手で顔を覆うキャロルちゃんをみてすんっと表情が落ちる。いや、分からない。もしかしたら死ぬかもしれない。私は頭を抱えたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。 そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。 シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。 「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」 「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」 これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

処理中です...