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第1章 はじまりの準備
2 王女様の悩み
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「お城の外でやりたいことがあるの」
いつになく真剣な表情で訴えてくるティアラにアンナは首を傾げた。身体を動かすことが好きなティアラは、淑女教育の中でもダンスのレッスンが特にお気に入りだ。ダンスのレッスンで釣られないなんて、普段では考えられないことだった。アンナはふむ、と考える。
「そうでございますね。それではきちんと護衛を付けた上でなら許可しましょう」
アリシア王国の王族は比較的自由な行動が許されており、王族がふらっと街に視察にいくことも珍しくない。しかし、まだ幼いティアラは単独で行う公務もないため、街に出掛ける機会は殆どなかった。アンナの言葉にティアラは目を輝かせる。
「いいの!?」
ティアラが身を乗り出したそのとき、
「ティアラ、街に行きたいのか?だったら今から一緒にいくか?」
声の方を振り向くと、騎士団の赤い制服を纏ったアデルが4~5人の騎士達と一緒にこちらに歩いてくるところだった。
「アデルお兄様!」
「アデル様!」
「今騎士団の朝訓練が終わったところなんだが、これから新しくできた孤児院の慰問にいこうと思ってたんだ」
「新しくできた孤児院……カミールお兄様が提案してできたって聞いたことあるけど、私がご一緒してもいいの?」
「ああ、他の孤児院の慰問なら以前にも母上と一緒に行ったことがあるだろう?カーク、父上に伝言頼む」
「はっ」
アデルの指示を受けた騎士のひとりが無駄のない動きで素早くそばを離れていく。こうなるともう何を言っても無駄だろう。仕方ない。アンナはふぅ、と溜め息をついた。
「姫様、ダンスのレッスンはどうしますか?」
「レッスンは午後からでしょう?それまでに帰ってくるから……お願い!」
アンナもなんだかんだ言ってティアラを溺愛するひとりである。ティアラの母である王妃の乳姉妹であり、王妃の嫁入りのときに侍女として共に王宮にあがった。以来、王妃の信頼厚い侍女長として、王子、王女たちのマナー教育の責任者でもある。
ただ、他国や自国の貴族に侮られないように立派な淑女に育て上げなければと思う反面、子どものうちは子どもらしく伸び伸びと育ってほしいという気持ちもあった。ティアラの場合は少々伸び伸びしすぎているような気もするが。
ここ最近確かに学習時間が増えたせいで城外に出かける機会が減っている。淑女教育は1ヶ月前と比べると1日3時間は増えているのだ。これは、1ヶ月前に8才の誕生日を迎えたティアラが、第三王女としてやがて他国に嫁ぐことも視野に入れた結果、周辺諸国の歴史や情勢などの教育時間を増やしたためだ。
街に出ることで少しは息抜きになるのではないか。まあ、森に行くわけではないのでそうそう危険なことはない、はずである。そう思うと強く反対できないのであった。
「街で歩かれた後ではお疲れになるでしょう。仕方がありませんね。今日のレッスンはお休みしてもかまいません。先生には私からお詫びを申し上げておきます。ただ姫様、くれぐれも大人しくなさってて下さいね。決してアデル様や騎士たちのおそばを離れてはなりませんよ。街ではどんな危険があるか」
「アンナってば、心配症ね。でもありがとう!大好きよ!」
ティアラにとって小さな頃から仕えてくれているアンナはもう1人の母のような存在だ。危ないことや悪いことをしたときは姫と言えど容赦なく叱責されるが、深い愛情を持って叱ってくれているのがわかるだけに逆らえない。
「何かあっても兄ちゃんが守ってやるから大丈夫だ。なんなら街を歩くときは俺が抱いててやろう」
そういうなりティアラを抱き上げギュウギュウと抱き締めてくるアデル。
「アデルお兄様苦しい……ちゃんと一人で歩けます!」
「そうか?でも疲れたらすぐに言うんだぞ」
とりあえず城の外に出られることになり、ティアラはほっと胸を撫で下ろした。
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