上 下
23 / 27

23.魔女のお仕事~悪役令嬢に惚れ薬を依頼されたけど王子の心変わりは私の魅了のせいです~

しおりを挟む
 
 ◇◇◇

 小さな魔女アルテミスは、悪魔の森のさらに奥深く、混沌の森に一人で住んでいる。

 魔女を育ててくれたお師匠さんはすでに亡く、たった一人の弟子だったアルテミスが、魔女の全てを受け継いだ。その、叡智も、深淵も、業も、呪いも、何もかも。

 魔女は待っていた。自分の力を必要とするものが訪れるのを。
 ただ、混沌の森はあまりにも深く、たどり着けるものはいやしない。

 魔女は毎日退屈だった。

「あーあ、せっかくの力も使わなきゃ宝の持ち腐れ。魔力が余ってしょうがないわ。ドーンと一発ぶちかましてこの国を破壊してやろうかしら?」

 魔女は結構危険な性格をしていた。師匠が育て方を間違ったに違いない。なにしろ師匠の通り名は「災厄の魔女」だったしね。

 ドンドンドン!

 玄関を破壊しそうな勢いで叩くものがいた。魔女は目を見張る。さっきまで、のに。

 この森に、魔女に気付かれずに侵入してくるとは、ただものではない。

「あら?とても、面白そうなお客様ね。退屈してたからちょうどいいわ?」

 魔女はニヤリと笑うと、玄関を開けた。

「それ以上玄関を叩いたら殺すわよ?」

 目の前には、ゴージャスな金髪にサファイアのような目を持つ気の強そうな少女が立っていた。


 ◇◇◇

「で、エカテリーナ、あんたの望みを話して頂戴」

「災厄の魔女にお願いがあるわ。ある人を私に夢中にさせてほしいの」

「ふうん?惚れ薬でも作ってほしいのかしら?」

「惚れ薬でもなんでもいいわ。一生解けない愛の呪縛をかけたいのよ!」

「あら、こわい。人の気持ちをクスリの力で操ろうなんて。女として自信がないっていってるも同然ね。恥ずかしく無いのかしら」

「自信なんて、そんなもの最初からないわ」

「あらどうして?あなたはこんなに美しいのに……」

 ―――魔女の目が怪しく光る

「やめてちょうだい!私に魅了の力は効かないわ」

「あらほんと。結構強力なやつなのに。自信なくしちゃうわ」

「私は生まれつきすべての魔法を無効化することができる体質なの。そんなもの効かないわ」

「へぇ……面白い能力ね。それで、誰を操りたいの?」

「話す必要があるのかしら?」

「話したくないなら別にいいわよ。興味が沸かないだけ。うっかり毒薬を作っちゃっても悪く思わないでね」

「さすが、魔女ね」

「ほめ言葉だと受け取っておくわ」

「この国の第一王子よ」

「あらあら、物騒なお話だこと。国家転覆でも狙ってるのかしら」

「もともと、私の婚約者なのよ。でも、殿下はある日を境にある女に奪われたの」

「あらあら」

「その女が殿下に何をしたのか分からない。でも、殿下はすっかり変わってしまったわ……」

「それで?心変わりした殿下をクスリの力で取り戻そうと言うのね?」

「そうよ……」

「ひとつ聞いておくわ。クスリの力で愛されて、あなた、幸せ?それって愛って言える?もっと惨めにならない?」

「構わないわ。クスリの力でもなんでもいいわ。なんなら義務でも同情でも憐れみでも構わない。殿下が私のそばにいてくれるなら、なんだっていいのよ」

 令嬢としてのプライドなどかなぐり捨て、吐き捨てるように言ったエカテリーナの言葉には少しの嘘も感じられない。

「愛ね。愛だわっ!愛なのねっ!」

 魔女は高らかに笑い出す。子どもみたいに。

「いきなさい、エカテリーナ、王子はあなたのものよ!」

「え、でも、まだ何も貰っていないわ……」

「ふふ、ふふふ、わたくしを誰だと思っているの?わたくしは災厄の魔女。古の魔力を継承するもの。エカテリーナ、あなたを気に入ったわ。だから味方になってあげる。すべてはあなたの思いのままよ」


 ◇◇◇

「どういうことよ?」

「あらエミリア、久しぶりね?」

「あんたの仕業でしょう?王子に掛けた魅了を解いたわね?」

「あらあら、なんのことかしら」

「とぼけても無駄よっ!せっかく上手くいってたのに、何もかも台無しよ!」

「あらあら」

「王子はエカテリーナとの結婚を決めたわ!もう、覆せない。後一歩だったのにっ!」

「ねーえ、エミリア、あなたはなぜ王子の心が欲しかったの?」

「そんなの決まってる!私がこの世界のヒロインだからよ!この世界の全ては私のために作られたの!だから、私に夢中にならないキャラなんておかしいのよ!間違いを修正してやっただけよ!」

「あなたのそのイカレた考えも、嫌いじゃないわ」

「じゃあなんで私の邪魔したのよ!」

「だってしょうがないじゃない。昔から、魔女の呪いは真実の愛でのみ解けるって約束だもの」

「エカテリーナに真実の愛があったっていいたいの?」

「そうよ。エカテリーナの愛は本物だわ。私がそれを認めてしまった。魔法はあっと言う間に解けてしまったわ」

「何が災厄の魔女よっ!この役立たず!はやく元に戻しなさいよ!」

「あらあら、元に戻りたいの?」

「そうよっ!こうなったらこのゲーム、リセットして最初からやり直すんだから!」

「はぁ、最初は面白いって思ってたけど、あなたの相手をするの、もう飽きちゃったわ」

 魔女は魔法の杖をくるくると回す。

「男漁りが大好きなあなたには、この姿がお似合いよ」

 気がつくとエミリアの姿は消え、魔女の足元で小さな黒猫が鳴いていた。

「気まぐれな子猫ちゃん、雄猫たちを好きなだけ魅了すればいいわ。気に入ったお婿さんがいたら何匹でも連れてらっしゃい。」

 子猫は小さく鳴くと部屋の隅で丸くなった。

「あらあら、本能に忠実なのね。あなたらしいわ」

 そう言ってクスクスと笑う。

「さてと。真実の愛で偽りの魔法は解けたけれど、エカテリーナはを得られるかしら。そして、それが王子の心からのものだと、信じることができるかしら?」

 魔女はクスクスと笑う。

「しばらく退屈しないで済みそうね?」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

処理中です...