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第一章 猫神様のあやかし屋敷
第三話 憑いてますね?
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◇◇◇
「紫苑さん、綺麗だったね!」
「ああ、いい人そうで安心したよ」
家への帰り道、隆と京香は紫苑の話題で盛り上がっていた。
「おじさん顔赤くしちゃって!紫苑さんみたいな美人がタイプだったの?」
「いや、さすがにあんな美人を前にしたら誰だって赤くなるよ」
「言えてる!女の私でもうっとりしちゃったもん」
日はすでに六時にさしかかり、夕日が落ちるとあたりは急に薄暗い闇に包まれる。
「すっかり遅くなっちゃった。この辺街灯がないから暗くなるとなんだか怖いね」
「ああ、夕方辺りが薄暗くなってくるこの時間帯は『逢魔が時』と呼ばれていてね。昔から人を不安にさせるんだよ」
「逢魔が時か……お化けが出そうだよね」
「本当に出るかもなぁ」
「やだやだやだ!私そう言うの苦手なんだからっ」
「ははは、うっ……」
「おじさん?おじさん!どうしたの?」
先程まで何事もなく話していた隆が、突如両手で首を抑えて苦しそうにうめきだす。
「うっ、はぁ、あ、ああ……」
声にならないうめきと共に隆の体から禍々しい黒い煙が立ち上る。
「えっ?嘘、何これ……おじさん!おじさん!しっかりして!」
「か、体が締め付けられるっ……」
「どこが苦しいの!?今、救急車呼ぶからっ」
しかし、あたりは急激に闇に覆われていき、気がつくと目の前がみえないほど黒い霧に包まれていた。
「やだ、いつの間にこんな……おじさん?おじさん!」
『くくっ、くくくっ』
どこからか不気味な笑い声がこだまする。
「だ、誰っ!?」
ユラリと立ち上がったのは隆だった。だが、いつもと様子が違う。力無くダラリと垂れ下がった両手にグニャグニャと揺れる足、そして、血のように赤い瞳。
「お、おじさん?」
『くくっ、くくくっ、ようやく、ようやく見つけた……我が依り代よ……神子の末裔よ……娘よ、神にその身を捧げられること、光栄に思うがいい……』
隆はゆっくりと京香に手をのばすと、そのままあごを掴み上に持ち上げる。隆の物とは思えない凄い力で一気に京香の体が宙に浮かぶ。
「う、ぐぅっはぁ……」
苦しくて息ができない。それと同時に、何かを吸い取られていくように体から力が抜けていく。
(おじさん、どうしちゃったの……神って、神子って……一体……)
徐々に意識が朦朧としてくる。隆の顔をした何かが大きく口を開く。びっしりと生え揃った鋭い牙。まるでスローモーションのように京香の首筋に牙を突き刺そうとしたそのとき、
「神だなんて、よく恥ずかしげもなくそんな嘘つくな」
禍々しい空間を切り裂くように光の筋が煌めいた。
(だ……れ……)
『ぐっうう、なんだ貴様は……』
「聞いてどうする?雑魚が。大人しく自分のねぐらに帰るんだな」
『くくっ、せっかく手に入れた神子を手放すと思うか?……ああ、力が満ちる……』
その瞬間、隆が完全な化け物に変化を遂げた。禍々しい赤い目はそのままに、口は大きく横に裂け、チロチロと長い舌を出す様子はまるで大きな大蛇のようだった。
「ちっ……」
その男は小さく舌打ちしたかと思うと、隆の姿をした化け物の背後に音もなく近付く。
『なっ、いつの間に……』
「おせぇよ」
男が両腕をクロスさせたかと思うと、再び眩い光が闇を切り裂いた。
『この、力は、お前は……』
隆の身体にまとわりついていた闇が霧散していく。隆が、音もなく崩れ落ちると同時に、京香も手を離される。落ちる、と思ったそのとき、
「おっと」
男が京香を抱き留めた。
「あ……」
なんとか声を出そうとするが、かすれてしまう。
「酷いことしやがる。ああ、しゃべんな。大丈夫だ、喉はつぶれちゃいない」
男が京香の喉を優しく撫でる。見たことのない男だ。驚くほど整った顔に、少し長めの黒い髪。黒尽くめの服装はかえって男の容姿を際立たせていたが、何よりも特徴的なのはその瞳だった。闇に輝く金色の瞳。まるで、猫みたいな……
「だ、れ……」
「しゃべんなって言っただろ?」
男は京香をそっと横抱きにすると、そばに倒れている叔父に近付く。
「こっちも問題ねえな。もう少し遅かったら完全に取り込まれてたかも。危なかったな」
(おじさん、良かった……)
安心したと同時に京香はそのまま気を失ってしまった。
◇◇◇
「やれやれ、間に合ったようじゃのう」
「ま、雑魚だな」
「大方どっかの神社に住み着いていた蛇の類じゃろう。自らを神と勘違いするとは愚かな」
「まぁ、本気で神子を取り込んでたらやばかったかもな」
「まさか神子の家系がここまで落ちぶれとるとはのう。身を守る術も持ち合わせてないようじゃし」
「叔父さんは違ったからな。見つかった神子は京香だけか……」
「今回は小物じゃったが、力あるあやかしが神子を取り込めばとんでもないことになるじゃろう……」
「させねーよ。俺が守るからな」
「頼んだぞ、紫苑」
「ああ、大事な俺の花嫁だからな」
「紫苑さん、綺麗だったね!」
「ああ、いい人そうで安心したよ」
家への帰り道、隆と京香は紫苑の話題で盛り上がっていた。
「おじさん顔赤くしちゃって!紫苑さんみたいな美人がタイプだったの?」
「いや、さすがにあんな美人を前にしたら誰だって赤くなるよ」
「言えてる!女の私でもうっとりしちゃったもん」
日はすでに六時にさしかかり、夕日が落ちるとあたりは急に薄暗い闇に包まれる。
「すっかり遅くなっちゃった。この辺街灯がないから暗くなるとなんだか怖いね」
「ああ、夕方辺りが薄暗くなってくるこの時間帯は『逢魔が時』と呼ばれていてね。昔から人を不安にさせるんだよ」
「逢魔が時か……お化けが出そうだよね」
「本当に出るかもなぁ」
「やだやだやだ!私そう言うの苦手なんだからっ」
「ははは、うっ……」
「おじさん?おじさん!どうしたの?」
先程まで何事もなく話していた隆が、突如両手で首を抑えて苦しそうにうめきだす。
「うっ、はぁ、あ、ああ……」
声にならないうめきと共に隆の体から禍々しい黒い煙が立ち上る。
「えっ?嘘、何これ……おじさん!おじさん!しっかりして!」
「か、体が締め付けられるっ……」
「どこが苦しいの!?今、救急車呼ぶからっ」
しかし、あたりは急激に闇に覆われていき、気がつくと目の前がみえないほど黒い霧に包まれていた。
「やだ、いつの間にこんな……おじさん?おじさん!」
『くくっ、くくくっ』
どこからか不気味な笑い声がこだまする。
「だ、誰っ!?」
ユラリと立ち上がったのは隆だった。だが、いつもと様子が違う。力無くダラリと垂れ下がった両手にグニャグニャと揺れる足、そして、血のように赤い瞳。
「お、おじさん?」
『くくっ、くくくっ、ようやく、ようやく見つけた……我が依り代よ……神子の末裔よ……娘よ、神にその身を捧げられること、光栄に思うがいい……』
隆はゆっくりと京香に手をのばすと、そのままあごを掴み上に持ち上げる。隆の物とは思えない凄い力で一気に京香の体が宙に浮かぶ。
「う、ぐぅっはぁ……」
苦しくて息ができない。それと同時に、何かを吸い取られていくように体から力が抜けていく。
(おじさん、どうしちゃったの……神って、神子って……一体……)
徐々に意識が朦朧としてくる。隆の顔をした何かが大きく口を開く。びっしりと生え揃った鋭い牙。まるでスローモーションのように京香の首筋に牙を突き刺そうとしたそのとき、
「神だなんて、よく恥ずかしげもなくそんな嘘つくな」
禍々しい空間を切り裂くように光の筋が煌めいた。
(だ……れ……)
『ぐっうう、なんだ貴様は……』
「聞いてどうする?雑魚が。大人しく自分のねぐらに帰るんだな」
『くくっ、せっかく手に入れた神子を手放すと思うか?……ああ、力が満ちる……』
その瞬間、隆が完全な化け物に変化を遂げた。禍々しい赤い目はそのままに、口は大きく横に裂け、チロチロと長い舌を出す様子はまるで大きな大蛇のようだった。
「ちっ……」
その男は小さく舌打ちしたかと思うと、隆の姿をした化け物の背後に音もなく近付く。
『なっ、いつの間に……』
「おせぇよ」
男が両腕をクロスさせたかと思うと、再び眩い光が闇を切り裂いた。
『この、力は、お前は……』
隆の身体にまとわりついていた闇が霧散していく。隆が、音もなく崩れ落ちると同時に、京香も手を離される。落ちる、と思ったそのとき、
「おっと」
男が京香を抱き留めた。
「あ……」
なんとか声を出そうとするが、かすれてしまう。
「酷いことしやがる。ああ、しゃべんな。大丈夫だ、喉はつぶれちゃいない」
男が京香の喉を優しく撫でる。見たことのない男だ。驚くほど整った顔に、少し長めの黒い髪。黒尽くめの服装はかえって男の容姿を際立たせていたが、何よりも特徴的なのはその瞳だった。闇に輝く金色の瞳。まるで、猫みたいな……
「だ、れ……」
「しゃべんなって言っただろ?」
男は京香をそっと横抱きにすると、そばに倒れている叔父に近付く。
「こっちも問題ねえな。もう少し遅かったら完全に取り込まれてたかも。危なかったな」
(おじさん、良かった……)
安心したと同時に京香はそのまま気を失ってしまった。
◇◇◇
「やれやれ、間に合ったようじゃのう」
「ま、雑魚だな」
「大方どっかの神社に住み着いていた蛇の類じゃろう。自らを神と勘違いするとは愚かな」
「まぁ、本気で神子を取り込んでたらやばかったかもな」
「まさか神子の家系がここまで落ちぶれとるとはのう。身を守る術も持ち合わせてないようじゃし」
「叔父さんは違ったからな。見つかった神子は京香だけか……」
「今回は小物じゃったが、力あるあやかしが神子を取り込めばとんでもないことになるじゃろう……」
「させねーよ。俺が守るからな」
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「ああ、大事な俺の花嫁だからな」
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