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7 願いの実現

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 ◇◇◇

 元は立派だったであろう多少くたびれた馬車から降りてきたのは、どこか退廃的な雰囲気を感じさせる少年だった。父が美少年と言うだけあって、確かに顔立ち自体は悪くない。しかし、それ以上に暗い目をしていることが気になった。

「ようこそロイス殿。わざわざ御足労いただいて申し訳ない。娘のソフィアです」

「初めまして。ソフィア・アルサイダーです」

「……ロイス・シリウスだ」

「今日は天気がいいので庭に席を用意させました。娘に案内させましょう。後は若い人同士お二人で会話をお楽しみください」

 まさか面倒なバカ息子の相手を私ひとりに押し付ける気!?キッと父を睨みつけるが涼しい顔でスルーされる。後で覚えておきなさいよ!

「こちらへどうぞ……」

 仕方なく渋々庭に案内する。はぁ、早く帰ってくれないかしら。


 ◇◇◇

 二人で庭に用意されたテーブルセットに腰掛けたものの、特に話すこともないので黙々とお茶を飲み続ける。顔合わせは済んだのだからとっとと帰ればいいのに。

 そんなことを考えながらチラリと視線を向けると、無遠慮にまじまじと見られていてイライラしてきた。

「……なにか?」

「夕べは随分お楽しみだったようだな?見えてるぜ?」

 ニヤリと笑いながら自分の首筋をトントンと叩いてみせる仕草にハッとする。

「男だろ?清純そうな顔して女はわかんねーな。まぁ、ロクデナシとアバズレじゃあお似合いか。シリウス伯爵家は二代続いてアバズレの伯爵夫人を娶るわけだ。笑える。それと、さっきからあんたすげー酒臭いぜ?早く帰れって雰囲気も伝わってるしな。こっちもこれ以上酒臭い女といてもつまらねーから帰るわ」

 ガタンと席を立つと本当に帰ろうとする。

「ま、ままま、待って!」

「あん?」

「く、く、首、何かついて……」

「夢中で気付かなかったのか?あんたの男は随分嫉妬深いみたいだな?すげーはっきり所有印つけられてるぜ?」

(ま、まさかジーク!?)
 思わずその場で真っ赤になってしゃがみ込む私を、ロイスは面白そうにのぞき込んでくる。

「ふーん?」

「な、な、なによっ!」

「別に。じゃあな」

「ちょっ!ちょっと待って!」

「まだ何か用?俺も忙しいんだけど?」

「……婚約、断らないの?」

「はぁ?断れる訳ねーだろ?王命だぞ?」

「で、でも!」

「ああ、安心しろよ。別に誰にも言わねーよ」

「……あんたはそれでいいの?」

「いいって?」

「私の身持ちの悪さを王に訴えれば、結婚はなかったことになるかもしれないじゃない。他にもお金を持ってる良家のご令嬢はいくらでもいるでしょう?」

「女を貶める趣味はねーよ。それに、そんな単純な問題でも無さそうだしな……」

「えっ?」

「取りあえず俺から婚約破棄はしない。お前の相手も詮索しない」

「……」

「またな」

 そういい残すと今度は本当に帰ってしまう。思わず茫然と見送ったがそれどころではない。

 私は淑女にあるまじきスピードで階段を駆け上りながら部屋に入ると、姿見の前に立った。

 髪を少し払うと見えるか見えないかの位置。首の横にハッキリと残る赤い印。

「じ、ジークの!バカーーーーー!!!」

思わず大声で叫んだ私は悪くないと思う。


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