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12.魔王様の憂鬱~勇者に魔王城を壊滅状態にされたので仕返しに養ってもらうにゃん!~
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「くっ!危なかったにゃん!危うく消滅するところだったにゃん!」
かつて大陸中を震え上がらせた魔王の居城、魔王城が燃えている。権力の象徴。力の具現化。魔王城は何千年と続いてきた魔物たちの歴史そのもの。
「う、うう、なんて酷いことをするにゃん!おのれ人間めっ!」
あまりの悔しさに涙が止まらない。
「みゅー、みゅー、みゅぅぅぅ……」
情けないか細い鳴き声が赤く染まった空にこだまする。消滅する直前、わずかに残った魔力を振り絞り体を再構築した。あまりにもか弱い鳴き声に絶望する。これがかつて大陸中を恐怖のどん底に叩き落とした魔王の姿とはっ!いっそあのまま滅びていたほうが……
そうだな。我にはもうなにも残されてはいない。護るべきものも、失うものも、何一つ残されていないのだ……
「ん?ああやっぱり。子猫の鳴き声が聞こえると思った」
潔く消滅しようとしたそのとき、いきなり首根っこを掴まれた。
「にゃにゃ!」
「ああ、ほら、暴れるなって……ん?お前ただの猫じゃないな……弱いけど、魔力の匂いがする……」
スラリと腰の剣を抜く男をみて全身が総毛立つ。
(勇者!おのれ、まだ近くにいたとはっ)
「フウウウゥゥゥゥ!」
戦闘態勢に入った我を放り投げると虫けらのような目で見る勇者。ここまでか。いや、我は誇り高き魔王。最期はやはり勇者と闘って死ぬのが相応しい。
さらば我が魔王城。
さらば愛しき魔族たち。
いつかきっと、新たなる魔王を生み出し再び魔物の栄華を掴むのだっ!
死を覚悟したそのとき
「あ、猫しゃん」
小さな声が響いた
「パパ、猫しゃん!」
(はぁ!?戦場になぜ幼女がっ!)
「こらー、メイ、ダメだろうー?ここは危ないからきちゃ行けませんって言っただろう?パパお仕事中だからね?ちょっと待っててね。今悪い魔物をいないいないするから」
途端にデレデレと相好を崩す勇者。
(くっ、勇者の娘か。こうなればこいつだけでも一矢報いるべきかっ!……いや、止めておこう。女子供を傷つけるなど誇り高き魔王たる我にはできぬ……)
威嚇を解いた我に向かって幼女がずずいっと近付いてくる。
「かわいいね~。よしよし」
喉の良いところを撫でられ思わずゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。くっ!なんたる屈辱!し、しかし、この気持ちよさときたら……
「かわいいー!」
思わず腹を見せた我をここぞとばかりにもふる幼女。その手付きはまさに神懸かっており……逃れることなど……できないっ!
「ん、んにゃぁ~♪ゴロゴロゴロ」
遂に幼女は我をしっかりと抱き上げると高らかに宣言した!
「猫しゃん連れてかえりゅの!」
「ええー?ダメだよメイ。それはここに置いていこうね?ママにめっ!ってされちゃうよ?」
「めっ!やなの!猫しゃんかわいいの!」
「困ったなぁ~」
そう言いつつたいして困った風でもない勇者。完全に親バカと化している。
「パパ。お願い。ね?メイに猫しゃんちょうだい?」
「ぐふっ」
勇者は思わずしゃがみ込むと
「俺の娘マジ天使!お願いきかないとか無理だからっ」
とかのたまっている。ちなみにその間も幼女の手は休むことなく我をもふり続けており、我が幼女の手のもたらす快感にうちふるえていたことは言うまでもない。
「もう~、しょうがないなっ!でもママがダメっていったらダメだぞ」
「パパだいしゅき!猫しゃんメイのお家に帰ろうね?」
そう言うと二人そろって空に舞い上がる。
(なっ!なに!?空を飛んだ!?)
「こわくないよー」
思わずしがみついた我を胸元でしっかり抱き締める幼女。この幼女、ただ者ではないっ!
「ああ、逃げようなんて思わないことだな?メイは勇者の血と聖女の血を受け継ぐリアル天使だからな。その気になればお前のこと一瞬で浄化しちゃうよ?」
(ひっ!ヒイイイイ……)
「だいじょうぶ。猫しゃんいいこ。よしよし」
とんでもないことになってしまった……
◇◇◇
――――魔王城から帰還した勇者を待っていたのは恐ろしい聖気を纏った女神だった。
(な、な、なんでこんなところに天上の女神がいるんだぁぁぁぁ!)
「かわいい~!ほら、ミルクでしゅよー?お肉は食べれるかなー?」
娘と同様に我をもふる女神。
「ねぇ、そいつ魔族じゃない?」
「違うよ?」
勇者の声ににっこりと微笑む女神。
「この子は魔王ね」
「はぁ?やっぱり殺しとく?」
再びスラリと剣を抜く勇者。びっくりした我は思わず女神の膝に飛び乗った。
そんな我を慈愛溢れる笑顔でもふり続ける女神。
ああ、もう、我は……我は……
「この子倒したらまた新たな魔王が誕生しちゃうよ。全ての力を失ったこの子は最弱の魔王。でも、世界の理からこの子が存在する限り新たなる魔王は生まれることができない。だからね、この子は失ってはいけない存在なの」
「パパ、猫しゃんいじめたらめっ!なのよ!」
「そうかそうか~、さすがメイ。賢いなぁー」
さすが女神、世界の理も熟知している。
こうして我は聖女のふりをした女神と、ことあるごとに我を斬り殺そうとしてくる勇者と、神の手を持つ幼女に家族として迎えられた。
魔素を取り込めば多少の魔力は回復するのだろうが、女神たちの高濃度の聖気に常にさらされているせいで一向に魔力は回復せず、いつまでたっても子猫の姿のまま。
しかし、美味しいご飯に暖かな寝床、いつでも優しく抱き締めてくれる暖かい手。
かつてない幸せを前に我はすっかり骨抜きになっていた。もはや抵抗する気力も起きない。
仕方がないではないか。なぜなら我は魔王。怠惰と堕落こそが、我の性分なのだから。
おしまい。
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