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12 私、王妃にはなりませんっ!
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「アル様!お待たせしました!」
サリーナは部屋のドアを少し開けると、ドアの前で座り込んでいたアレクサンドルに、声をかけた。
「サリーナ様!ドアは私が開けますからっ」
浴室の片付けをしていたリアナが慌てて駆け寄ってくるが、またアレクサンドルに乱暴を働きそうだったので、リアナが離れているすきにドアを開けたのだ。
「だって、リアナはアル様、アレクサンドル様に酷いことするんだもの」
「この変態には当然の処置です」
「リアナ、アレクサンドル様は私の恩人なの。酷いこと言わないで?」
「サリーナ様はこの変態に甘過ぎます!もっと厳しくしないと、今後何をしでかすかわかりませんよ!?」
「いや、普通にもう心が折れそうなんだが……」
「ふんっ!軟弱なっ」
「ええー……」
二人のやり取りをサリーナはオロオロしながら眺めていた。なんとか二人を止めようとして、適当な会話を探す。
「それよりアル様、お久しぶりです。お仕事が忙しかったのですか?」
「あ、ああ。サリーナは、体調はどうだ?辛いところはないか?」
「はい!エレン先生のお陰ですっかり元気になりました!」
「良かった……今日は、サリーナに謝りたいと思ってきたんだ」
アレクサンドルの真剣な眼差しにサリーナは首を傾げる。
「謝る?何をですか?」
「俺は、サリーナのことを誤解してひどいことをいった。全ては俺の間違いだった。許して欲しい。」
「ひどいこと?」
「サリーナのことをひどい言葉で侮辱してしまった。おまけに、怖がらせるためだけに、後悔させるためだけに、我が国にありもしないハーレムで、奴隷にするとまでいった。最低だ。」
「そう……そうなのですね」
「俺を、許してくれるだろうか?」
サリーナはにっこりと微笑む。
「許すも何も。アル様に言われたことで怒ったことなどありませんわ」
「俺は、お前に、ひどいことを……」
「ダルメールでは、もっとひどい言葉で罵られ、お仕置きを受けることが当たり前でした。私は、王族という名の奴隷でしたから。だから、アル様が私を奴隷にするといってここに連れて来られたときも、なんとも思いませんでした。またかって思ったくらい」
「……」
「ただ、お腹がとても空いていたから、ここではご飯が貰えるといいなって。本当に、それだけ考えていたんです。」
「そんなの、当たり前のことだ」
アレクサンドルが辛そうに顔を歪める。
「当たり前のことが、私には当たり前じゃなくて。奪われるだけ奪われて、私は空っぽの存在でした。生きる理由も、希望もなかったから、全てがどうでも良かったんです」
「そんなの、間違ってる」
「そうですね。そうかも知れませんね。私の当たり前はここでは当たり前ではありませんでした。私をここに連れてきて下さったこと、心から感謝しています」
サリーナはにっこりと微笑んだ。それは、なんの曇りもない爽やかな笑顔だった。
「サリーナ……俺を、許してくれるのか?」
アレクサンドルがサリーナに近づく。
「怒ってなどおりませんわ」
うなずくサリーナをアレクサンドルは力いっぱい抱きしめた。
「ありがとう!ありがとうサリーナ!」
誰よりも美しく優しいサリーナ。誰もが顔を歪めて罵る傲慢な自分の過ちすら、笑顔で許してくれるサリーナ。アレクサンドルは思った。サリーナこそ女神に違いないと。
自分は間違っていた。自分のほうがよほど子供だった。子供じみた理由で相手の大切なものを奪い取ろうとする、最悪のガキだ。
「サリーナ、サリーナ。俺の女神。俺は、お前を愛している!どうか、俺と結婚してほしい」
「え?……結婚ですか?」
急にすっと体を引いたサリーナにアレクサンドルは慌てる。
「俺とサリーナは、元々婚約者だったんだ。俺と婚約を結んでおきながら、他の国にもサリーナとの結婚を匂わせて金銭を巻き上げていたダルメールが許せなくて、あんなことを……」
「お父様がそんなことを?」
「あ、ああ。サリーナが関わっていなかったことなど、ちょっと調べればわかったはずなのにな。」
「そう……そうですか」
「安心するがいい。ダルメールは滅び、いまや我が国の領地となった。領民となったダルメールの民が安心して暮らせる環境を整えているところだ」
「……」
アレクサンドルはサリーナの足元に跪くと右手を差し出した。
「サリーナ、どうか我が妃となって、この国を一緒に治めてほしい。」
「……嫌です」
「……えっ?」
「嫌です!私、王妃になんてなりたくありません!」
「えっ……」
アレクサンドルはあまりのショックに固まってしまった。
「失礼します!」
固まったアレクサンドルのそばをすり抜け、走り出すサリーナ。
「あ!サリーナ様!急に走ると危ないですよ!」
そばでニヤニヤしながら二人の様子を観察していたリアナは、急に走り出したサリーナを慌てて追いかけていく。
(ふ、ふられた、のか?……)
後には呆然と立ち尽くすアレクサンドルだけが残された。
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